表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十五章 主が鎌に託したものは…
35/46

第二部 炎水

「じゃあ、紫苑。いつも通りにお願い」


「分かりました。――…ジェイド・グリッド!」


風翠翼を解放して地面に突き立てる山中さん。

そして、いつも修行でそうしているように雷壁が俺たちを包み込んだ。


「うわぁ……」


「おぉ……」


「触っても大丈夫ですよ」


「なんか不思議な感触やなぁ…」


「固くも柔らかくもない……」


「この雷壁は俺たちを敵の攻撃から護るためのものなんだがな、修業のときにも役に立つんだ」


「何に使うんだ?」


「それはだな――」


「しーんー、そろそろ始めるわよー!」


少し離れたところから聞こえた麗奈の声。

すでにやる気満々といった様子で闘牙を解放して俺を待っている。


「分かった、今行く!」


相良に小さく“まぁ、見とけ”と言って、麗奈の待つところに向かう。


『術を教える前に肩慣らしじゃ、二人とも同期して軽く組手をするがよい』


「分かった…行くわよ、真!」


「おう!」


麗奈の言葉を合図に、俺たちは同時に地面を蹴る。

腕に巻き付く炎と水が風に揺らめき、鋭い金属音を響かせてぶつかり合った。


「「おぉー……」」


感心するような相良と山中さんの声、落ち着いて見たのは初めてだから何か感じるところもあるのだろう。

というか、あまりじっくり見られるといささか恥ずかしい。

柳と宮野さんと初めて一緒に修行したときも感じたけど、やっぱりこそばゆいな。

俺たちはそんな声を聞きながら組手を続け、刀のぶつかる音が辺りにこだましていた。


「闘牙、いつまで続けたらいいの?」


「さすがにちょっと疲れてきたぜ」


かれこれ十五分ぐらいになるだろうか…、少し息が切れてきた。


『ふむ、そろそろ頃合いかのう。次の一撃で終わりとしよう』


「それじゃ行くわよ、真!」


「おっしゃ!」


闘牙の声を聞いた麗奈が強く地面を蹴ってこちらに向かってくる。

それに応じるように俺も地面から足を離し、最後の一撃を決めにかかる。


「はあぁぁ!」


「おりゃあぁ!」


雷壁の天井の少し下で、二人の渾身の一撃が激突する。

水と炎が飛び散り、今までで一番大きな音が辺りを埋め尽くしていた。

そして――






「おーい、大丈夫か?」


「あ、あぁ…雷壁のお陰で何ともないぞ」


俺はうつ伏せになった体を起こす。


「あんだけ派手にぶつかったのに平気なのか?」


「お前も触っただろ? この壁は固くも柔らかくもないからそんなに痛くないんだよ」


俺が起き上がるのを少し離れてところから見ている麗奈。

まぁ、俺が麗奈に敵うはずもなく、刀が触れた瞬間に受け流されて、俺の腹に闘牙をめり込ませやがった。

そのまま吹き飛ばされて雷壁に衝突、あえなく地面と熱いキスをすることになったというわけだ。


「しっかし、麗奈ちゃんは強いな」


「あぁ、まだ一回も勝ててないんだ」


体に付いた土を払いながら相良に答える。


「さすがは剣道道場の娘ってところか」


「なんだ知ってたのか?」


「まぁ、京香情報だけどな」


「へぇ、随分と仲良くなってるじゃないか」


「あぁ、やっぱり感覚が似てるんだろうな。今度、麗奈ちゃんの家に遊びに行きたいって言ってたぜ」


「ほぉ、そこまで仲良くなって……………て、家だと!?」


「お…おぉ、どうかしたのか?」


「あ…あぁ、いや別に」


相良の口から飛び出したとんでもない言葉に思わず大声を上げてしまった。

その声に驚いた相良はハトが豆鉄砲を食らったような顔をして俺を見ているので、思わず顔を逸らしてしまう。

家って…あいつはどこまで山中さんに話したんだ?

