第二部 急襲
「よっしゃ、さっさと行こうぜ!!」
俺と柳が昼飯を食べ終えたのを見た相良が勢いよく立ち上がる。
今にも走り出しそうな雰囲気を出しているこいつに押されるように、俺たちも席を立って相良の後についていく。
「で、どこのクラスなんだよ?」
「あぁ、一組だ」
「相良、あんまり時間ないから手早くね」
「わーかってるってー」
昼飯を食べた後だから、正味十分程度しか時間がない。
まぁ、相良が忘れていても柳がちゃんと止めるだろう。
俺はのんびりと転校生観察でもさせてもらうさ。
「しっつれいしまーっす! 転校生さんは居ますかー!?」
一組のドアを開けた瞬間にクラス中に響くほどのでかい声を出した相良。
そのままずかずかと奥に進んでいき、朝に見つけたのだろう一人の女子の前で止まった。
「やっほ、あなたが転校生の水城麗奈さんだよね?」
「はぁ、そうですけど…」
突然現れた得体のしれないスポーツマンに若干引き気味の転校生さん。
確かに朝聞いた通り、長い髪と目が特徴的な人だ。
「俺は三組の相良秀馬。この学校のことは裏の裏まで熟知してるから困ったことがあったらなんでも言ってくれ!」
「水城麗奈です。よろしくお願いします」
恥ずかしいことを言う相良に対して、ニコリともせず淡々と返事をする水城さん。
なかなかの強者なのかもしれないな。
「で、こっちが柳相馬。生徒会の役員だから学校の内部事情にも詳しいんだよ?」
「柳相馬です。以後お見知りおきを」
絵画のごとく優雅に頭を下げる柳。
「そんで、あれが八神真。家が神社ってだけの至って普通の奴だ」
「おい、もっと他になんかないのかよ…。はぁ…八神真です、よろしく」
相良にツッコんでから転校生に向き直り、会釈程度に頭を下げる。
「……どうした?」
それまで適当に俺たちを見ていた転校生だったが、俺の名前を知ったからかこっちをずっと見ている。
「あなた…八神一族の人間ね」
「まぁ、そうだけど」
俺の目を見ているというよりは何かを見透かされてるような感覚に、少し疑問を抱く。
「それがなにか――」
「おーい、そろそろ授業が始まるぞー」
俺の言葉を遮ったのは次の授業の先生。
社会の先生なんだが、若いしいつも冗談を言ってくれるから俺たちもとっつきやすい。
「あれ、先生、早くないっすか?」
「岡野先生から相良が来るかもしれないと聞いたんでね。少し早いけど来てみたんだ」
「くっそ、岡野の野郎…」
「予想通りの行動してる自分が恥ずかしくないか、相良?」
「さすが岡野先生、相良を熟知していらっしゃる」
柳の感心しているポイントがおかしいのは放っておいて、自分たちもその一員であることになんか落胆してしまう。
「まぁ、もう用は済んだんだし、おとなしく教室に帰ろうぜ?」
「ちっ、しょうがねぇなぁ」
いまだこちらを見ている転校生が気になったが、もうすぐ授業が始まるから相良の腕を引っ張って教室に帰るとしよう。
しかし、教室に帰ったら帰ったで授業開始まで数分しかないというのに相良がうるさいうるさい。
例の転校生が俺に注目していたのをしつこく聞いてくるし、柳もそれに乗っかって攻めてくるし。
俺は彼女のことなどなんにも知らないんだが、アレの所為で全く信じてもらえない。
結局、不貞寝を決め込んだ俺は授業中もそのまま過ごして下校時間を迎えた。
「八神、今日は掃除当番だね」
「あっ、そうだった。めんどくせーなー」
「まっ、頑張れや。俺たちは帰ろうぜ、柳」
「うん、行こうか」
いそいそと掃除の準備をする俺を尻目にさっさと帰っていく相良と柳。
しかし、あの二人だと何を話しながら帰るんだろうか…、正直なんにも想像ができない。
「まぁ、相良のアホな話に柳が付き合わされるだけか」
適当な妄想を膨らませたがなんにも楽しくないので一旦忘れることにして、当番としての役割を果たすことにした。
「はぁー、すっかり遅くなっちまった」
下手にこだわる奴がいると困るね。
そんなにきれいに机並べたって明日にはバラバラになるっつーの。
「腹減ったー、さっさと帰ろう…」
―キーー…ン―
「くそっ、またこれかよ…」
突然頭の中に鳴り響いた不快な音。
これまで感じたものよりもさらに鋭くなってきている。
少しずつ慣れてきている自分が恨めしいが…。
「なんだ? 何か近づいてるのか?」
以前にも何かが動いている感覚を感じたことがあったが、今回はそれがさらに顕著になっている。
頭に鳴り響いた音とともに俺を圧迫する何かがとてつもないスピードで近づいてくる。
「と、とにかく逃げなきゃ!」
正体が分からないが危機感だけを感じ取った俺は、家に向かって必死に自転車を漕ぐ。
しかし、それ以上の速さでそのなにかが迫ってくる。
『見つけたぞ、紅の後継者!!』
「なんなんだよ、それ!!?」
すぐ後ろから声が聞こえたと思ったら、目の前が突然砂埃で見えなくなった。
同時に起こった地震のような振動で自転車から転げ落ちる。
「な、なんだ…これ?」
風が砂埃を振り払った後に見えてきたのは巨大な生物。
真っ赤な甲殻に身を包み、両手には大きな鋏、尻尾は鋭く尖っている。
『ようやく見つけたぞ、さぁ俺と闘え!!』
そういって突然鋏を振り下ろしてくる。
闘えと言われてもそれをできる武器もないし、今は混乱して何も考えることができない。
ただ自分に迫ってくる鋏から逃れようとすることしかできない。
「うわぁあぁぁ!!」
なんとか直撃は免れたものの、道路にめり込むほどの衝撃で吹き飛ばされた。
「ちくしょう、体が…」
『ふん、終わりだな』
受け身が取れなかったせいで着地の衝撃を全て受けてしまい、思うように体を起こすこともできない。
その間にも奴が迫り、再び巨大な鋏が俺に迫ってくる。
…あ、死んだ――。
直感で分かるこの感覚、迫ってくるものに対して成す術がない俺。
そしてこれが直撃すれば俺は間違いなく――。
「じっとしてなさい」
刹那に聞こえた声、それは俺を包み込むような風とともに現れた。
『ぐぉおおぉぉ!!』
そして突然響いた奴のうめき声、すぐに聞こえた何かが落ちる音に目を向けるとそこには俺に迫っていた鋏があった。
俺が無意識に向けた視線の先には、助けてくれたのであろう少女。
「大丈夫?」
ゆっくりと振り向いたその姿を見て俺は驚愕した。
腰まである長い髪、細身でスラッとした容姿、そして…整った顔に強気そうな目――。
昼間に初めて出会った転校生――水城麗奈がそこに居た。
いかがでしたでしょうか?
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さて、水城麗奈の正体は? 真に目覚めた能力とは?
これから続くお話にこうご期待ください!!