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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十三章 澄み切った碧
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第二部 麗奈

「まったく、ついてないわ」


別のことで頭が一杯ですっかり忘れていたけど、今日は掃除当番だったのね。


「レナっち、どうする? 八神に待つように言おか?」


「別にいいわ。明日にでも謝るようにするから」


「そうか」


折角のキョウの申し出を断る。別に家に帰ったら会うんだし。

って、こんなことは口が裂けても言えないけどね。

それに、待たれると……なんか恥ずかしいし。

とりあえず、私はおとなしく掃除をして歩いて帰ることにした。


「…真、ごめん」


帰り道、周りに誰も居ないことを確認して謝る練習をする。


「…ちょっと重い…かな。ごめんねっ、真!……………って、これじゃ軽すぎるか」


さっきから言い方を変えては却下するということを繰り返している。


「普通がいいのかしら…普通、普通ねぇ…」


夕焼けに染まった空を見上げて、ちょっぴり真の顔を思い出す。


「はぁ?、どうすればいいのかしら」


『素直に謝ればよいじゃろう?』


「それができないから苦労してるんじゃない…」


闘牙が言うようにできればいいけど、私にはそんなの恥ずかしくてできない。


『まったく、人間とは難儀な生き物じゃのう』


「はぁ、ほんとにどうしよう…」


闘牙の呆れたような声も私の耳には届かず、ただ赤焼けの空をずっと見ていた。






―キーーン……―






「あぁもう、ほんっとについてないわね」


あと少しで家というところで、焔獣の気配を感じた。


「…何、こいつの気配……」


今まで感じてきたものとは違う…少しざらついた気配を感じる。


『気を付けろ麗奈、こやつ今までとは違うぞ!』






『ぐおぉおおぉぉ!!』






凄まじい雄叫びと砂埃を巻き起こし現れたそいつは、今まで戦ってきた奴らとは明らかに違う、ニ体を足して割ったような形をしていた。


「こいつが前に真が言ってた…」


『そのようじゃのう、思ったよりまともな体をしておるな』


虎のような頭と体、その半分は甲殻に覆われていて、尻尾の先は鋭く尖っている。


『碧…貴様…倒す!』


「どうやら私を狙っているみたいね」


真に聞かされた奴と同じようにこいつも言っていることはたどたどしいが、殺意を持ったその視線は真っすぐに私を捉え、こちらに向かってきた。


「行くわよ、闘牙!」


『うむ!』


闘牙を解放してすぐに同期する。


「はあっ!」


そのまま一直線で焔獣の頭目がけて突っ込む。

この程度の奴なら一撃で……。


『碧……殺す!!』


「ちっ!」


奴も後ろ足で地面を蹴ってこちらに突撃してくる。

どうも殺意だけはずば抜けているみたいで、防御のことなど考えていないようね。

私の体を貫こうとして、その鋭い爪を突き出してくる。


「くっ…」


ガキンと金属同士がぶつかるような音を辺りに響かせて、焔獣と衝突した。

同期しているのに、この衝撃…やはり闘牙の力を出し切れていないみたい。


『碧…倒す……殺す!!』


「ぐっ…きゃあぁっ!」


力同士のぶつかり合い、奴が叫んだかと思ったらそのまま押し切られて吹き飛ばされた。


「くっ………痛っ!」


空中で体勢を立て直し、上手く着地できたはずなのに、立ち上がろうとしたら右足に激痛が走った。


「まずいわね…足を捻ったみたい。――…これじゃ力が乗らない…」


左足でもなんとかできるけど力では絶対勝てないし…スピードも出せないから技も通用するかどうか…。


『ぐおぉおおぉ!!』


突然辺りにこだました雄叫び、見ると焔獣が獲物を狙うように体を伏せていた。


「…来る!」


私がそう思った瞬間、奴は後ろ足で地面を蹴り、土煙を巻き上げながら突っ込んできた。


どうする…どうしたら……


迫りくる爪を捉えながら、必死に解決策を考える。

しかし、利き足の動きを封じられた時点でほとんどのものが却下される。


