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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十一章 麗奈のライバル?
24/46

第一部 混沌

闘いを含めた今の日常に慣れてきた真。

しかし、未だ麗奈との実力差は大きい…。

この差を埋めるためにはひたすら修行修行なのですが、

そこはまだまだ高校生。

勉学もあれば新しい出会いもあります。

新キャラ登場の第十一章をお楽しみください!!

さんさんと輝く太陽がギラギラと人間がいる地上を照らし、コンクリートジャングルの所為で田舎よりも数度高い気温が全身に突き刺さる夏。

そんな夏の始まりがひょっこりと顔を見せてくれる六月。

残念ながらまだまだ海水浴だのプールだのと騒ぐことはなく、どちらかというと上を見るたびに視界いっぱいに広がる曇天の空を見て家から出たくなくなる。

しかも、空一面に絨毯のように広がる雲がその身に蓄めた水を吐き出しているかのように、数多の水滴が大地という器に降り注いでいる。


「はぁ、今日も雨か…」


「梅雨だからね、仕方ないよ」


ここは教室、そして俺の周りには柳と相良が居る。

俺は窓から見えるうんざりする空、さらに帰る気が失せる大粒の雨を見ながら愚痴っていた。

こんな天気はいつまで続くのか…。

今朝もテレビで天気予報を見てきたが、まだまだ梅雨前線は日本列島にどっかりと腰を下ろしてやがったし、台風も近づいているらしい。

いっそ臨時休校になってくれれば嬉しいことこの上ないのだが、高校では暴風警報が出ないといけないらしく、そんな警報にはお目に掛かったことがないのでずぶ濡れになりながらでもここに集合しなければならない。


「雨ってことは、相合傘ができるってことか」


俺と柳は詩人よろしく同じ心情に浸っているというのに、このスーパーポジティブシンキング野郎は何を言ってるんだか。

四月には後輩が出来るってので騒いでたし、五月は山中さんと騒いでたな。

もういっそ山中さんと相合傘をしてこいと言いたくなってきた。


「お前は元気だなぁ」


「相良はいつでも明るいね」


ため息混じりで答える俺と、微笑み顔で答える柳。

ていうか柳よ、その台詞は遠回しに相良を馬鹿にしてないか?