まさか本当に連れて来ないだろうな。

でも、山中さんだし何をするか分からないからなぁ。


「おーい、やーがみー」


「ん? あぁ、すまん。考え事を――」


「そろそろ始めるわよ!」


俺がトリップしてる間に相良の不審がる顔が目の前に来ていたが、答えようとしたら麗奈に遮られた。

相良が釈然としない顔をしていたが、これ以上深く突っ込まれても困るので麗奈のところに行く。


『では、術の伝授を行う』


静まり返った雷壁の中で、闘牙の声だけが響く。


『前にも言ったが、術を使うには己の気をしっかりとコントロールできなければならん。儂ら――流水闘牙と蒼炎斬神の使い手とあらば余計にの』


いつになく真剣な声で話す闘牙。それが、術の重要性と同時に危険性も含んでいるような気がする。


『儂らは流刃宰によって初めて創られた刀…。その役割は焔神を封印することじゃった……じゃから、儂らには"破壊"に特化した術が与えられたのじゃ』


「破壊…」


その言葉を聞いた瞬間、電気が走ったような衝撃が全身に伝った。

自分が今手に握っている刀が、ともすれば俺の使い方次第で凶器と化す。

そんな考えが脳裏を過ぎる…。


『まぁ、そんな訳での。二人が立派に自分の気をコントロールできるようになるまで待つ必要があったのじゃ』


「そうなんだ…」


『それでは術の一つを見せようかのう。麗奈、少し体を借りるぞ?』


「えっ?」


驚きの声も虚しく、闘牙が言葉を止めた瞬間に麗奈の体が光だした。


「ふぅ、ちゃんといったかのう」


「闘牙…か…?」


麗奈の体から光が消え、俺の視界に入り込んだもの。

姿は完全に麗奈のものだが言葉遣いや声色が闘牙のものになっている。


「うむ、儂は今麗奈の体を借りておるが、ちゃんと麗奈も意識があるからお主の声も麗奈に聞こえるのじゃ」


「どういう状態なんだ?」


「簡単に言えば二つの意識がこの体の中に混在しているというところかのう。ただし、儂らはそう長くもこの状態を保つことはできぬのじゃ。余りに長くこの状態を続けると、麗奈の意識を儂が奪うことになりかねん」


闘牙の声は坦々としているが、その瞳に少し影が射したような気がした。


「では、術を見せるぞ。紫苑、少し踏張るのじゃぞ」


「はい?」


宮野さんがそう答えた瞬間……。


「はぁっ!」


「うおっ!」


闘牙が振った刀から何かが飛び出した。

水でできた三日月と言うのがいいのだろうか。俺の三倍はあるのではないかと思えるような巨大なものが雷壁に衝突した。


「きゃっ!」


短く聞こえた宮野さんの悲鳴、固く目を瞑り風翠翼を握ってなんとか雷壁を壊さないようにしている。

やがて雷壁にぶつかっていた三日月は消滅し、雷壁もなんとか破壊されなかった。


「はぁ…はぁ…」


「すまぬな紫苑、強かったか?」


「はぁ…いえ、大丈夫…です」


よほど気を使ったのか、肩で息をする宮野さん。

風翠翼を杖にして立つ姿を闘牙が気遣う。


「今見せたものが儂らが持つ中で最も基本的な技……“斬水月ざんすいげつ”じゃ。刀に気を集中させ、振ることによってそれを相手に向かって飛ばすという単純な技じゃが、使いすぎると気を消耗してしまうからのう、それだけ注意が必要じゃ」


