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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十章 光の治癒、翠の加護
23/46

第二部 同期

………………

…………

……




「………ん」


“ん…んん……”


「……真」


暗闇の中で、誰かが俺を呼んでいる。


「…真」


“また……この…声”


無音の世界で初めて同期した後に聞いた声が響いている。

また同じ空間、目を開けているはずなのに何も見えない。

目の前に居るはずの姿も見えない。

そんな世界に名も知らぬ誰かの声だけが木霊している。


“……だ…”


『誰ですか、あなたは』


俺が言おうとしたことを誰かが先に口にした。

これまでは居なかった第三者、でもその低い声には聞き覚えがある。


“…蒼炎?”


この世界に来る少し前まで会話をしていた俺の相棒。


“蒼炎、ここはどこなんだ?”


『あなたは何者なのですか?』


“あれ、おい蒼炎!?”


しかし、俺の質問を無視して謎の人物と会話を続ける蒼炎。


“もしかして聞こえてないのか?”


今の反応を見る限りでは蒼炎に俺の声は届いていない。

せっかく見知った仲の声が聞こえたのに残念だ。

そもそも蒼炎に俺の姿が見えているのかどうかさえも怪しい。

こっちから何も見えないということはやっぱり向こうからも何も見えないのだろうか。


『答えてくだされ、あなたは何者なのですか? 何故真殿の精神世界に居るのですか?』


「…………」


蒼炎の質問に声の主は暫し無言だったのだが


「久しぶりだね、斬神」


『――――っ!?』


長い静寂の次に放った一言は蒼炎の言葉を詰まらせた。


『わ、私をそう呼ぶということは…まさかあなたは――』


あの蒼炎が…いつもどっしりと構えていた蒼炎が動揺している。

それほどまでにあの一言が衝撃的だったのだろうか。


「よろしく頼むよ、斬神。大丈夫、すぐに同期できるようになるよ」


その人は俺の頭にそっと手を置いて


「いいかい、真。見ようとしてはいけない、何も考えずにただ感じるんだ」


撫でるように手を動かす。

その手の感触は温かく、懐かしい感覚が沸き上がってくる。


「じゃあ後は頼んだよ、斬神。私はそろそろ戻るから」


温かい手が離れ、俺に向けられていた言葉は再び蒼炎に向けられた。


『お、お待ちください! あなたは――』


蒼炎の声も虚しく、その人の気配が、声が、遠くなっていった。

前と同じならここで強い力で引っ張られて現実に戻っていくところだが、今回はそれがない。

柔らかい何かに乗っているような感覚で段々と上っていく。


やがて暗闇だけだったこの世界に光が差し込み始め、次第に俺の視界一杯に広がっていく。

そして目も開けられぬほどの白い光の世界が俺を包み込み――




………………

…………

……




「ん…んん……」


目を開けると、いつも見ている景色が九十度回転して見えた。


「あぁ、本当に寝ちまった…」


どうやら黙想中に本当に寝てしまったみたいだ。

まったく、これでは修業にならん。


「しかもまたあの世界に…、ホントあそこは何なんだろう――。…あっ、ごめんな、蒼炎」


『…………』


「蒼炎?」


手に握られている蒼炎は俺の問い掛けに無反応だ。


「どうしたんだ?」


『……真殿』


「ん?」


『真殿は、その…人間なのか?』


「へっ? な、何言ってんだよ、人間だよ人間!」


『そ、そうか。すまぬ、我の思い過ごしだ』


蒼炎から初めて戸惑っている声色を聞いたと思ったら、突拍子もないことを聞いてきた。

俺は間違いなく人間だ。

八神隼人と姫香を父母に持つ八神一族の人間。

それ以上でも以下でもないさ。


「? まぁ、それでいいならいいけど。じゃあ、修業を再開するか」


『うむ、存分にやってくだされ』


もう一度蒼炎を握って黙想する。

今度は寝ないように蒼炎に意識を集中させる。


見ようとしてはいけない…感じるままに……




―キーン…キーン…―




「……ん?」


黙想中に不意に頭に金属音が響いた。

でも、焔獣の気配を感じる時とは違う、不思議と心地よい感覚だ。

焔獣から聞こえる音は音階など全く考えられていない不協和音、でも蒼炎から聞こえる音はそのまま聞き入ってしまいそうな優しい音。


「これが、蒼炎の波長…か?」


『そう、これが我の波長だ』


「これに合わせるってどうやるんだ?」


『気をコントロールして我の波長に真殿の波長を合わせるのだ。次第に今聞こえている音が聞こえなくなり、やがて聞こえなくなる瞬間がある、そこが同期点だ』


「む、難しいな…。――気をコントロールか…」


この前同期した時のことはあんまり覚えてないから、やっぱりイメージするしかないか。

深呼吸を繰り返して、気の調節をイメージしよう。


「…おっ、だんだん音が小さくなってきた」


最初に聞いた音から徐々にではあるが、それが小さくなっていく。

それとともに自分が何か温かいものに包まれているような感覚になる。


「…あと少し……もうちょっと………ここ…か?」


心地良い音が聞こえなくなっていき、体から徐々に力が湧いてくる。

そして、ある瞬間に音が完全に消えた。


『真殿、目を開けてくだされ』


「…ん………すげぇ」


蒼炎に言われるまま目を開けると、そこには紅蓮の炎に包まれた刀があった。


これが同期。

昨日、相良と柳に向かって攻撃しやがった焔獣を葬った力。

ただ蒼炎を解放したときとは比べ物にならない力が俺を包んでいるのが分かる。


『今の感覚を覚えておいてくだされ、慣れれば麗奈殿のようにすぐに同期できるようになる』


「分かった」


蒼炎の言葉を胸に、今の感触を改めて確認してから同期を解く。


「これが同期か……あれ?」


ふと気付くと全身に汗をかいていて着ているTシャツがぐっしょりと濡れていた。


『はっはっは、あれだけの気をコントロールしていたのだ。相当精神力を使ったはず、汗も出るだろう』


「そっか……………あー、それにしても疲れたー」


『同期ができたのだから、今日はもう休んでもいいだろう』


「そうだな。麗奈も文句言わないだろう」


あいつのことだから一言二言ぐらいは何か言うだろうけど、それももう慣れたしな。

疲れ果てた体をベッドに沈めて、重くなった瞼を重力に逆らわせることなくそのまま下ろして、深い闇に身を任せた。


いかがでしたでしょうか?

ご意見・ご感想お待ちしております!!


さて、同期のやり方が分かった真、これで麗奈にまた一歩近づいた。

そして、蒼炎も気になりだした「八神 真」という人間。

蒼炎の言う通り八神はただの人間ではないのか…?

そして、さらに楽しくなる八神の周り。今後はどのような展開が待っているのか。

次話をお楽しみに!!

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