「いやいや、こういう暗い時にこそ新しい出会いはやってくるのさ」


「出会いねぇ……」


いいこと言ったと言わんばかりに腕を組んで大袈裟に頷いて見せる相良。

俺としては四月に出会った麗奈以上の出会いはもう勘弁して欲しい。

新しい焔獣との出会いも遠慮したい。


麗奈との修行のお陰で一人で焔獣を倒せるようになったし、同期もそこそこの速さでできるようになった。

でも、向かってくる敵を斬るときの感触には未だ慣れない。

いや、慣れてはいけないんだろう…。

麗奈が前に“修羅道に堕ちる”と言ってたしな。


それにしても――


「もう二ヶ月経ったのか…」


別に歳を取ったことを言いたいわけじゃない。

俺の運命の歯車が重く動き出してから二ヶ月だと言いたいんだ。


焔獣に襲われ、麗奈に助けられ、蒼炎を手に入れた。

高一の頃と比べたらとんでもなく密度の高い二ヶ月だ。

始業式の日までは平凡な暮らしを続ける予定だった俺が、今となっては人間界を救うという宿命を背負っている。

神社に生まれながら霊感なんてからっきしだった俺が紅の後継者として闘っている今を昔の俺はどう見るんだろうな。

んで、俺がこれからの俺をどう見るか――。


あ、そういえば蒼炎との同期がある程度安定して出来るようになって麗奈に言ったら、予想通りの展開になったな。

最後には褒めてくれたようだったが、そこに行くまで長い時間を要した。

“私より早くできるなんて”とか“ふ、ふん! だからって私より強いとは限らないわよ!”等々…それはそれは色々なことを言われた。

まぁ、麗奈がああいう性格だったのはもう分かり切っているので、いまさらどうすることもないけどな――。


「八神…おい、八神!」


「へっ!? あ、あぁ…どうした?」


「どうしたじゃない、もうすぐ授業が始まるぞ」


「ふふっ、感慨に更けるのもいいけどほどほどにね」


「あぁ、すまんすまん」


相良は呆れ顔で席に戻っていき、柳の絶やさぬ微笑みを受けながら今日最後の授業の用意をしている。

俺もそれに習って準備を始めたがそこでようやく次の授業が英語だということに気付いた。

別に英語が嫌なわけじゃない。

先生が分からんのだ。


「さて、授業を始めましょうか」


チャイムが鳴り、ほぼ同時に先生が入ってくる。

これはいつも通り。

この先生は時間に遅れもしないし早くもない。

常に安定したポテンシャルを保ってらっしゃるのだ。


で、俺がこの人の何が分からんのかというと――。


「はい、じゃあこの前言ってたところの和訳から、今は六月だから…相良くん、お願い」


「先生、俺と六月が何か関係あるんですか?」


「あら、相良君は六月と何か関係あるの?」


「え…いや、俺が聞いたんすけど……」


「まぁ、それは置いといて和訳お願いね」


「先生、和訳を忘れました」


「あらあら、じゃあ今からやりましょうか」


「単語が何一つ分かりません」


「大丈夫よ、一つ一つ教えてあげるから。まず最初の文は――」


こんな感じで訳の分からん理由で当てられることだ。

しかも相良は五月にも当てられてるから余計に分からん。

別に相良の誕生日は五月でも六月でもないし…。

しかも、宿題を忘れたと聞いたら、できるまでとことん付き合うのもこの人の特徴だ。

中でも相良は授業潰しの常習犯で、こいつの所為ですでに三回ほど潰されている。

こんなんでウチのクラスは大丈夫なのだろうか? もし補習とかになったらクラスを代表してあいつをぶん殴ってやる!






