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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第二章 碧との出会い
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第一部 邂逅

異形の感覚に襲われた真。

果たしてそれは霊力が目覚めた証なのか?

そして、相良に連れられて出会った転校生――彼女が真に言い放った言葉の意味とは…?


出会いに溢れた第二章をお楽しみください!!

『目覚めよ…』


「誰だ…?」


『汝は我が主なり…』


「何言ってんだ……?」


『まもなく奴が甦る…』


「奴………?」


『我とともに大いなる闇を斬り裂かん…』



―ガバッ―



「……夢…か?」


突然重低音の声が頭に響き、俺は一気に体を起こした。

カーテンの隙間から差し込む太陽の光とスズメの鳴き声で今が朝だということは分かったが、さっきまでこだましていた声に現実なのか夢なのかを疑ってしまう。


「…俺の部屋……だよな?」


思わず周りに視線を走らせたり、自分の頬を軽くつねってみる。


…うん、痛い。


ひとまずここは現実世界のようだ。


「…なんなんだよ、昨日から……」


新学期早々の不快な音といい、姿の見えない声といい、明らかに自分に異変が起きている。

神社に生まれながらこれまでの人生で心霊現象に襲われたことなどなかったから、当然のごとく戸惑いを覚えている。


「一体何が――」


「おっはよー、お兄ちゃん!!」


蹴破るぐらいの勢いで開かれたドアから、真新しい制服に身を包んだ琴音が入ってきた。

手の平を額に付いて考え込んでいた頭に甲高い声が響き、一瞬にしてそれまで巡らせていた思考が吹き飛んでしまった。


「今日も元気に……ってあれ、どしたの?」


「琴音、頼むからノックを覚えてくれ…」


「もー、せっかく起こしにきてあげたのにー」


ベッドに身を乗り上げて俺の顔を覗き込んでくる琴音。

俺はいぶかしげな顔をそのままにして琴音の顔を押し返すと、ベッドから立ち上がった。


「ほら、もう飯なんだろ? 先に下に行ってな」


「はーい」


ベッドから降りて制服を整えてから部屋を出ていく琴音。

それを見届けてから制服に着替えた俺は階段を下りてみんながいるリビングに向かった。






「おはよう」


「はい、おはよう」


「おぉ、おはよう」


テーブルにはすでに朝食が並べられ、母さんとじいちゃんもまさに食べようとしていた。


「なんだか最近物騒ねぇ…」


母さんの声に反応して思わずその視線の先を追ってしまう。

そこにはテレビがあって朝のニュースが流れていた。


『ここ数日発生している謎の破壊事件ですが、昨日また新たな事件が起こりました。こちらがその現場です』


現場で実況しているアナウンサーが紹介すると、カメラが悲惨な破壊現場を映しだした。

幸い道路ではなく、人気のない広場のような場所だから被害者は居ないようだが…。


『今回の事件が発生した時間、付近の住人が偶然にもそのときの様子をカメラに収めていました。こちらがその写真なんですが、巨大な何かともう一つ、碧色の何かが写っています』


