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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十五章 主が鎌に託したものは…
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第一部 宿命

山中さんに力が目覚め、土龍が仲間に加わった。

ひとまず相良と山中さんに状況を説明するため、

真はみんなを集めた。

そこで語られる武器たちの主の秘密…。

そして、ついに真と麗奈にも術が与えられる…。

焔界四天王の一人、鏡彗に襲われてから一昼夜経った。

奴によって操作された焔獣にいいようにやられてしまった麗奈は、柳の術とあのあと爆睡していたお陰で次の日には元通りピンピンしていた。

柳は俺と麗奈の二人の傷を癒してくれて、さすがにその時は疲れ切った様子だったが、今朝いつも通りの姿を見せてくれた。

俺たちが一番心配していた山中さんだが、さすがというか昨日のことが嘘だったみたいに元気一杯の笑顔で登校していた。


聞くところによると焔獣に捕まっていたところまでしか記憶にないらしく、朝目覚めたときに首にされていたネックレスに驚いたらしい。

今朝、俺たちを見つけた瞬間に聞いたきたところを見ると、自分の武器と話をした様子はなかった。

そこで俺はちょっとしたことを思い付いたんだがそれは置いといて…。


「みんな揃ったな」


山中さんが手にした武器――大鎌の土龍深廻の言う通り、俺たちが背負っている宿命を山中さんと相良に伝えるため、放課後にみんなを俺の部屋に集めた。

俺と麗奈、柳と宮野さん、山中さんと相良がペアになってコの字に座っている。

前に柳と宮野さんが来てくれたときでも狭く感じた俺の部屋が、山中さんと相良を含めてさらに狭くなった。


「さて、どこから話したらいいのか…」


「とりあえず刀を解放して、キョウにもやってもらったら?」


「そうだな。じゃあ、柳と宮野さんも解放してくれるか?」


「えぇ」


「分かった」


「それじゃ、解放してくれ」


俺が真っ先に蒼炎を解放し、それに続いて麗奈と柳、宮野さんが自分の武器を解放した。

…うん、やっぱり狭い。

ただでさえ六人も人が入って狭苦しいというのに、武器を解放したらお互いにぶつかってしまいそうになった。


「…この人数での解放はちょっときつかったか……」


「すげぇ…」


相良が目の前にある刀、薙刀、槍を見ながら感嘆にも似た声を洩らした。


「そう、これが奴らと闘うための俺たちの武器。昨日、山中さんが手にしていた武器の仲間だ」


「キョウ、ネックレスになっているその武器、解放できる? 手に握ることをイメージすればできるはずだから」


「なんや難しそうやけど、やってみるわ」


俺たちがやったのと同じように、山中さんが左腕を前に出した。


「…ふぅー……」


目を閉じて深呼吸をすること数秒、首にあるネックレスが光りだした。

そして、ゆっくりではあるが彼女の左手に橙色の光を放つ物体が現れ始めた。

なんか自分が初めて蒼炎を解放したときのことを思い出すなぁ。


「…はぁー……なんとかできたわ」


「…本当にでかいな」


山中さんの手に握られた大鎌、緋色の珠がはめられたそれを改めて見て感心する。


「さて、解放もできたことだし、とりあえず自己紹介してくれよ」


目の前にある鎌に向かって話し掛ける。


「八神、誰に話し掛けて――」


『分かったわ』


「……………へ?」


鎌に話し掛ける俺を不思議に思って山中さんが声を出したとき、大鎌がアルトボイスを響かせた。

その瞬間に固まる山中さんと相良。

しかし、すぐにその縛りは解けて――


「うおぉおぉぉぉ! か、鎌がしゃべっとる!!」


「おい八神、なんだこれは!?」


山中さんと相良は飛び上がる勢いで後ろに退いた。

いやー、さすが関西人。いいリアクションをしてくれる。


「いやいや、いいものが見られた。じゃあ、みんな。しゃべっていいぞ」


『もうよいのか?』


『まったく、もう少し早く言って欲しいものじゃ』


『これが見たかったのですか?』


『ようやく話せますね』


『まったく、つまらぬことに付き合わせおって』


「あはは…ごめんごめん」


闘牙の呆れたような声に、俺は頭を掻きながら答えた。

かくして俺のドッキリ作戦は大成功。

緊張感のある空間にちょっとゆとりが生まれた。


『ねぇ、早く自己紹介したいんだけど』


「あぁ悪い、やってくれ」


『分かったわ』


土龍深廻は咳払いを一つして、言葉を紡ぎだした。


『私の名は土龍深廻、名前の通り“土”の力を司る者よ。そして、私たちを生み出した神――“流刃宰りゅうじんさい”が創りし最後の武器…』


『最後とは…?』


闘牙が意味深な言葉にすかさず食い付いた。

それは闘牙に限ったことではないようで、俺の手に握られている蒼炎も声を出しそうになっていた。


『あの方は…私を創った後、私に全てを話してどこかに消えてしまったの…』


『何!? それは本当か!!?』


『えぇ、だから私は“伝言”という役目を受けた。私たちが生まれた理由、そして宿命を伝えるために…』


『…して、その宿命とは……?』


蒼炎の驚いた声に続いて闘牙が出した重い声。

土龍の発した“宿命”という言葉が、みんなの心にのしかかったかのように空気が重くなった。


『今から千年前…こちらの世界に焔神が姿を現した。奴が連れてきた魔物によってこの地に住む多くの民が犠牲になり、世界は荒れた土地へと変わり果てていった。でも、私たちの創造主から与えられた武器によって民は一筋の光を見いだした……』


