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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十一章 麗奈のライバル?
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第四部 弁当

「うー、体が痛い…」


昨日の修業の負担が今頃になって体に襲い掛かる。


「情けないわねぇ、あれぐらいで…」


「俺には十分ハードだったんだよ」


今は通学中だが、学校までの長い坂道が筋肉痛の体にさらなる負担を強いてくる。


「要は慣れよ慣れ。今日も同じことをやるわよ」


「ちょ…ちょっと待て! こんな体でできるわけないだろう!?」


歩くことさえやっとなのに……。

しかし、麗奈は俺の訴えにため息一つ吐き出して


「同期すれば大丈夫だし、あとは根性でなんとかしなさい」


「そ、そんな無茶苦茶な…」


俺の悲鳴は麗奈の耳には届かないようで、一人でさっさと前を歩いている。


「同期を解いたら一緒だって……」


麗奈の聞こえないように、小声と一緒に深いため息を吐き出す。


「おーっす!」


「おはよう」


「おはようさん」


いつものタイミングで聞こえる三人の声。


「おっす」


「おはよう」


俺たちも一度立ち止まってからあいさつを返し、相良のくだらない話を聞きながら校舎に入った。


「あ、あの…」


「ん?」


自転車を置いて、上靴に履き変えようと手を伸ばしたときに後ろから声が聞こえた。

振り返っても顔が見えず、視界の下の方で揺れているものに視線を合わせると、綺麗にセットされたセミロングの髪をふわふわと揺らしている朝霧さんが居た。


「あぁ、朝霧さん。おはよう」


「お、おはようございます」


「どうかした?」


「あ、あの…その……」


「?」


朝霧さんは手をもじもじさせて、ずっと俯いている。


「…八神さん……きょ、今日のお昼…ご一緒しても……いい…ですか?」


目に涙を溜めながら、胸の前で手をギュッと握って意を決して言い切った。

最後の方が物凄く小声になって聞き取れなかったが、昼飯を一緒に食いたいってことかな…。


「えーっと…友達も一緒になるかも知れないけど、いいかな?」


「は、はい!」


「じゃあ、昼休みになったらウチのクラスに来てくれる?」


「わ、分かりました!」


見るからに明るい表情に変わった朝霧さんは、パタパタと小走りで自分のクラスへと駆けていった。

断ると泣いてしまいそうだったというのが本音だが、今この瞬間に確実に俺は自分の寿命を縮めた。


「相良、柳――」


「俺は別にいいぜ」


「僕も構わないよ」


「まだ何も言ってねぇ」


「アホか、全部聞こえてるっつーの」


先に上靴に履き替えて俺を待っていてくれた二人に事情を説明しようとしたのだが、そんな必要はないようで…。

朝霧さんの声は二人に筒抜けだったわけか。


「私も一緒に食べるわ」


「麗奈?」


声のした方を振り向くと、腕組みした麗奈が眉をひくつかせていた。

そのすぐ後ろに居る山中さんは口を押えて笑いを堪えているみだいだし…。


「お前も一緒に昼飯を食べたいのか?」


「そうよ」


「なんで?」


「べ、別にいいでしょ!? 今日はそういう気分なの!!」


俺にとっては至極当然の質問だったのだが、麗奈は顔を赤くしてしまった。


「レナッチが行くんやったら、ウチも一緒に行くわ」


「山中さんも?」


麗奈の隣で、ずっと笑いを堪えていた山中さんも目に涙を浮かべながら訴えてきた。


「じゃあ、宮野さんも誘おうか」


「おいおい、どれだけ人が増えるんだよ」


柳が宮野さんまで誘ってきたら、ちょっとしたパーティーみたいになるじゃねぇか。


「大勢で食べたほうがきっと楽しいよ」


「ウチもその意見に賛成やな」


「俺も」


柳の提案に山中さんと相良まで乗っかりやがった。


「はぁ…分かったよ」


もう自由にしてくれ…。

軽くため息を吐きながら、諦めモードに移行する。


「昼休みが楽しみやなー」


他の奴らが楽しそうな雰囲気を放っている中、麗奈だけは不機嫌そうな顔をしていた。






「とうとう来てしまった……」


昼休み、朝ご飯を消化し終わったお腹が栄養を求めて鳴り響く時間。

パーティーの幕が上がる時間がやってきてしまった。


「おーい、三人とも早く行くでー!」


教室の入り口から山中さんが手をブンブン振っている。

麗奈は朝と同じく不機嫌だし、その隣では宮野さんが優雅に微笑んでいた。


「集合が早いな…」


「さぁ、行こうか」


「こんにちは、八神さん。私までご一緒してもよろしいのですか?」


廊下に出たところで宮野さんが話し掛けてきた。


「大勢の方が楽しいとみんなが言うから…」


そこまで言ってため息を吐き出す。


「何か楽しいことが起きるとか…」


「えっ…」


宮野さんの微笑みから出たその言葉が俺を凍り付かせた。


「柳、一体どんな説明を……」


「みんなでお昼を食べると楽しいよってね」


「他にも何か言ったろ」


「あ、あの…八神さん」


俺が柳を問い詰めようとしたら、不意に後ろから声が聞こえた。


「ん? あぁ、朝霧さん」


振り向くと、お弁当と飲み物を大事そうに抱えた朝霧さんが目を丸くして立っていた。


「ごめん、実は……」


「初めまして、朝霧さん」


「おっす、朝霧さん」


「よろしゅうな、朝霧さん」


「初めまして、朝霧さん」


「…よろしく」


柳、相良、山中さん、宮野さん、麗奈の順で朝霧さんにあいさつをしていった。