麗奈の体を借りたまま、闘牙が刀を地面に突き刺す。


「さて、麗奈は感じが掴めたかのう?」


「術を教えるって、そうやってやるのか」


「うむ、儂らは主の体に入り込むこともできるからのう。自分の体がどうやって術を出したのかよく分かるじゃろうて」


そう言うと闘牙は目を瞑り全身から力を抜いた。

その瞬間に麗奈の体が再び光に包まれ、俺の視界は真っ白になった。


「ん…んん……」


眩しい光に目を細めていると、麗奈の眉が少し動いて、その瞳がゆっくりと開けられた。


「大丈夫か、麗奈?」


「えぇ…」


『少しふらつくだろうがすぐに治まるじゃろ』


闘牙の声が刀の方から聞こえた。

どうやら元に戻ってるみたいだ。


『では、次は真殿の番であるな。準備はよろしいかな?』


「あ、あぁ…」


『では、行くぞ!』


蒼炎がそう言った後、俺は不思議な感覚に襲われた。

意識はちゃんとある。しゃべろうと思えばいつでも言葉を出せるだろう。

ただ、意識と繋がっているはずの体だけが離れていくような感触。

そして、紅の珠が左腕の方から出てきて溶けだして俺の体にまとわり付き、ついには体全体に広がった。


『完了だ、真殿。今、そなたの体に我が入った』


頭に直接響く蒼炎の声。

何か前にもこんなことがあったような……。


『今の真殿にこの体を動かすことはできぬが、四肢がどのような動きをしているかは分かるだろう』


「あぁ、今刀を構えたのがよく分かる」


蒼炎が俺の体を使って腕を持ち上げたのが、見えない何かを伝って意識だけの俺に伝わってくる。


『それでは技を見せよう。これが全ての基本となるものだ!』


「………!」


そう言われた瞬間に、蒼炎が刀を振るったことを体が認識した。

と同時に感じる、体に満ちていた気が片腕に引っ張り込まれる感覚。


「きゃっ!」


『こりゃ蒼炎! やりすぎじゃ!!』


短く聞こえた宮野さんの声と闘牙の怒っている声。

外界の様子が見えないのがアレだが、どうやら蒼炎の放ったものが雷壁を破壊したみたいだ。


『むぅ…少々やりすぎてしまったようだ』


「で、でも今のでどうやるのか大体分かったぜ!?」


『…それならよいのだが……』


いかん、蒼炎がへこんでいる。なんとかせねば……。


「そ、そうだ。あの術はなんて言うんだ?」


『ん? あぁ…あの術の名は“斬炎月ざんえんげつ”――闘牙の術、斬水月と対を成すものだ』


「闘牙と蒼炎ってやっぱり二つで一つなんだな」


『我らはこの世界に初めて送られたもの…人間にとって扱いやすいものをイメージされたのだろう』


「へぇ…流刃宰は人間想いなんだな」


『うむ、あの御方は常に人間のことを考えておられた。それ故に人間に恋をしたのかも知れぬな』


主のことを誉められて嬉しかったのか、蒼炎の調子も元に戻っているみたいだ。


『さて、そろそろ戻ろう。真殿、早くこの術を修得してくだされ』


「あぁ、頑張るよ」


そう答えた次の瞬間には、目の前が眩しくなった。

そして徐々にみんなの声がすぐ近くに聞こえてくる。


「すごかったね、八神」


「ちょっと耐えられませんでした…」


俺の背後から掛けられた声、肩で息をしている宮野さんを見ると自分の攻撃がどれだけのものだったのか分かる。

あはは…思ってたよりも派手にやったみたいだ……。


『まったく、もう少し気を抑えられんのか』


『すまぬ、十分に加減はしたつもりだったのだが…』


『上に向かって撃ってなければ大変なことになっておったぞ』


『むぅ…』


闘牙に説教されている蒼炎。

なんか面白い光景だな、蒼炎が何も言葉を返せないでいる。

って言うか、そろそろやめろ。また蒼炎がへこむだろうが。


『とにかく、これで術の伝授は終了じゃ。しばらくは修得に時間を取られるじゃろう…。しかし、これを修得することはお主らが一段階上に進むことを意味する。各々修業に励むがよい』


「分かった」


「分かったよ」


闘牙から有り難い言葉で今日の修業は終了した。

当面はそれぞれ術を修得するために修業することになるだろう。

俺も早く使いこなせるようにならなければと、薄暗くなった竹林の中で拳を固めた。






『しかし、蒼炎が扱いきれぬとは……あの小僧、一体……?』


麗奈の左腕で、碧色の珠が竹林から差し込む僅かな光を反射した。


いかがでしたか?

ご意見・ご感想をお待ちしております。


さて、武器たちの主、流刃宰が人間界に居るかもしれないことを知った真たち。

彼なら焔界と人間界を繋ぐことができるかもしれないので探すことに。

とはいっても、そこは武器たちに任せるとして…。

真と麗奈は術を修得するための修行に入る。

そして、闘牙も真のことが気になりだして…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