『それが儂と蒼炎か……』


『そう。八神一族と水城一族が刀を手にし、更なる犠牲を払いながらも焔神を封印して民は安息を取り戻した。それから年月が流れ、焔神の封印が解けかけた頃、私たちが生まれた世界――斬刃界きじんかいで一つの事件が起きた……』


「神が姿を消した…か…」


俺は思わずぽつりと呟いていた。


『えぇ。当時、斬刃界は混乱に陥ったわ。何せその世界の神が居なくなってしまったのだから。当然総力を挙げて探したけど、見つからなくて……仕方なくあの方の弟子だった者が新たな神となることで混乱は収まった』


土龍から発せられる言葉に、他の武器たちの気が沈んでいるのが分かる。

蒼炎も落ち込んでいるみたいだ。


「その…神が消えたのって、いつなの?」


『…だいたい二十年前ね』


「二十年……私たちが生まれる少し前のことなのね」


『あの方が去っていくとき、独り言のようにこう言ったわ。“神が人間に心を奪われるなど言語道断だよな”って…』


「心を奪われる…?」


静かな部屋に響く麗奈と土龍の会話。

その中で意外な言葉だったのか、麗奈は眉を少ししかめた。


『この言葉がどういう意味を持つのか、ただの武器である私たちには分からないけど…あの方が理由を持って居なくなったことだけは分かる』


「その方は、もしかしたら人間に恋したのかもしれませんね」


ただの気まぐれで姿を消したわけではない。

そこにちゃんと理由があることが土龍たち武器の心を少し軽くした。

そして、暗い空気が漂うなかで、宮野さんの凛とした声が響く。


「“心を奪われた”ということは、そういうことだと思うのですが…」


『じゃあ、もしかしたらこっちの世界に居るかもってことなの?』


「あくまで可能性の話ですが…」


『では、焔神を倒すのと一緒に我らの主を探そうかのう』


「あんたもわりと主人想いなのね」


『“わりと”は余計じゃ』


麗奈にからかわれて、少し拗ねたような口調になる闘牙。


『儂らに対する主の思い入れは特別じゃろうて。のう、蒼炎?』


『……………』


『……蒼炎? どうかしたか?』


『…あ、あぁ。いや、別になんでもない』


闘牙の語り掛けに言葉を詰まらせた蒼炎。

それが闘牙に不信感を抱かせ、言葉が少し濁る。


「それで、俺たちの宿命ってのは?」


闘牙がまだ何か言いたそうだったが強引に話を進める。

蒼炎の様子がおかしいのはあとで俺から聞くことにしようかな。

てか、こっちの考えはお見通しなのに蒼炎の考えが読めないってのはどうなんだろうな。


『…こほん。私たちに与えられた宿命は、焔神の封印ではなく完全なる消滅…』


「封印じゃダメなのか?」


『封印しても長くて千年ちょっとで復活する。大地が真に安息を取り戻すためには焔神自身を消滅させなければならない。そして、私たち五人を使って、焔界とこちらの世界を完全に切り離す』


「切り離すって…今は焔界と繋がってるのか?」


『今、こちらの世界とあっちの世界は壁一枚隔てているような状態よ。どういう仕組みかは知らないけれど奴らは空間を捻曲げて、こちらの世界に簡単に入って来れる』


「こっちから向こうには乗り込めないの?」


今まで沈黙を守っていた柳が静かに口を開いた。


『空間を歪めるには特別な力が必要なの。それはあまりに危険なものだから、私たちには与えられていないわ』


「じゃあ、どうすれば―」


『焔神がこちらの世界に現れるのを待つか、或いは流刃宰様を探して空間を操作してもらうか……』


「あんたらの主さんは向こうとこっちをつなげられるん?」


山中さんもようやく頭がついてきたのか自分から質問を投げ掛けてきた。


『確証はないけど、おそらくは…』


「では、やはり流刃宰さんを見つけた方がよいということですね?」


『えぇ』


「でも探すと言っても一体どこを……」


『儂らなら主の気配を感じることができる。時が来るまでは修業に励んでおれ』


「じゃあ、この前言ってた術を教えてよ」


宮野さんや俺の声が交錯する中で麗奈がふと思い出したような声を出した。

それを聞いて俺も思い出した。

そういや術を教えてくれるって言ってたな。


『おぉ、そうじゃな。では、今からやるとしようかのう』


『ちょうどよい、そこの二人も一緒に来るといい』


闘牙に続いて蒼炎が声を出す。

ちなみに二人とは、相良と山中さんのことみたいだ。


「じゃ、いつもの場所に行きましょうか」


麗奈がスッと立ち上がり、俺の部屋からいつもの場所に向かうために階段を降りていく。

残された俺たちもそれに続き、最後尾に相良と山中さんがついてくる形で部屋を後にした。


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