「はい、じゃあ今日はここまで。次のページの和訳をしておいてね」


授業終了を告げるチャイムが教室に鳴り響き、先生はそれと同時に宿題を残してさっさと教室を出ていった。


「はぁー、やっと解放された」


こうしてまた一つ授業時間が潰された。

結局、先生が最初に当てた英文の和訳に相良とマンツーマンで授業しているようなものだった。

相良は相良で単語を一つも知らないし、先生は先生で途中で話が脱線するしで俺も含めて、他の奴らも睡眠学習モードに入っていた。


「相良、今度こそちゃんとやってこいよ」


「先週当たったから今日は当たらないと思ったんだよー」


「そういえばよく当たるな、お前」


「やっぱりそうだよなー、何かやったかな」


「諦めてちゃんと予習してこい、授業が進まん」


「うむ、善処しよう」


「威張って言うな」


「おっと八神、今日は掃除当番だよ」


「あー、もう俺まで来たのか」


胸を張って言う相良を軽く突いて、教室を出ていこうとした俺を美少年が掴んだ。

さっきの授業はほとんど寝てたし、中途半場に寝てしまった所為か物凄く怠い。

他にも俺と同じような連中が居たから、掃除はとっとと終わらせるだろうな。


「じゃ、僕達は帰ろうか」


「そうだな、しっかりやれよ八神」


柳と相良が揃って教室から出ていこうとしたが、ドアのところで相良が何かを思い出したようにこちらに戻ってきた。


「八神――」


俺の肩を掴み、顔を思いっきり近付けて


「お前が話してもいいと思ったときでいいから、お前が巻き込まれていることを話してくれよ」


「…相良……お前……」


「じゃあな」


それだけ言うと、気障にウィンクをして柳のところに戻っていった。

俺が柳に視線を向けると、あいつは無言で笑って、俺たちを見守っていた。


「できてねぇよ、バーカ」


去っていく二人を見送って箒を取りにいく。


『友達想いのいい奴だ』


「あぁ、だからこそ護るんだよ」


左の腕に輝く紅がしみじみとした様子で声を出す。

確かに相良は頭の出来は置いといて、俺たちの中では一番の熱血漢だ。

陸上部という体育会系部活に所属しているのも関係しているのかもな。

相良の以外な一面を垣間見た俺は、いそいそと掃除をやり始めた。





「ふぅ、やっと終わったか。さぁ、帰ろう帰ろう」


最後の机整理を終えて、ようやく掃除から解放された。

ふと窓から外を見たら既に陽が落ちる一歩手前ぐらいになっていて、空は紅い夕日から徐々に暗くなっている。


「そういえば、麗奈たち来なかったな」


いつもなら一緒に帰っているのに今日は来なかった。

俺が掃除当番の日は麗奈は歩いて帰ることになるのだが、それでも柳や相良と一緒に帰っていた。

もちろん山中さんも一緒だ。


大方、また山中さんの用事か何かに付き合っているんだろうな。

俺も一度付き合ったことがあったが、山中さんの体力と行動範囲の広さに驚いた。

学校終わりでくたくただってのに、そこから買い物だと言って平気で隣町まで行っちゃうくらいだ。

しかも徒歩で…。

そっからまた色んな店を覗くから俺は足がもたなかった。

麗奈は大丈夫みたいだったけど、山中さんの着せ替え人形にされていたときはさすがに困った顔をしてたな。


「今日もそんなところだろ」


今日は一人でゆっくり帰るとするか。

自転車に跨った俺はいつもの帰り道を、いつものよりほんのちょっとゆっくりと走っていく。


「あれ、あそこにあんなのあったっけ?」


朝は麗奈を乗せてるし、帰りも大抵は麗奈が俺の後ろを独占している。

もし、麗奈が山中さんに付き合わされてなかったら、俺は修行の時間のために必死こいて帰ってるし。

だから、いつもは前しか見ていない。


でも、今のこのスピードだからこそ普段気付かなかった色々なものが目に入る。

小さい頃に親父に連れられて行った駄菓子屋。

琴音が小さい頃には一緒に行ったこともあったな。

家族でよく行っていたレストラン。

親父が死んでからは行かなくなってしまったけど、あそこには家族の思い出がいっぱい詰まってる。

俺が一人前に稼げるようになったら、また家族で行きたいもんだ。


なんか――…俺の生活ってほとんど親父を中心で回ってたのかな。

反抗期なんてものが来る前に親父が死んで…、母さんやじいちゃん、それに近所の人たちが俺を育ててくれた。

だから、俺には反抗期がなかった……………と思う。

親父が死んだのは俺の所為だ…。

だから、親父が護っていた家族を今度は俺が護る。

そう心に誓ってこれまで生きてきた。


「一人になるとついつい考えちまうな…」


……まっ、たまにだからいいか。






―キーン……―






「はぁ…何でこうなるのか……」


今まで俺を育ててくれたこの街の風景を懐かしく思いながら楽しんでいるというのに、頭に鳴り響く不協和音はいつも突然やってくる。

気配から察するに、まだそう近くには居ないだろう。

近寄ってくる速度もそんなに速いものじゃない。

下手すりゃ最初に襲われた蠍みたいなやつよりも遅いかもしれないな。


焔獣が間近に迫っているわけではないが、急いで頭の中に地図を広げる。

