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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第二十章 真と親父と斬神界
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第一部 不安

ついに斬神界に向かって出発した真たち。

その先に待つ修行とは一体どのようなものなのか…。

流刃宰が主役の第二十章をお楽しみください!!

「真っ暗だな…」


ふと漏らした俺の感想が静かに木霊する。

もっと巨大生物の中かと思えるほどうねっていたりするのかと期待していたが進めている足に聞いてもそんなことはないらしく、固い地面がそこにある。

きっと岩石が剥き出しになっている洞窟のようになっているんだろうな。

ただ灯りが一切ないのが嫌だね。

皆の足音を頼りに歩いているから大丈夫なんだろうけど、どこが出口なのかも全く見えない。


――よし、


「親父」


「んー?」


きっと先頭を歩いている親父に声を掛ける。

返事が聞こえたと同時に前からの足音が消え、声が反響していることから、多分親父は足を止めてこっちを見ているんだろう。


「灯りはなんとかならないのか?」


親父が居るであろう方に向かって空気を振動させる。


「あ、そうか。皆は見えないんだっけ。ごめんごめん」


きっと手をチョップするときみたいな形にして顔の前に当てているに違いない。

そのあとすぐにパチンという音が聞こえ、


「おっ、明るくなった」


それと同時に小さな火の玉が俺たちの両側に出現し、これまで歩いてきた道とこれから向かう先までの道程にズラリと並ぶ。

一瞬目を痛めたすぐ後に見えた光景はほぼ予想通り。

鍾乳洞のように岩石剥き出しの洞窟、ところどころに鋭く尖った氷柱のような岩が吊り下がっている。

ただ、見上げてもその岩柱がどこから始まっているのかが全く見えない。

どんなに目を凝らして見ても、視界に映るのは黒い霧で覆われているのかと思えるほどの闇。


「もっと異界っぽいものを想像していたんだけど、そうでもないんだね」


そう言って、視線を下した俺の視界にひょっこりと顔を出したのは柳。


「あぁ、俺もそう思った」


その意見には俺も大いに同意する。


「はっはっは、異界と聞いて浮世離れしたものを想像するのは分かるが、実際には人間界も斬神界も焔界もその世界を構成する要素に特別なものはほとんどない。全く異なる世界だったら三つの世界の差が激しくなって均衡を保つのが大変になるからね」


腕に手を当てて俺と柳の会話を笑顔で見ていた親父が珍しくまともに説明してくれた。

親父はさっと踵を返して再びゆっくりと目的地である斬神界に向かって足を進め、


「さっ、行こうか」


それぞれ物珍しそうにこの空間を眺めていた俺たちも同じ速度で親父の背中を追いかけた。

しかし、どんだけ行く先に目を凝らしても出口が見えない。

ただ闇に向かって歩いて行く。

仕掛けが待っている遊園地のお化け屋敷よりも、何もないただの闇という方が逆に恐怖に駆られる。

そんなことを考えてしまった所為か、


「親父、いつになったら斬神界に着くんだ?」


気付いたら親父の背中に向かって話しかけていた。


「んー、久しぶりに道を作ったから分からんな」


足を止めた親父はこちらに振り返り、


「よし、皆、もう少しこっちに来て固まってくれるかい?」


手招きして俺たちを自分の元に呼び寄せた。

言われるがままに親父から半径二メートル程の距離に集まる。


「それじゃ、行くよ」


親父がニッと笑ったと思ったら、


「うわっ」


「きゃっ」


「わっ」


「まっ」


俺たちの体が突然宙に浮いた。

体が上下逆さまになるようなことはなく、高さも俺の膝辺りまでだったから良かったものの、唐突に地面の感覚がなくなったことでバランスを崩して転びそうになった。


「さぁ、斬神界に向かって出発だ!」


よく見ると親父も浮いていた。

ただ、俺たちと違って慣れているのだろう。

特にバランスを崩すこともなく、初めての感覚に戸惑っている俺たちをまるで自分の子供を見るように穏やかに見つめている。

いや、約一名は本当の子供なんだけどさ。


「そーりゃっ!」


「うおっ!!?」


掛け声とともに親父は勢いよく進行方向に向かって振り返り、それと同時に大きく口を開けて待っている闇へと突き進む。

俺たちは親父に見えない鎖で繋がれているかのように引っ張られ、自分の意志とは全く関係なしに体が進んでいく。

少し前傾姿勢になりながら飛んでいる感覚は昔テレビで見たヒーローものの番組を思い出してしまう。


「ははは、どうだ? 力を解放した私にとってはこんなこと造作もないことさ」


先頭で悪戯っ子の視線だけをこちらに向けて話す親父。

街中で走る原付スクーターぐらいの速度で進んでいるので是非ともよそ見は止めて欲しい。

あー、まぁでも事故るのは親父だけだからいいかな…。




――ん?




