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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十二章 麗奈の異変、異界の変動
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第二部 新襲

「ただいまー」


「おかえり。ねぇ、麗奈ちゃんと何かあったの?」


奥の方からパタパタと歩いてくる母さん。口にしたのはやっぱり麗奈のことだった。


「さぁ、帰るときからああなんだ」


「怒ってはいないみたいなのよねぇ」


母さんは、考えるような仕草を見せて、自分の事のように悩んでいる。


「明日になったら元気になってるだろ」


ここで悩んでも何も出てこないだろうと思ったので、それだけ言って、自分の部屋に戻った。






「おはよう……………あれ、麗奈は?」


「それが…朝早くに学校に行ったみたいなの」


「…そっか」


本当にどうしたというのだろうか、昨日の夜もずっと部屋に引き籠もっていたみたいだし、今朝もこんなに早く出かけるなんて。


「…直接聞くしかないよなぁ」


「それもいいけど、少し距離を置いてみてもいいんじゃない?」


母さんは俺のお茶を用意して、正面に座った。


「麗奈ちゃんは、たぶん自分の中で葛藤が起きているのよ。原因は分からないけど、あの子を悩ませる何かがあったんだと思うわ」


「葛藤か…」


「そして、これは麗奈ちゃんが自分で解決しないといけない問題、おそらく真にも聞かせたくないことなんじゃないかしら」


「……………」


母さんの言葉が妙に俺を納得させていく。

確かに、今のあいつに俺の言葉は届いていないみたいだからな。


「だからね、少しの間、麗奈ちゃんを一人にさせてあげましょう」


「…分かった、努力する」


「それじゃ、あなたも早くご飯食べなさい」


「うん」


目の前に置かれた朝ご飯を平らげて、さっさと学校に向かった。


「麗奈…」


『やはり気になるのか?』


自転車を漕いでいると、蒼炎がポツリと漏らした俺の言葉に反応した。


「まぁ、いきなりああなったからな」


『我も驚いたが、やはり母上の言うとおりそっとしておいた方がよいのかもしれぬな』


「あぁ」


女心ってのが俺にはよく分からないから、母さんの言うことを信じた方がいいだろう。

自分に納得させるように、そう考えながら学校に向かった。




『貴様が紅か?』




「へ? ……うわっ!」


『真殿、解放を!』


突然、俺の隣に何かが現れたかと思ったら、次の瞬間には吹き飛ばされていた。


「っててて…何だ?」


『焔獣だ』


攻撃を食らう寸前で解放できたから、なんとか直撃は免れたが、そこら辺の木を何本か倒してしまった。


「まったく気配が感じられなかった」


『我もだ』


今までの奴らとは明らかに違う感覚に俺たちは戸惑った。


『焔獣? おいおい、あんな奴らと一緒にするなよ。俺たちは焔界の新たな住人――“焔鬼刃えんきじん”だ!』


「――…なに!?」


『貴様、どうやって生まれた!?』


俺が言葉を失っているのを感じたのか、蒼炎が珍しく叫ぶような声で言った。


『俺たちはなぁ、数多の焔獣を集め、それを融合させて生まれたのさ!』


確かに、体には継ぎ接ぎみたいな部分があり、キマイラというに相応しい出で立ちだ。


……ん? キマイラ?


