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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十七章 甦る絶望
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第一部 夏休

仲間全員で行った夏祭り。

焔獣との闘いをわすれ存分に羽を伸ばした真たち。


夏休みに突入して修行に遊びにと励みたいところだが、

その先には真の因縁の敵が待っていた。

「あー、あぢぃ…」


ギラギラとした太陽に全身を照らされ、文句を言いながらも俺は学校へと続くこの長い坂道を登っている。


「せっかくの休みなのに…」


「いいじゃない、楽しそうだから」


文句を言う俺と違って、山中さんの隣で涼しい顔して歩いている麗奈。


さて、何があったのか簡単に話そうか。

そう、きっかけは一本の電話だった……。




………………

…………

……




期末テストを何とか乗り切った俺たち高校生たちは、くそ暑い教室と一旦おさらばして夏休みという長期休暇を満喫していた。

もっとも俺たちには焔神を倒すという使命があるので、休みに入ってからは朝から修業三昧というわけだ。


「はぁあ!」


「うりゃあ!」


いつもの修業場、そこにいつものように金属音が響き渡る。


「麗奈さんたち、だいぶ長く同期できるようになりましたね」


「うん、でも紫苑のグリッドの質も保持時間もよくなったよね」


「うふ、柳さんも回復の速度が上がってるじゃないですか」


山中さんを抜いた四人で、宮野さんの作ったグリッドの中でそれぞれ修業をしている。

今になって気付いたのだが、このグリッドを蹴って飛ぶこともできる。

それによって上から物凄い勢いで突進とかできるようになっているのだ。


「ん? おーい、八神ー。携帯が鳴ってるよー!」


「誰からだー!?」


「山中さんから!」


「代わりに出てくれ!」


俺の視界の端で精神統一をしていた柳が俺の携帯を開いた。

親からとかなら俺が出ないとまずいだろうが、山中さんなら大丈夫だろ。

て言うか、あの人の場合は麗奈に用事があるんじゃないのか?


っと、あんまり他のことに神経を使ってる場合じゃないな。

碧色の瞳の持ち主がすごい際どい攻撃ばかりしてきやがる。


「いくわよ、真!」


少し距離を置いて刀を大きく後ろに引く麗奈。


「よっしゃあ、受けてやるぜ!!」


麗奈が何をするのかを理解して、こっちも刀を後ろに下げた。


「斬水牙!!」


「斬炎牙!!」


お互いまだ完全には使いこなせていない術を出す。

この辺りはやはり麗奈の方がうまくできているようだが、これがすべての基本となるのなら俺も早く完成させないといかん。


「ちっ、まだ威力が足りないか…」


辺りに凄まじい風を起こしながらぶつかった水と火だったが、ほんの数秒せめぎ

あいをした後に紅い牙が砕け、碧い牙が俺に向かって飛んできた。


「うおっ、あっぶねー!」


間一髪で身を伏せて避ける俺。


「ふーっ、まだまだね」


自分のことを言っているのか俺のことを言っているのか、麗奈は構えを解いて立っていた。


「今日はこれくらいにしときましょう。……………それで、キョウはなんて?」


「今日の昼からみんなで出掛けようってさ」


「どこに行くんだ?」


「さぁ、来てからのお楽しみだって」


「また何か楽しいことを考えてらっしゃるのでしょうか?」


「とりあえず行くわよ。支度をしてまたここに集まりましょう」


柳から携帯を受け取りながら麗奈や宮野さんの言葉に耳を傾ける。

山中さんが何を考えてるのかは知らないが、少し羽を伸ばすいい機会だ。




………………

…………

……




…とまぁこんなことで今こうしているわけだ。

朝霧さんも誘ったみたいだけど、今日は用事があるらしい。


「さっ、もうちょいや! みんな頑張るんやで!!」


先頭でさくさくと坂を登っている山中さんが後ろに向かって檄を飛ばす。


「ところでキョウ、どこまで何をしに行くの?」


「ん? あぁ、こないだ肝試しをやった森の奥に小さい池があるんやけど、なんや景色がええらしいねん。でまぁ、みんなでそこ行ってちょっとしたピクニックでもしようかな思て」


「まぁ…ではお弁当を作ってくればよかったですね」


山中さんの少し後ろにいる宮野さんが残念そうな顔をしている。

そんなに楽しいのか、ピクニックって…?