写真を引き伸ばしたボードをカメラに見せ、指をさして説明するアナウンサー。

暗闇の中の写真だが、確かに巨大な何かとその周りを飛んでいる碧色の筋が一つ写っていた。


『現在、復旧作業とともに専門家にも意見を伺うなど事態の解明に向けた活動が行われており――』


「真君も琴ちゃんも気をつけてね」


「ふぉっふぉっ、まぁ神社には結界を張っておる。この中に居る限りは大丈夫じゃろうて」


「はーい!」


「うん…」


元気に手を挙げる琴音とは対称的に俺はまだテレビを見ていた。

理由はただ一つ、さっき映った現場が俺の帰り道のすぐ近くで、何かが近づいてくるあの感覚が出た場所だからだ…。


「やっぱりあれと何か関係が…」


「どうしたの、真君?」


いつまでもテレビを見ていることを不審に思ったのか、母さんに心配そうな声で話し掛けられる。


「いや、別に。いただきまーす」


適当に返事をして朝食に手を付ける。

母さんはまだ少し何か言いたそうだったが、口をつぐんで今度は琴音と話していた。






「ごちそうさま。じゃあ、いってきます」


「あ、待ってよ、お兄ちゃん」


「親父のところに行くから、その間に準備しな」


鞄を持っていつものように親父に手を合わせに行く。


そういえば親父には霊的な力はなかったんだっけ。


仏間への道すがらそんなことをふと思い出していた。


「親父、とうとう俺にも霊的な力が目覚めちまったのかもしれねぇ」


親父に向かって手を会わせ、昨日起こったことを報告する。


これで本当に霊的な力が目覚めたら親父の霊でも見えるようになるのかな。


「まぁ、それならそれでいいかもしれないな」


くだらないことを呟いて琴音が待つ玄関に向かう。

今日も桜舞ういい天気で、神社に飛んでくる鳥たちも相変わらずきれいな鳴き声を奏でている。


「お兄ちゃん、遅いよー」


「悪いな、報告することが多かったんだ」


「ふーん、お兄ちゃんでもそんなときがあるんだ」


「"でも"は余計だっての」


二の腕辺りにある琴音の頭を掴み、少し力を加えてお仕置きしてやる。

せっかくセットしたのであろうきれいに結ばれた髪が乱れそうだが、そんなものはお構いなしだ。


「い、痛いってば、お兄ちゃん!」


「余計なことを言った罰だ。―――――ん?」


ふと物置の前を通りかかったときに、何か妙な気配を感じた気がした。

思わず立ち止まって中に入ろうと取っ手に手を掛けたのだが――。


「何してるの、お兄ちゃん? 早くしないと遅刻しちゃうよ?」


琴音が時計を見せながら話し掛けてきた。


「げっ! もうそんな時間かよ!?」


素直にそれを見ると急がないとやばい時間を指していた。


「ところで琴音、あの物置から変な気配を感じなかったか?」


「え? 別に何も感じなかったよ?」


早足で階段を下りながら、霊力の強い琴音に聞いてみる。

こいつが何も感じなかったのなら気のせいだろう。

琴音は突然俺が言いだしたことに疑問を持っているようだったが、今はそれどころじゃない。


「じゃあな、琴音。遅刻するなよ」


「お兄ちゃんもね」


いつもの分かれ道でお互いの健闘を祈る。


「こりゃ、着いたら汗だくだな…」


文句を垂れながらも勢いよく自転車に跨り、高校を目指した。






「ふぅ、なんとか間に合った」


チャイムが鳴るギリギリの時間で教室に駆け込む。

予告通り額からは汗が滲み、制服のシャツも少し濡れている。


「おはよう、八神。珍しくギリギリだったね」


「あぁ、ちょっと支度に手間取ってな。…あれ、相良はまだ来てないのか?」


「相良なら僕より早く来てたよ」


「マジか。なんで…って、あれか」


「うん。あれだよ」


「よくや――」


「八神ーー!!」


「うぉあぁっ!!?」


突然教室中に響き渡った相良の声に、仰いでいた下敷きを落としそうになった。

慌てて下敷きを掴んだときには相良が席の前に仁王立ちをしていた。


「噂の転校生を見つけてきたぜ!」


「お、おぉ…そうか。で、どうだった?」


目を爛々と輝かせて顔面を近づけてくる相良を押しのけながら、とりあえず感想を伺うことにした。


「髪が腰まであってさ、細身でスラッとしててさ――」


興奮気味に話す相良に少し引いてしまった。


「それになんといってもあの整った顔に強気そうな目が堪んないぜ!」


「ふーん、で、肝心の名前は?」


「水城麗奈だったかな…柳?」


「なぜ柳に聞く?」


「あぁ、昨日調べたんだよ」


「さっき言えよ」


後ろに居る柳がしれっと言ってくれる。

ついツッコんでしまったが、なぜか軽い自己嫌悪に襲われた。


「で、もう話してきたのか?」


「いんや、全然」


手を広げておどけて見せる相良。


「転校生の宿命か、質問攻めにあってたぜ。…というわけで、昼休みに行こうぜ!?」


「分かった分かった。分かったから顔を話せ暑苦しい!」


「柳もだぜ!?」


「うん、いいよ」


拳を近づける相良に自分の拳をぶつける柳。

それと同時にチャイムがなり響き、相良は自分の席に戻っていく。

俺は相変わらず下敷きで仰ぎながら授業の準備をし、先生が来るのを待つことにした。


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