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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十四章 変わる運命、背負う宿命
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第二部 土龍

『ぐおぉおぉぉ!!』


奴が手を前に伸ばしたのを合図に、焔獣が俺たちに向かって突進してきた。


「真、とりあえず逃げながら作戦を考えるわよ」


「あぁ」


所詮相手は蠍型の焔獣、奴の攻撃など今の俺たちにはかすりもしない。


「どうする、麗奈!?」


「あの鏡彗ってのが指令を出してるのなら、あいつを叩くのが一番早いけど…」


「一瞬でも注意が逸れたらチャンスはあるんだな?」


「同期したらたぶん……」


いつも自信たっぷりな麗奈が不安になるのも分かる。

もちろん、失敗したら友達の命がない、というのもあるだろうが、鏡彗とかいう奴の力が未知で、今の俺たちでは適うのかどうなのか分からないからだ。


「やってみるしかないだろ、蒼炎!」


刀を持つ手に力を込めて体中の気を一気に高める。


「行く――」


『させません』


「なっ……ぐあっ!!」


奴の言葉が聞こえたかと思うと、次の瞬間には視界一杯に広がった焔獣に殴り飛ばされていた。


「真!!」


『あなたも、よそ見してる暇はありませんよ』


「くっ…きゃあっ!」


二人揃って焔獣に殴られ、そのまま地面に向かって真っ逆さまに落ちる。


「八神!」


「レナっち!!」


未だに焔獣に捕まったままの二人が心配そうに声を上げる。


「秀真、なんとか抜けられへんか!?」


「さっきからやってるけどびくともしねぇよ!」


『お二人にはもう少しそこでおとなしくしていてもらいますよ』


鏡彗がチラリと視線を送ると、二人を絞め付けている尻尾にさらに力が加わった。


「ぐっ…あ……」


「くっ…は……」


『さて、そろそろ起き上がってくるころでしょうか』


「お前、何をしやがった」


『あなたの目の前に居る奴のスピードとパワーを飛躍させただけです。私たち四天王は長い年月を掛けて、低レベルの焔獣を自在に操作する術を生み出したのですよ』


「へっ、どおりで…」


今まで遅かった焔獣が突然速くなったわけだ。しかも、あのパワー……あまり直撃はしない方がいいな。

同期してもこの衝撃…、もし同期していなかったら確実にアバラが折れていただろうな。


『では、再開しますよ』


奴が楽しそうに手をかざすと、俺の前にいる焔獣が再び鋏を振り上げ、それを落としてきた。


「くっ…逃げるしかないのか」


とにかく直撃を食らわないように、地面を蹴って宙に体を漂わせる。


「やっぱりスピードとパワーが上がっているのね」


「麗奈、無事か!?」


「あれぐらい平気よ」


「そうか……うわっ!」


いつのまにか奴の尻尾がすぐ近くまで迫っていた。

気はある程度探れるようになったけど、まだ自分の間合いが分かっていないな。

咄嗟に体を反らして躱すが、擦ったのか頬が少し切れて血が頬を伝った。


「真!」


「大丈夫、擦っただけだ!」


麗奈の隣に移動して、同じように構える。

俺たちの目の前に居る焔獣は、どちらを襲うのか決めているように間を置いている。


「こっちから仕掛けられないのが痛いわね」


「あぁ」


焔獣に捕まっている二人をチラリと見る。

ただただ心配そうに俺たちを見つめる顔が目に入ってきた。


「さて、どうするか…」


「やっぱり、あの鏡彗って奴を――」




『ぐがあぁああぁぁ!!』




「くそっ…あの野郎……」


突然響いた焔獣の雄叫び、何があったのかは言うまでもない。

鏡彗がまた焔獣の体を操作したんだ。


「来るわよ!」


『ぐおぉぉ!』


焔獣が六本の足で地面を蹴り、俺たち目がけて突っ込んできた。


「くっ……早い!!」


さっきまでとは比べものにならないほどのスピードで突っ込んでくる奴に、逃げるしかない俺たち。


『ぐおぉおおぉぉ!!』


「ちっ……ぐあっ!」


「くっ…きゃあっ!」


俺は鋏で、麗奈は尻尾で吹き飛ばされる。

刀で防いではいるもののその衝撃は強く、周りに生えていた大木に体を思い切りぶつけた。


「くっ…はっ……」


ちくしょう…パワーも上がってる、あれじゃまるでバーサーカーじゃないか。


『碧いぃぃ!!』


「くっ……麗奈…」


奴が麗奈の方に向かっていく。

俺と同じく刀を杖にして木に体をもたげている麗奈。


「はぁ…はぁ……っ!」


『ぐおぉぉ!』


「がはっ…!!」


奴の鋏が真横から麗奈を襲い、無防備だった左腕に直撃した。


「ちくしょう…」


足がガクガクで歩くのがやっとだ。


「くそっ、どうする…」


俺が考えてる間にも、麗奈は焔獣の攻撃を受け続けている。