「は、はい…よろしくお願いします」


朝霧さんは突然知らない人が増えて、おっかなびっくりと言った様子だ。

特に相良が朝霧さんに近付いて挨拶するもんだから、彼女が少し涙目で後退りしてしまった。


「とりあえず屋上に行こうか」


ずっと廊下に居ては邪魔だろうし。

しかし、この団体…非常に目立つ……。

俺は平凡だからいいとして、転校して間もない麗奈、情報通の相良、生徒会の柳と山中さん、魅惑の図書委員の宮野さん。

そして、一際小っちゃい朝霧さん。


この学校の面白所を一斉に集めたような面子。

俺を先頭にして歩くこのパーティーを廊下に居る生徒は物珍しそうに見ている。

朝霧さんが相良や柳と少し距離を置くために俺の陰に隠れるようにして歩いているのが余計そうさせるんだろう。

これは、屋上行くだけでちょっとした噂になるレベルだな。

俺の気疲れは増えていくばかりだ。

なるべく気にしないように…気にしないように……周りは全部ジャガイモだ。


「ふぅ、やっと落ち着いた……。で、なんだこの配置は…」


道すがらの視線網をなんとか突破して、屋上に着くなり俺たちは適当に座ったのだが…

俺の隣に麗奈と朝霧さん、向かいには相良と山中さん、そしてみんなでコの字になるように柳と宮野さんが座っている。


「さぁ、飯だ飯だ!」


相良がコンビニ袋の中からおにぎりを取り出す。


「ほな、ウチらも――」


「食べましょうか」


相良をきっかけにして、みんな自分の弁当に手をつけていく。


「あの…八神さん。この方たちは……?」


「あぁ、こいつらは――」


「俺は相良、八神のクラスメートで親友なんだぜ!」


「僕は柳、相良と同じで八神のクラスメートだよ」


「ウチは山中、クラスはちゃうけど八神とは友達やねん!」


「……水城」


山中さんまでいい感じで来ていたのに、麗奈が一気に空気を曇らせやがった。

つーか相良、朝霧さんが男の人が


「ふふっ………私は――」


「宮野さんですよね?」


麗奈を柔らかく笑った宮野さんが自己紹介をしようとすると、不意に朝霧さんが声を出した。


「何度か図書室で見かけたことがあります」


「まぁ、覚えていただいていて光栄ですわ」


「あ、いえ…そんなたいしたことじゃ……」


宮野さんの柔らかい雰囲気に、朝霧さんは恥ずかしいのか顔を俯かせてしまった。


「なぁ、朝霧さんはどこで八神と知り合ったん!?」


空気を突き抜くような声で、山中さんが切り出した。


「えっと…公園で危ないところを助けてもらって…」


「ほう、危ないところを……」


山中さんは顎に手を当てて何やら思案顔だが……なんだそのニヤケ面は、あんたの中で俺は一体何をしているんだ?

朝霧さんに向けられていた視線が俺に向けられる。

きっと俺から何かぼろが出るのを待ってるんだろうが……、絶対負けねぇぞ!!


「あの…八神さん。これお礼に作ってきたんですけど、どうですか?」


「プリン?」


「はい、お口に合うかわかりませんけど…」


「ありがとう」


山中さんと睨めっこをしている最中に朝霧さんに渡されたカップ。

透明のプラスチックでできたそれにはよくお店で見るプリンが入っている。

スプーンがないのでお箸で器用にすくって一口いただく。


「うん、おいしいよ。甘さ控えめで俺にはちょうどいい」


「ホントですか!? よかった?」


よほど嬉しいのか、朝霧さんは両手を合わせて目を細める。


「……………」


「ん?」


ふと後ろから心臓を貫くような視線を感じて振り向くと、おかずを口に放り込みながらこちらを凝視する麗奈と目が合った。


「………ふん!」


理由は分からないがとにかく不機嫌のようで、俺と目が合った瞬間に顔を背けやがった。

わけが分からない俺には疑問符を点灯させるしかないのだが、他の奴らはそんな俺たちを楽しむようにこちらを見ながら笑っていた。


いやいや、そんなことよりこいつが不機嫌な理由を教えてくれよ。


「あ、あの…」


俺が周りに助けて視線を送っていると、朝霧さんがきれいに包んだお弁当を膝の上に乗せて、こちらを見ていた。


「また…一緒にお昼を食べてもいいですか?」


上目遣いでそうお願いする朝霧さんがちょっと可笑しくて、思わず噴き出しそうになる。


「あぁ、構わないよ」


「あ、ありがとうございます!」


俺の言葉に反射的に深く頭を下げる朝霧さん。

そして、いつまでも意味深な顔をしている周りの奴ら…なんですか? 私、何か変なこと言いましたか?






「それではこれで」


「うん」


校舎内に戻って、朝霧さんは自分の教室に入っていった。


「それでは私も…ごきげんよう、八神さん」


そう言って、宮野さんも自分の教室に向かって足を進めていったのだが、その顔は散々笑ったあとみたいになっていた。


「ほな、ウチらも戻るわ」


山中さんが麗奈の肩を掴んで、戻ろうとするが


「真――」


麗奈はその腕を払って俺のところにやってきた。


「今日の修業はキツイわよ」


「……えっ…」


耳元でそれだけ囁くと、麗奈は山中さんと一緒に教室に入っていった。

残された俺は今夜に訪れる恐怖の修業を確約され、おそらくどんな手を使ってもそれは撤回されることはないそれに、ただ怯えるしかなかった。


いかがでしたでしょうか?

皆様のご意見・ご感想をお待ちしております!!


さて、男性が少し苦手な朝霧さんが加わって更に楽しくなる真の周り。

真と麗奈が気付いていないこととはいったいなんなのでしょう?

そして、焔界で起きている変化とはなんなのか…?


更に激化していく次話をお楽しみに!!

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