「大丈夫や、秀真が持ってるカバンに一通りの準備はしてきたねん」


ビシッと指を差したところに、汗だくになりながら自分の背中の倍の大きさのリュックを背負っている相良が居た。


「大変そうだな」


「もうちょっとしたら代わってくれ…」


俺と柳のすぐ後ろを歩いている相良はすでに足元をふらつかせていて、息を切らせていた。


「一体何が入ってるの?」


「とりあえず食べ物と飲み物、後は遊び道具だな」


息も絶え絶えといった様子で答えている。


「うし、交代しよう」


「おう、サンキュー…」


「よっ…と………うおっ、見かけ以上だなこれは!」


正直リュック一個でそんなに重くはないだろうと思っていたのだが、実際背負ってみると結構重い。


「よくこんなに詰め込んだな…」


「だろ? もうちょっと減らせって言ったんだけどよー…」


相良と二人で目の前でウキウキしながら歩いている人の背中に向かって溜め息を吐く。


「柳も代わってくれよ?」


「うん、分かった」


とりあえず行けるとこまで頑張ろ。

これもある意味修業だなと心の中で苦笑しながら、俺は坂を登っていった。






「よっしゃあ、着いたでー!!」


ようやく目的地に着いて、手を広げて叫ぶ山中さん。


「やっと着いたかー…」


荷物持ちだった俺と相良はその場にへたり込んだ。

柳には最後のちょっとだけ荷物を持ってもらってて、一番距離が短かったこともあってたいして疲れてないようだ。

山中さんのところまで荷物を渡しに行く力が残ってるし。


「さーて、とりあえず準備しよっか!」


柳から受け取った荷物を広げて、みんなに話し掛ける山中さんの方を何気なしに見た俺だったが、この目に飛び込んできた光景に、息が上がってるのも忘れて絶句した。


「……こ…こは…」


別に山中さんに驚いたわけではない。

そこにあった池、一際大きな木が俺を激しく動揺させ、胸を締め付けてくる。


「…ここだったのか……」


遠い昔の、できれば記憶から消し去りたいような思い出が脳裏に次々と甦ってくる。


「もう随分経ったんだな…」


「なーに一人で休んでるのよ?」


「うおっ、麗奈!」


いつのまにか目の前に麗奈の顔が迫っていた。


「ほら、早く来なさい。みんな待ってるんだからね」


少し呆れている麗奈について歩きだす。

見ると、辺りで一番大きな木の下でレジャーシートを広げて、みんながこっちを見ていた。


「ほな、みんな揃ったことやし食べよっか!?」


山中さんの声を合図に、みんながたくさん並べられたお菓子に手を付けていく。


「それにしても…いい景色ですね」


時折吹いてくる風にその長い髪の毛を棚引かせながら、宮野さんがやわらかく口を開いた。


「そやろ!? やっぱり来て正解やったわ!」


お菓子を口一杯に詰めながら自慢げに胸を張る山中さん。


「今度はヤッチーと二人で来たらええやん。なっ、レナっち!?」


「な、なんで真と二人で来なくちゃいけないのよ!?」


山中さんに突然話を振られ、一気に顔を赤くしている麗奈。


「で、でもそうね……真がどうしても来たいって言うなら一緒に来てあげてもいいわよ! ……………って、真? どうかした?」


「ん、あぁ…すまん。何だった?」


「もう、大丈夫?」


さっきから俺の脳裏に次々と浮かんでくる光景、あまりに衝撃的だったそれのせいで皆の会話が全く耳に入ってこなかった。


「よっしゃ、遊ぼか!?」


突然響いた山中さんの声、彼女に連れていかれるように他の三人が付いていき、俺と麗奈だけが残った。


「まったく、キョウに気を使わせてどうするの?」


「すまん」


他の奴らにも気を使わせたことに、少しだけ罪悪感が生まれていた。


「ふぅ…あんたが何考えてたのか当ててあげよっか……?」


少し呆れたような声を出しながら、俺の隣にちょこんと座る麗奈。


「…お父さんのこと、考えてなかった?」


「………! …よく分かったな……」


「前にお父さんのこと話してくれた時と同じ顔してたから、なんとなくね…」


当てられたことで少し気持ちが軽くなったのか、澄み切った青空を見上げていた。


「ねぇ、よかったら話してくれない? ここがどういう場所なのか…」


「ここは……」


その言葉を自分の口から出すことに抵抗したのか、少し喉が詰まった気がした。


「…親父が死んだ場所だ……」


「…あ……ごめん」


「別に、もう昔のことだ」


そう言って遊んでる奴らの方を向く。

……こいつらと今こうして居られるのも親父のお陰だしな。

あの時、親父が庇ってくれなかったら、俺はとうに死んでいただろう。


「ねっ、私たちも遊びましょ!」


「へっ!?」


「さっ、早く早く!」


「お、おい麗奈!?」


さっきまでの暗い空気はどこへやら、麗奈はいきなり俺の腕を掴んで相良たちが居る方へ足を進めていった。


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