闘牙で防御しているものの、さっきの攻撃が効いているのか左腕はほとんど動かしていない。


「このままじゃ麗奈が…」


頭ではどうにかしようとするが、体がそれについてこない。

しかも、今の自分の気の状態から考えて同期できるのはあと一回。

この一回で麗奈を助けることができてもすぐさま焔獣に捕まって同じことを繰り返す。


「万事休す……か…」


「京香!? おい、京香!!?」


「…んっ?」


突然辺りに響き渡った相良の声。

そこに視線を向けると、さっきまで俺たちを心配そうに見つめていた山中さんが、相良の横でぐったりとしていた。


「どうした、相良!?」


「分からねぇ、気付いたら京香が…!」


『真殿、あれをよく見ろ!』


「…おい、まさか…!?」


俺が見たのは山中さんを包み込むようにして沸き上がっている橙色のオーラ。

初めは薄い膜みたいに山中さんに張り付いていたそれが、少しずつ膨れ上がり二、三メートル上まで立ち昇っている。


「………大地……」


「…えっ?」


「……全ての命を統べる大地に……天から牙が舞い降りる…その牙大地の力を宿して……受け取る者は使者となる………」


山中さんが唱えている呪文のようなもの…でも、自らの意志で言っていない。

二重音声みたいに山中さんの声ともう一つ、少し高めの声が重なって聞こえる。

その詠唱とともに湧き上がるオーラはさらに強い光を放ち、山中さんの姿をまともに見るのが難しくなってきた。


「…大地の力……我が牙を以て…大いなる闇を斬り裂く………聞け…我が名を……答えよ…我が名は――」


そこまで言うと、山中さんの意識が戻ったのか、眉が少し動いた。


「…土、龍…深……廻…」


僅かに開かれた瞳、そして弱々しくも放った声は、確かに山中さんのものだった。


「うわっ!!」


それを言い終わった瞬間、山中さんに空から伸びてきた橙色の閃光が降り注いだ。

突然のことに驚きを隠せない相良。


そして――


「ふぅ、やっと降りられた」


山中さんの口から聞こえる声が再び二重音声になったと思ったら、その手に空から舞い降りた物が握られていた。


「…大鎌」


そう、大鎌と言うのが適切だろう。

刄と柄の境目近くには大きな緋色の珠がはめ込まれていて、山中さんの身長ほどあるのではないかと思えるほど大きな鎌がその手に握られていた。


「はぁっ!」


「うおぉ!」


何かが乗り移っている山中さんが、その手に持っている鎌で自分たちを締め付けている焔獣を斬り裂いた。

綺麗に着地を決めた山中さんとは対照的にそのままドスンと地面に落ちた相良。

鏡彗に一睨みされたあいつはすたこらと近くの茂みに逃げ込んだ。


「…橙色の…瞳」


俺の前に近づいてきた山中さんの瞳は橙色に彩られていて、いつもの彼女の雰囲気はそこにはなく、もう少し大人の空気を醸し出している。


「初めまして、蒼炎さん。そして、その使い手さん」


「何者だ、お前は?」


「自己紹介は後、とにかく向こうの使い手さんを助けましょう。同期して、彼女をあいつから遠ざけてちょうだい」


「ちょ、ちょっと待て! まだ鏡彗が居るんだぞ!?」


「それなら大丈夫よ。あいつ、自分が手を出すつもりはないみたいだから」


「何でそんなことが分かるんだよ?」


「だって、私が地上に降りてくるまで何もしなかったのよ? 一番近くに居たっていうのに…」


確かにそうだ。

山中さんが橙色のオーラを纏い始めてからこの大鎌を手に入れるまで、鏡彗は一切動かずにただ様子を見ているだけだった。

異変に気付いたときにすぐ焔獣を動かせば武器を手にする前に二人を葬り去ることもできたはずなのに…。


「まっ、何考えてんのかは知らないけどね。とにかくあの子を助けるわよ。同期して彼女を焔獣から引き離して」


「…分かった」


言いながら麗奈を真っ直ぐに見つめる山中さん、もとい乗り移ってる者。

得体の知れない奴に命令されるのは正直癪に障るが、麗奈を助けるのを手助けしてくれるならいいか。


「行くぞ、蒼炎!」


『承知!』


残っている気力を振り絞って炎を身に纏う。

そして、未だ焔獣の攻撃を受け続けている麗奈の方に思い切り飛び込んだ。


「麗奈、大丈夫か!?」


「……し…ん…?」


「あぁ、もう大丈夫だ!」


麗奈の体はぼろぼろで、体のあちこちに傷があった。

肩で息をしていて、俺が抱え上げるとすぐに同期が解けた。

……すまん、麗奈。


「これでいいのか!?」


「十分よ!」


俺は焔獣を踏み台に飛び、少し離れたところにあった木に着地。

山中さんに乗り移ったそいつは、肩に掛けていた鎌を天に向かって掲げた。


「大地に眠りし古き牙よ…今また闇を葬るためにその身を起こせ――砕牙ゲイドレング!」


ズン!という腹に響く音を立てて大鎌を地面に突き刺したかと思ったら、鎌の先から焔獣に向かって地面が割れていき、焔獣のところに辿り着くと今度は氷山のような土山が現れて焔獣を貫いた。