くっ…殺られる……かも。






「…しーーーーん!!」






何でこの言葉を叫んだのか…自分でもよく分からなかった。

でも――


「なんだ麗奈、怪我でもしたのか?」


こいつは来てくれた。

迫りくる爪を蒼炎で受けて、私の身を案じてくれた。


『邪魔…するな……!』


「おっと」


焔獣が真から飛び退き、距離を取って再び足に力を込める。


「来るか!?」


真も蒼炎と同期して構える。


「真…私もやるわよ」


闘牙を杖にして立ち、体を起こそうとするけど、やっぱり足に激痛が走る。


「怪我してるんだろ? 大人しくしてろって」


「あんな奴、片足でもやれるわよ!」


「怪我がひどくなったらどうするんだ!?」


「なっ…!」


今まで私に対して怒ったことのない真が初めて声を荒げた。


「俺が護ってやるから、今はそこでじっとしてろ!」


それだけ言うと、真は私に背を向けて焔獣に切っ先を向けた。




――護ってやる――




何故かこの言葉が私の中に太く入ってきて広がっていった。

そして、強烈なスピードで突進していく真。


「行くぞ、出来損ない!」


『邪魔者…殺す……!!』


二つの影が刹那にその姿を消し、次に見えたのは


『ぐおぉおおぉぉ…!!』


焔獣が崩れ、塵になっていくところだった。


「ふぅ…終了っと」


同期を解き、蒼炎を腕輪に戻して真がこっちにやってくる。


「ほれ、帰るぞ」


「…それは何?」


なぜかしゃがみこんで、こっちに背中を向ける真。


「その足じゃ歩けないだろ?」


「……………」


「ほら、早く」


私はおずおずとその肩に手を伸ばし、以外と広いその背中に身を預けた。


「よっし、帰るか」


「……うん」


何ていうか…これはかなり恥ずかしい、周りに人が居ないのがせめてもの救いだ。


「…あったかい」


「ん、何か言ったか?」


「う、ううん。何でもない」


自然に思ったことを口にしてしまった。

もう日も傾き、うっすらと辺りが暗くなっていく。

七月と言っても夜は少し冷えるから真の背中から伝わる温もりが私にはちょうどいい。


“俺が護ってやる”


目を閉じた瞬間に脳裏にあの言葉が甦る。

あんなこと言われたの初めてだなぁ…。

剣道道場で育った私は、物心ついたときから誰にも負けたことがなかった。

別に自分からそういうことをしていたわけじゃないけど、道場破りとかはやっぱり居るわけだし。

だから、さっきみたいに誰かに庇ってもらったり、ああいう言葉を掛けられたことなんて経験したことなかった。


こいつが……真が初めて……………ありがと…真。






―トクン…―






あ、あれ? 何…これ? 胸がドキドキする…。


真の背中に頬をくっつけた瞬間に胸の鼓動が早くなった。

それは、大きく早く…けど嫌じゃない…不思議な心地のするものだった。






……………そっか、私…真が好きなんだ…。


ようやく自分の気持ちを理解することができた…のかな?

なんか胸がすーっと軽くなった気がする。


「…ごめんね、真」


「んー?」


「ひどいこと言っちゃったわね」


あれだけ悩んでいたのに、今はスラスラと言葉が出てくる。


「あー、あれか。別に気にしてないけど…一つだけ聞いてもいいか?」


「何?」


「俺、何かやったか?」


「…ううん。私が勝手に勘違いして勝手に怒ったの。だから、真は何も悪くない」


「そっか」


真の背中に顔を寄せて、その温もりを感じる。


「あ、足は大丈夫か?」


「ううん、まだちょっと痛い。だから、もう少しだけ…」


「ん、分かった」


…嘘吐いちゃった。

でも、この嘘は許される………よね…?


目を閉じて、廻している腕に少し力を込める。

程よく揺れる感覚が心地よくて、私の意識は少しずつ薄れていった。



いかがでしたか?

ご意見・ご感想をお待ちしております。


さて、遂に自分の気持ちに気付くことが出来た麗奈。

だが真は相変わらずといったご様子……。

二人の仲はこれからどうなっていくのか?

そして自分の気持ちが分かり、麗奈は更に強くなっていく…。

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