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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十四章 変わる運命、背負う宿命
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第一部 鏡彗

真が好き――ということに気付いた麗奈。

宮野さんと山中さんに見守られ、少女は一つ成長した。


そんな中、突如目の前に現れた新たなる敵。

果たして真と麗奈の闘いやいかに!!?

「おーい、まだかー?」


「今行くー」


昨日のことが嘘みたいに普通の、いつもの朝がやってきた。

麗奈の足はただ捻挫しただけだったみたいで、家に帰ってから手当したお陰でもうなんともないらしい。

それでも念のためということでテーピングをしている。

で、俺は玄関でテーピングをし終えた麗奈が来るのを待っている。


「お待たせ」


「よし、行こう」


日に日に暑さが増している今日この頃…。

自転車のサドルも朝一から浴びている日光によって熱を持っている。

俺はそこに腰を下ろし、尻がじんわりと熱くなっていくのを感じながらペダルを回す。

麗奈はと言えば、そんなことは全く気にすることなくいつもの定位置で俺の肩に手を添えている。


「麗奈、昨日の焔鬼刃はどうだった?」


「焔鬼刃?」


道すがら、麗奈が昨日遭遇した敵のことを聞いてみる。

前を向いているから麗奈の顔は見えないが、眉をしかめた気がした。


「あー、あいつは話さなかったのか」


「話せる状態じゃなかったわよ」


「そうか。えーっとな…焔鬼刃ってのは数多の焔獣が集まって生み出された新しい魔物のことだ」


「昨日の奴がそうなの?」


「あぁ、奴も俺が最初に戦った奴と同じように、知能があまりないみたいだったけどな」


『焔神がそこまで力を付けたということかのう』


『おそらくな、正直焔獣のあのような変化は驚いた』


闘牙と蒼炎も焔神の力、焔界の変動には驚きを隠せないようだ。

二人の普段とは違うトーンでの会話がそれを物語る。


「とにかく、これからはああいうのが相手になるわけね」


「あぁ、奴らはこれから更に強くなるだろうから俺たちも修業に励まないとな」


『ふむ…闘牙よ、そろそろ二人に術を教えてもいいのではないか?』


『うむ、頃合いかもしれんな』


「えっ、術を教えてくれるのか!?」


『うむ、二人とも気のコントロールがしっかりとできるようになったみたいじゃしのう』


俺の驚きを隠せない声に、闘牙が貫禄たっぷりな声で答えた。


「じゃあ、帰ったらさっそく教えてよね」


『任せておけ』


坦々とした口調で闘牙と会話を交わしているが、俺の肩にある手に力が込められた辺り、やっぱり麗奈もうれしいようだ。

俺も術を教えてもらえるのは嬉しい。

それは自分が地道にやってきた修行の成果が認められたってことだ。

それに、それを駆使してもっと多くの人を護れるってことだろ?


「おはよう」


「おはようございます」


鼻歌でも出そうなほどウキウキして自転車を漕いでいると、坂の入り口でこちらを見ている柳と宮野さんが見えた。


「おはよう。めずらしいわね、紫苑も一緒なんて」


「えぇ、楽しそうなので私も今日からご一緒しようかと」


宮野さんは相変わらず優しい笑顔で麗奈と話している。

そういえば、この人が慌てたり、悩んだりしているところを見たことないなぁ。

…まぁ、柳もなんだけど。


「それにしても麗奈さん、すっきりした顔をしていらっしゃいますね」


自転車から降りた麗奈を見て、宮野さんが何やら安心したような声を響かせた。


「まぁね、あなたのお陰かしら。もちろんキョウもだけど」


「そうですか…では気付いたのですね。あなたが八神さんを………んぐっ!?」


宮野さんが俺の名前を出した途端に、麗奈が音速で移動し、宮野さんの口を塞いで遠くに行ってしまった。


「なんだ?」


ここからではよく聞こえないが、しきりに麗奈が宮野さんに何かを言っているみたいだ。

麗奈の顔が少し赤いが、どうしたのだろう。


「まぁ、悪口を言われているわけじゃないからいいんじゃない?」


「それなら別に構わんのだが…」


指を立てて、お説教するかのように話している麗奈、それを微笑みながら聞いては、時折何かを話している宮野さん。

それを聞いて、麗奈は俯いたり、両手を振り上げたりと忙しそうだ。


「おーっす」


「おはようさん」


柳と二人でまるで姉妹のように絡んでいる二人を生温かく見守っていると、後ろから元気な声が聞こえた。


「おっす」


「おはよう」


「なんだ、あれ?」


「さぁな、俺が聞きたいぐらいだ……て言うか、そろそろ行かないと遅刻だな」


時計を見ると、始業の時間が迫っていた。

いい加減あれを止めないと、全員揃って遅刻してしまう。


「おーい、二人ともー。そろそろ行くぞー」


「あ、うん…分かった!」


「すぐそちらに行きます」


俺の掛け声で、一応収まった二人の会話。

坂を登り始めた俺たちの背中に


“絶対秘密だからねっ!”