『ぐあぁあぁぁ!!』


「…す…すげぇ……」


近くでその凄まじい技を見ていた俺は、ただ感嘆の声を洩らすしかなかった。

これがあいつの術、柳と宮野さんの術を初めて見たときも驚いたが、攻撃系の術はまた違う意味で驚いた。


『ふっ、ここまでか…』


「待て、鏡彗!!」


自分が引き連れてきた焔獣が全滅したことを見届けた鏡彗はすぐに浮き上がり、どこかに行こうとする。


『勘違いしないでください。一旦退きますが、次は私たち四天王があなたたちのお相手をします。それまで私たちが楽しめるように、修業でもしていてください』


「なんだあれは…?」


鏡彗が宙に上っていく先で空間が歪みだし、亀裂が走り始めた。

そして、人一人ぐらいがちょうど通れる穴が作られる。


『くっくっく……これで五本が揃った…』


俺たちを見下ろしながら上がっていく鏡彗。

出来上がった穴に入る瞬間に口が少しだけ動いた気がしたが、ここからでは何を言ったのかは分からない。

ただ、姿を消す直前のあいつの不敵な笑みだけが脳裏に焼き付けられた。






「麗奈、大丈夫か!?」


「…はぁ…はぁ…なんとか……ね…」


俺の腕に抱かれて、麗奈は苦笑する。

頭以外は傷だらけで、俺の服にも麗奈の血が付いていた。


「すまん、麗奈……………相良、柳を呼んでくれ!」


「柳を? なん――」


「いいから、早く!!」


「あ…あぁ、分かった」


相良の言いたいことは分かる。

でも、俺たちの場合は柳がそれをやってくれるからな。

相良が携帯を取り出して柳に電話をかける。


「……もしもし、柳か? 今どこに――」


「ここだよ」


相良と話しているはずの声が、俺の頭上から聞こえた。


「遅くなってすまない…焔獣の気配を感じてすぐに走ったんだけど……」


ストンと俺の前に降り立った柳、その後ろには宮野さんも居た。

二人とも肩で息をしていて、ここまで全力疾走してくれたのだと分かる。


「柳、麗奈を…」


「分かってる」


そう言って、砕光翔を麗奈に向けた。


「ヴィーダ」


聞いたことのない呪文が柳の口から発せられた。


「柳、それは……?」


「この前身に付けた術でね、ヒール・ライトよりも強力な治癒ができるんだ」


"気を使い過ぎるから一日に数回しかできないけどね"とはにかみながら付け加える柳。

そう言うだけあって、俺が前にしてもらったときよりも強い光が麗奈を包んで傷を塞いでいく。

それとともに麗奈の顔色もだんだん良くなってきた。


「麗奈さんがここまで苦戦するなんて…敵は一体どのような……」


「敵は……焔獣四体と…焔神四天王の一人、鏡彗……」


「「四天王!?」」


俺の言葉に、尋ねてきた宮野さんと麗奈を治癒している柳が同時に声を出した。


「そんなものまで生み出していたのか…」


「あぁ、奴は焔獣を使って山中さんと相良を人質に取りやがったんだ。…俺と麗奈は、防御するしかできなかった」


「…なるほど、そこで山中さんの力が目覚めたというわけですか」


宮野さんが俺の言葉を聞いて、スッと視線をある方向に向けた。


「新しい仲間…ということですか……」


宮野さんは大鎌を持ったそいつに向かって、歓迎するような声を発した。


「初めまして、翠の使い手さん。それに、光の使い手さん。とりあえず、自己紹介しておくわ。私は土龍深廻どりゅうしんかい、大いなる大地の力を与えられたものよ」


風翠翼よりも少し低い、落ち着いた声が山中さんの口から出てくる。


「詳しいことは明日にしましょう、今はその子の回復を最優先してあげて」


視線だけを麗奈の方に向けて、大鎌を持ち上げる。


「じゃあね、ちゃんとこの子にも説明してあげてね。あと、そこの男の子にも」


相良の方に視線を向けた後、土龍深廻は光に包まれて山中さんの首にはネックレスが掛けられた。


「っと大丈夫か、京香?」


「気を全て使ったのでしょう。大丈夫、明日には元に戻っていますよ」


まるで糸が切れた操り人形のように倒れこむ山中さんを相良が咄嗟に支える。

脈を計ったり熱を計ったりと心配している相良に、宮野さんは優しく声を掛けた。

山中さんの首には緋色の珠をあしらったネックレス。


「…鏡彗……」


奴の姿を思い出すと、言い知れぬ怒りが内から沸々と沸き上がってくる。


「次に会ったら…必ず……」


光の中にいる麗奈を見て、拳を堅く握る。

傷が塞がるのはもうすぐだろうが、体力と気力の消耗が激しいだろうから明日まで目覚めないだろう。

俺は新たな仲間と強大な敵を見て、ついに焔神が動きだしたことを感じていた。


いかがでしたか?

ご意見・ご感想をお待ちしております!!


さて、焔界四天王なる者の存在を知らされた真たち。

そして、山中さんに目覚めた力。

またしても真の周りの人間が重い宿命を背負った。

この先に待受ける運命とは果たして何なのか…?

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