『まさか、この前の焔獣は――』


俺の疑問が蒼炎にも伝わったのか、先に口を開いた。


『あぁ、前の奴はまだ実験段階だったな』


『くっ…いつのまにそんなことが……』


『さぁ、おしゃべりはおしまいだ。俺と戦え、紅』


焔鬼刃が一歩出て構える。

虎の爪のような鋭い指先がこちらを向いている。


「くっ…行くぞ、蒼炎!」


俺も蒼炎を構えて、それに対抗する。


『おらぁ!』


「はあぁ!」


お互いが同時に地面を蹴り、相手に向かって突っ込んでいく。


「くっ…」


『ぐっ…』


奴の体に傷をつけた感触はあったが、こっちも一発もらってしまったみたいだ。

二の腕辺りが斬られたのを痛みとともに自覚する。


「はあっ!」


『どりゃあ!』


すぐさま態勢を立て直して再び刄を交える。

斬っては防ぐの繰り返しで、致命的な傷を負うことはないが、体力が削られていく。


「くっ、仕方ない…」


バッと焔鬼刃から離れる。


「蒼炎、同期だ!」


『承知!』


少しの間の後、俺の腕が紅蓮の炎に包まれた。


『紅の髪、紅の瞳……へっ、間違いねぇ…貴様が紅の継承者だ!』


焔鬼刃は俺の姿をまじまじと見て、楽しむような声をだした。

言われて初めて知ったが、そんな姿をしてるのか、俺。

まぁ、いずれにしてもまだ同期は長く続かないんだ、早く倒さないと。


「悪いな、早く終わらせるぜ」


炎に包まれた蒼炎を焔鬼刃に向ける。


『ははははは! 早く終わらせるだと!? これからが楽しいんじゃねぇか、こっちも本気で行くぜ!!』


そう言うと、焔鬼刃は腕をクロスさせ


『はあぁあぁぁ!』


内にあるものを吐き出すかのように全身に力を込め始めた。


「…なっ……!」


奴の体から黒いオーラが沸き出し、それによって全身がさっきより大きく肥大していく。


『さぁ、始めようぜ』


一回り大きくなった焔鬼刃が俺を見下ろしている。

さっきとはまるで違う圧迫感に胸が苦しくなる。


『行くぞ』


「…おう」


じりじりと足を動かし、相手の動きを観察していく。


『はあっ!』


「うおぉぉ!」


ドンという鈍い音とともに二つの影が姿を消し、交錯した。


『ぐっ……まだまだぁ!』


「くっ……うおりゃあ!」


お互いに手傷を負ったものの、まったく怯むことなく再びぶつかり合う。

刀と爪がぶつかる音が辺りに響き渡り、反響した音が一帯に広がる。


『ちっ…まさかここまでやるとは』


「これでどうだぁ!」


『がっ…!』


俺の渾身の一撃が、奴の腕を斬り飛ばした。


「これで最後だ!!」


腕を思い切り振り上げ、その顔目がけて振り下ろしたが


「……えっ…」


『まずい!』


蒼炎の悲痛な叫び、それとともに俺を纏っていた炎が消えた。


『もらったあぁ!』


「くっ…!」


その瞬間に奴の爪が俺を襲い、蒼炎で防御するも虚しく吹き飛ばされた。


『ひゃははは、逆転だな紅! 死ねえぇぇ!!』


今度は奴が飛び、俺目がけて降ってくる。


…くっ、殺られる!




「ジェイド・グリッド!」


『何っ!?』


奴の爪がもう後少しで俺に届くというところで、突然目の前に翡翠の雷が落ちてきた。


「驚いている暇は、ないんじゃない?」


『ぐっ…がはっ!』


「柳、宮野さん」


さながら守護神のように俺の前に柳と宮野さんが現れた。

焔鬼刃に一撃お見舞いした柳とともにフワリと俺の前に立った。


「遅くなりました」


「ちょっと場所の特定に手間取っちゃってね」


敵に刄を向けながら言うその言葉は、今の俺にはとても頼もしかった。


『ぐおぉぉ…何者だ、貴様ら!!?』


「僕たちは……紅を護る者だ!」


爽やかな顔のまま、柳が威風堂々と言い放った。


「八神、もうそろそろ同期できるかい?」


「あぁ、少しの間ならなんとか」


「じゃあ、僕と宮野さんで相手の隙を作るから、後は頼むよ」


蒼炎を杖にして、残っている力を振り絞る。


「次で決めるぞ、蒼炎」


『了解した』


「行こうか、宮野さん」


「ええ」


こんな時でも優雅な足取りで敵に向かっていくあいつらは、本当に凄いと思う。


「行くよ、キマイラさん」


『返り討ちにしてくれる!!』


「はっ!」


焔鬼刃の爪が柳を襲う。

柳はそれを躱して薙刀を思い切り振り下ろす。


『甘いわ!』


しかし、すぐさま身を返した焔鬼刃がそれを受けとめ、隙ができた柳目がけて爪を向ける。

片腕になっているとはいえやはり力では分が悪い。


「ジェイド・グリッド!」


『ちっ!』


あうんの呼吸とでも言うのか、奴の爪が柳に当たる直前で宮野さんが呪文を唱えた。


「八神!」


おそらくこれを狙っていたのだろう。

見事に焔鬼刃に隙を作り出した。


「だりゃあぁぁ!」


『しまっ………ぎゃああぁぁぁ!!』


ほんの少ししか同期できないため、この一撃にすべてを込めて、焔鬼刃を上から下に斬り裂いた。


「…はぁ、はぁ……勝った…」


巨大だった焔鬼刃は元の大きさに戻ると、砂のようにサラサラと崩れていった。


「ヒール・ライト」


「あぁ、癒される」


戦いが終わって、柳に傷を治してもらう。


「ありがとう、二人とも」


「お礼を言われるほどのことじゃないよ」


「当然のことをしたまでです」


謙虚と言うかなんと言うか、予想通りの反応が帰ってきた。


「ところで、さっきのは何?」


光の球の中にいる俺に、柳と宮野さんが真剣な眼差しを向ける。


「奴らは自分のことを“焔鬼刃”って言ってた」


「焔鬼刃?」


柳が聞き慣れない言葉に一瞬眉をしかめた。


「あぁ、数多の焔獣を集めて生み出されたらしい」


『焔神は、そこまで力を拡大させているということであろう』


「つまり、これからはあのような者と戦うことになるのですね?」


宮野さんが気合いをいれるように、凛とした声を響かせた。


『そうだ。今ので焔界が大きな変動を見せていることが分かった。奴らもさらに強くなるだろう、こちらも修業に励まねばなるまい』


蒼炎の言葉が俺たちの胸を貫き、決意を新たなものにさせた。


「ところで八神、水城さんはどうしたの?」


「えっ…あぁ、なんか最近一層不機嫌になってて…今日も先に学校行ったみたいなんだ」


「ふぅ…仕方ないね。じゃあ――」


「私が行きましょう」


柳が視線をチラリと動かした瞬間に、宮野さんが声を響かせた。


「山中さんと一緒に麗奈さんと話してみます」


「うん、お願いするね。八神もいいよね?」


「あぁ」


今の状況が打開できるならそれは願ってもないことだし、敵が強くなる以上もっと修業しないといけないからな。

俺は今朝、麗奈とちょっと距離を置くと決めたばかりだ。

それに、女同士の方が何かと話せることも多いだろうさ。

麗奈も山中さんや宮野さんが相手だったらきっと何も気にせず話せるだろう。


「では、参りましょうか」


そう言って学校に向かう宮野さんの後ろ姿はとても力強く、頼もしく見えた。


いかがでしたか?

ご意見・ご感想をお待ちしております!!


さて、小さくて可愛らしい朝霧さん。

しかし、その存在が麗奈の心を掻き乱す…。

麗奈にとって真の存在とは何なのか…?

そして、新たに現れた焔鬼刃…。

これからの闘いがますます激化していくことを予感させる。


麗奈の揺れ動く心が見れる次話をお楽しみに!!

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