今居る場所と焔獣の近づく速さを考えて、最も人気のない場所を探しる。


「ここからなら……あの公園だな…」


そこもかつて親父と遊んだ公園。

公園というよりは運動場に近いのかもしれない。

そこにあるのは俺たちの修行には十分過ぎる程広いグランド。

その周りにポツポツとベンチがあるだけで、その他には一切ものがない。

周りも高い木々に囲まれていて、端から見ても中で何をやっているのか分からないようになっている。

それの所為か、全くと言っていいほどそこには人気がない。


…もちろん、昔のままなら……の話だ。


俺は急いで自転車のハンドルを切り、昔の記憶を頼りにその場所に向かう。

道が変わっていたら厄介だったけど、そんな心配は杞憂だった。

道はほとんど昔のままで俺は公園までまったく迷うことなく着くことができた。



「良かった、誰も居ない。――…よし、蒼炎!」


『うむ!』


左手から聞こえた力強い声は、すぐさまその姿を変えて俺の手に握られた。

辺りがよく見える位置まで移動してスッと構える。

そして、気を探りながら焔獣が来るのをじっと待つ。


「ふふーん、こっちを通ると近道ー♪」


「何!?」


愉快な鼻歌と共に誰かがこっちに来ている。

まさかこんなところに来る物好きが居るなんて……。


『真殿、もうすぐ焔獣が来るぞ!!』


「ちっ、どうする!?」


「誰も居ない公――」






『ぐおぉおおぉぉぉ!!』






歌い主が公園に入ってきたのと同時に、大地を揺るがすほどの凄まじい雄叫びと砂埃を巻き上げて現れた。


「きゃっ! な、何なの!?」


聞こえた声の感じからするとまだ間近に居るわけじゃなさそうだが、一般人を巻き込むわけにはいかない。


「逃げろ!!」


「えっ…?」


「いいから早くここから離れろ!!」


砂埃に包まれた焔獣と対峙しながら、声を荒げる。


「早く!!」


「は、はい!」


いきなり闘いに巻き込まれ、怒鳴られたその人は混乱しているようだったが、なんとか逃げ出してくれた。


ウチの学校の生徒か…。


チラリと横目で見たときに、同じ制服が見えた。


「なんとか見られてない…かな」


『紅……命…貰う』


「なん…だ……こいつ」


巻き上げられた砂埃が散り、ついにその姿を現した焔獣。

しかし、その容姿を視界に入れた刹那、俺の思考が一時停止した。

そして次に襲ってきたのは胸を突き刺すような不快な感覚。


今、目の前にあるそれが俺の頭を掻き乱す。

言葉使いももちろんそうなのだが、この姿は……。


「…キマイラ?」


神話か何かの本で見たことがある。

確かいろんな動物の集合で一つとなっている獣だ。

よく見ると、あれの体にはこれまで闘ったことのある蠍や狼の一部がある。


『しかし、キマイラと呼ぶにはあまりに稚拙だ』


「あんな焔獣初めてだ」


『我もだ』


「そうなのか?」


『我が記憶している限りでは、焔獣には少なからずも知能があった。しかし、あれはどうだ……』


話すこともままならない焔獣は、俺を狙っているのだろうがでたらめな攻撃ばかりしている。

尻尾を振り回したり、何もないところに向かって火を吐いたり…。

俺の気を感じてここまでやってきたのはいいが、肝心の姿は見えていないようだ。


「まっ、どっちにしてもあのままじゃダメだからな」


蒼炎を構え直して、ゆっくりと焔獣に近づいていく。

相変わらずどこを狙っているのか分からない、でたらめな攻撃を繰り返している。


「一撃で決めるためには……やっぱり同期か」


『今はそれしかない』


「はぁああぁぁ!」


自分の気を高めて、蒼炎と波長を合わせる。

そして蒼炎から炎が溢れ出し、俺の腕を覆っていった。


「ふぅ、やっぱり時間掛かるな」


普通の焔獣だったら間違いなく同期中にやられている。

しかもまだ同期が安定せず、あんまり長くこれで居られない。


「行くぞ、蒼炎!」


『承知!』


全身に力を漲らせて、焔獣に向かって一気に突っ込む。


「うおぉりゃあぁぁ!!」


『紅……殺す…くらえ!!』


「当たるか、そんなもん!」


『ぐがぁああぁぁ!!』


焔獣が最期に放った攻撃を躱して、文字通り一刀両断にした。

サラサラと塵になって消えていく焔獣を見ながら、同期を解いた俺は息を整えていたのだが…。


『真殿、後ろだ!!』


「後ろって……何ぃ!?」


突然の蒼炎の声に驚き後ろに振り返ってみると、逃げたはずの人が尻餅をつくような形で地べたに座り込んでいた。

しかも、さっきの奴の攻撃がそこに向かって飛んでいる。


「くそっ! ――…うおぉぉりゃあぁぁ!」


悩む間もなく地面を蹴る。

こちらに背を向けてうずくまっているから自分がどういう状況かも分からないだろう。

当たれば確実に傷を負ってしまう。


「よしっ! だりゃあぁぁ!!」


ギリギリだったが何とか間に割り込んであいつの攻撃を斬り落とした。

ほっと安堵の溜息を一つ吐いて、俺は蒼炎を腕に戻した。


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