と、麗奈の声が透き通った青空に響いた。






ここまではいつも通り、何の変哲もない日常だった。

しかし―――――。






「なんなの…これは……」


「いくらなんでもこれはキツイな…」


息を呑むような麗奈の声、それには俺も同感で俺たちの置かれている状況は、今までとは違うものだった。

突如、気配もなく現れた焔獣……その数四、運悪くこの日は柳と宮野さんが委員会で一緒に帰っていない。

そして―――――。


「八神、なんなんだこいつらは!?」


「レナっち、なんなんやこれ!!?」


相良と山中さんが……一緒に居る。


「話は後回し。とにかく、ここでじっとしてて」


麗奈が混乱状態に陥っている二人に指示を出す。

四体の魔物が俺たちを囲むように立っているので、下手に動かれるとまずい。


「麗奈、どう思う?」


「どうって…完全に不利な状況ね」


「いや、それもそうなんだが…」


「あいつら、襲ってこない……何かを待っているみたいだ」


「そう言われればそうね」


焔獣たちの様子を見て、ふと気が付いた。

俺たちを囲んでからもう一、二分は経過しているというのに一向に襲ってこない。

相良と山中さんが一緒に居る以上、こちらからも迂闊に手を出すことが出来ない。


『こんにちは。紅の継承者、八神真。そして、碧の継承者、水城麗奈』


お互いが動かないまま五分程経過したとき、焔獣の陰から新たな敵が現れた。

俺たちとほぼ同じ身長で、現れた奴らの中で一番小さい。

しかし、立ち居振る舞いを見れば一目で分かる――こいつが一番ヤバい。

しかも、焔獣の中に居るからこいつが焔獣だと分かるが、普通に会ったら……ただの人としか思えない。

焔鬼刃という焔獣の集合体、奴らにはまだそれを見て取れる外見があった。

しかし、今目の前に居るこいつは、砂漠で暮らしている人たちが着ているような民族衣装を身に纏い、水色に染まった長い髪をなびかせていた。


「何者だ、お前は?」


『おっと、これは失礼。私は“鏡彗きょうすい”…焔神四天王が一人、以後お見知りおきを』


後ろに組んでいた腕を解き、さながら執事のように優雅に一礼しながらそう言い放った。

所作こそ柳や宮野さんのような気品溢れるものだが、上げられた顔や立っている姿には威圧感がある。


「四天王…だと……?」


『一体、焔界では何が起こっているというのだ』


『焔界は生まれ変わったのですよ、蒼炎斬神。もはやあなたの知っている焔界とはまったくの別物です』


『この短期間の間に、そこまで力を蓄えたというのか!?』


『短期間? いいえ、違いますよ、流水闘牙』


闘牙の言葉を否定するように、奴は首を横に振った。


『確かに、我が主は千年前にあなたたちによって封印されました。しかし、封印されると察した主は、咄嗟に私たち、四天王を焔界に生み落としたのです』


『ばかな、奴にそんな余裕など――!!』


『私が今ここに居る、それが事実です。主が目覚めるまで、私たちなりに準備をしてきたのです』


食い気味に放たれた奴の言葉に蒼炎も闘牙も黙ってしまった。


「おい、お前! 何が目的だ!?」


『まぁまぁ、そう急がないで。私は主の命に従って行動しているにすぎないのです。今回は自己紹介程度に遊んでやれと言われていますので、その通りに……するだけだ!』


奴が叫ぶと同時に、他の焔獣たちが動きだした。


「蒼炎!」


「闘牙!」


相良と山中さんをその場に残して、俺と麗奈は迫り来る焔獣に向かって突っ込む。


「はっ!」


「はぁっ!」


まずは目の前の奴を相手に、斬り掛かる。

よく見る蠍型の焔獣、もはや攻撃のパターンなど把握しきっている。


「今更そんな攻撃が当たるか!」


鋏と尻尾を俺に向かって振り下ろしてくるが、今となってはそれがスローモーションで迫ってくるように見えて、避けるのも、反撃するのも容易い。


『ぐおぉおおぉ!!』


「うっし、まず一体!」


正面から真っ二つに斬り裂いて、砂のように崩れていく焔獣を背に、もう一体に刄を向ける。


『お強いですね』


俺と麗奈がそれぞれ一体ずつ焔獣を倒した様子を、腕を組んで焔獣の陰で高みの見物をしていた鏡彗が皮肉のこもった声で言ってきた。


『では、こんなことをしてみましょうか』


「うわっ!!」


「相良!」


「キョウ!」


パチンという高い音が聞こえた次の瞬間には、焔獣が相良たちのところに移動し、その長い尻尾で二人を絞め上げていた。


「卑怯な!!」


『遊びなんですから、楽しくやらないと』


"もちろん私がね"と言いたげな、不適な笑みを浮かべている。


「くっ…二人とも、今助けるぞ!!」


『おっと、下手に動くと二人の体が真っ二つになりますよ?』


俺が近づこうとすると、焔獣は尻尾に力をこめ、二人の体をより強く絞め上げた。


「ぐっ…がっ……」


『では、遊戯ゲームを始めましょうか。今からあなたたちは攻撃禁止…できるのは防御のみということにしましょう。そして、こいつの攻撃から逃げてもらいます』


相良と山中さんは苦痛に歪んだ顔が網膜に焼き付けられる。

くそっ、迂闊に前に進めねぇ!!


『では、始めましょう』


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