急に俺の頭に疑問が浮かんだ。


「親父、もしかして初めから飛べたんじゃないのか?」


バランスを取るのに必死になりながらなんとか親父に向かって声を出す。


「あはは、よく気付いたな、真!」


今度は体ごと振り返って空中で器用に腕を組んで俺を見てくる親父。

だから、前見ろって、前!


「じゃあ、最初から飛ばんかい!!」


こっちも器用な体勢で思わず突っ込んでしまった。

しかし、親父は気にする様子など全く見せず、


「ちょっとしたお茶目じゃないか。父さんの心情を察して欲しいなー」


「こんのクソ親父ーーーーー!!!!!」


悪戯顔に更に拍車をかけて俺を見てくる。

蝋燭程の明かりが果てなくも見える闇道を照らしている中、俺の渾身の突っ込みが響き渡った。






「さぁ、もうすぐ着くぞ」


真面目に前を向いて時速二十キロぐらいの速度で俺たちを引っ張ってくれている親父、まともに飛んではいるがその頭には特大のタンコブを乗っけている。

もちろんやったのは俺。あまりにふざけてるんでちょっと鉄拳制裁を加えておいた。

こんなことを簡単にやってしまう所為か、親父が時々友達のように思えてしまう。


「あっ、光が見えてきた」


腕を組んで親父に引っ張られている俺の視界に、親父が作り出した灯り以外の光が入ってきた。

まだ点にしか見えないから到着するにはまだ少し掛かりそうだ。


「親父、斬神界ってどんなところなんだ?」


出口であろう光の点を見つめながら親父に尋ねる。


「とてもいいところだよ。特に私は広大な敷地内の屋敷に住んでいて、仕えてくれる者も良き者ばかりだ」


前を向いたまま、優しい口調で返事をしてくれる親父。

その背中を見ていると、二十年振りに帰る我が家を本当に懐かしんでいるみたいだ。


「まっ、残念ながら可愛い女の子は居ないけどな!」


「前見んかい!!」


「あだっ――!!」


故郷を懐かしんで憂いを帯びていたであろう顔を崩してまたよそ見運転をしようとしたので、こっちに顔が向いた瞬間にその顔のど真ん中にグーをめり込ませた。

完全に油断していた親父はにやけた顔のままもろにダメージを受けて顔を手で覆った。

しかし、それでも俺たちの体は止まることなく徐々に大きくなってきている光の点に向かって進んでいく。


「お…おぉ、真。今のは効いたぞ…――」


「よそ見をしようとするからだ」


腕を組んで定位置に戻る俺。

親父はというと痛めた顔面を手で擦りながら、じいちゃんに怒られた後みたいにはにかんでいる。

しかも、まだこっち向いたままだし。はぁ、まーもういいか。なんか事故に遭うことはなさそうだし。

とりあえず今は斬神界に無事に到着することだけを考えよう。

俺はひとまず深い溜め息を一つ吐いて呆れた感情を外に向かって流しておいた。

親父は俺に一瞥をくれた後、再び前に向き直りやっとまともに引率者を演じてくれる気になったのかもはや何も語らずに目的地まで誘導してくれている。

しかし、親父も神ならもうちょい威厳を持ってもらいたいもんなんだが、どうも親父という所為か感覚が…。

他の皆をチラリと見てみるが、俺たちのやり取りに柳と宮野さんは苦笑しているし、麗奈は大した興味を持っていないような感じでただ前だけを見ていた。


斬神界か…。親父は二十年という長い間、姿をくらましていたのにこんな形で急に現れてどういう扱いを受けるんだろうか。

親父の弟子が神として斬神界に君臨していると土龍は言っていたけど、それってどんな奴なんだろうか。

親父になりからって神となったことで親父が作り上げてきた斬神界を滅茶苦茶にしていたりしないんだろうか。


ふと、そんな不安が湧く。

前で引率してくれている親父の背中を眺めてもそれが解決するわけじゃないけど、その後ろ姿は自分の故郷に帰り、仕えてくれいている皆に再び会える喜びを俺に伝え、心配している不安は一切見えなかった。

そもそも人間がそんな世界に軽々しく足を踏み込んでしまっていいのだろうか。

どこかの小説とかだと違う世界にその世界以外の人間が入った場合、世界のバランスが崩れて大変なことになってしまうというのを良く聞く。

あくまで物語だけど。でも、もはやその物語の世界に浸っている自分のことを考えるとこんなこともありそうな話だ。

そんなことになってしまったら斬神界に入った瞬間に人間界におかえりなさいとなりそうで嫌だね。


「さぁ、いよいよ斬神界だ!」


親父の声にふと前を見てみると、さっきまで手の平ほどの大きさに見えていた光の点が、人一人が優に通れるほどまで大きくなっている。


「一気に行くぞー!!」


原付程度の速度だったのが中型二輪ぐらいの速度になって俺たちは為すがままに光の中に向かって突き進んでいく。

そして、光が全員をすっぽりと覆い尽くすぐらいに広がった時に俺の視界は真っ白に包まれ――


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