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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第十章 光の治癒、翠の加護
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第一部 翠光

真の絶対絶命のピンチを救った柳相馬。

そして、麗しき図書委員の宮野紫苑。

なんと二人も真や麗奈と同じ宿命を背負っていた。

果たして二人にもたらされた力とはどのようなものなのか…?

重い空気で満たされていた俺の部屋。

今居る四人でほとんど一杯一杯なこの部屋に薙刀と槍がその存在を主張している。

「砕光翔」、「風翠翼」という名を持つそれらは俺の親友―柳相馬とその彼女(?)の宮野紫苑が握っている。


焔神を討つ―…その宿命を背負っている俺と麗奈。

そしてつい最近同じ宿命を背負ってしまった柳と宮野さん。

出来ることなら他の人を巻き込みたくはなかった…。

自分の大切にしている人が傷つくのがトラウマになっている俺にとっては柳が……大親友が傷つくのがとてつもなく怖い。

今も目の前で俺に視線を向けて微笑んでいる柳。

まるで何もかもを見透かしているような優しい目。


きっと見透かされてる。


それぐらい俺と柳は太く繋がっているんだから。

だから、絶対護る―…。

こいつらを護るために自分が傷つくのは構わない。


柳の決意と慈愛に満ちた目に向かって、俺は自分の確固たる意志を乗せた視線を突き返していた。


「じゃあ、あなたたちの力を見せてもらいましょうか」


俺と柳が目で会話をしている最中、声を上げたのは麗奈。

ゆっくりと立ち上がり、お決まりのポーズとばかりに腕を組んでいる。


「ええ、いいですわよ。どちらでお見せしましょうか?」


「裏にいつも修行で使ってる竹林があるわ。そこでやりましょう」


「分かりました」


麗奈に答えながら優雅に立ち上がった宮野さん。

夕暮れの紅い光が差し込む窓の前、見上げた俺の視界には逆光で暗く見える二人の姿。

麗奈が少し見上げ、宮野さんが見下ろす形になっているその様子は、まさに窓というキャンパスに描かれた絵画というに相応しい情景だった。


「それじゃ、行きましょうか」


「えぇ」


「真と柳君も付いてきて」


「あぁ」


「分かった」


宮野さんの横をすり抜けて部屋のドアに手を掛ける麗奈。

ドアを開ける直前に目だけをこちらに向けて放たれた俺と柳に対する言葉。

少ししか視線が合わなかったけど分かる。

麗奈も俺と同じ決意を持ってることをあの視線が語ってくれた。


そんな麗奈の視線に射られた俺と柳は宮野さんに続いて部屋を出て、麗奈に導かれるままいつもの修行場に向かった。






「で、あなたたちはどこまでできるの?」


俺と麗奈が修行場として使ってる神社の裏の竹林。

何百本という竹が乱立しているところにポツンとある何もない空間。

じいちゃんによれば昔俺と親父がよく一緒に遊んでいたところらしい。

親父が死に、俺が大きくなって遊ばなくなっても何故かそこには竹が生えることなく雑草が少し生ているだけだ。


その数人が優に遊べる空間に俺たち四人が集まった。

麗奈を先頭にして最後尾に俺が並ぶ形で移動していたが、目的地に着くなり踵を翻して麗奈が俺を含めた三人に向かって声を出した。


「"どこまで"というのは?」


陽が傾いている時間帯、風が穏やかに竹林をくぐり抜けてサワサワと竹の葉同士が擦れ合う。

耳に少しだけ触れるような柔らかい音と同じように宮野さんの言葉が聞こえた。


「例えば私なら――」


麗奈が闘牙を解放し、更に同期までしてみせた。

その流れるような所作の中、麗奈の瞳が碧色に、腰まである髪が銀色に染まっていく様子は竹林に差し込む夕日と相まって幻想的な雰囲気を醸し出している。


「ここまでできるわ」


同期した姿を柳と宮野さんに見せつけるように少し体を動かしている麗奈。

二人がその様子をまじまじと見ているのを確認して闘牙を腕輪に戻した。


「あなたたちはどこまで武器の力を引き出しているのかしら?」


腕を組むお決まりのポーズで二人をじっと見つめる麗奈。

俺が初めて麗奈に出会ったときのような…何かを見透かしている眼光が二人を射ている。


「僕はさっき見せた通り解放はできるけど、同期はできない。……でも、術と言うか魔法のようなものが一つ使えるよ」


「私も同じです。一つだけですが、風翠翼に教えてもらいました」


言葉の整理が出来たのか、少しの沈黙の後に柳が口を開いた。

その柳が話し終えると同時に、宮野さんが続いた。


「ふーん、それはどんな術なの?」


「僕のは治癒魔法だね」


「私のは防御魔法ですね」


「今すぐに見せてもらえるものなの?」


「僕のは八神と水城さんの修業の後に見ると分かりやすいよ」


「私はすぐに見せられます」


右手に風翠翼を持った宮野さんが優雅に一歩前へ出る。

地面に立てられたその槍は真っ直ぐ天に向かって伸びており、宮野さんの几帳面さを窺わせる。


「麗奈さん、八神さんとの修業で周りを壊さないように気にしてませんか?」


「えっ? …そりゃあ、真の家のだしあちこち壊さないようにしてるわよ?」


麗奈に向かってもう一歩足を進ませた宮野さんがふわりと柔らかい笑顔を麗奈に向けた。

術をサッと見せてもらえると思い込んでいたのか、麗奈は予想外と言わんばかりの顔をしている。


「では、私の魔法はそれを解消できるものですよ」


そんな麗奈に構うことなく、宮野さんは更に足を進めて手に持つ武器を握り締めた。

そしてすぅっと瞳を閉じ――


「天より射されし翡翠の光――…」


その小さな口から何やら呪文のような言葉が聞こえる。

そんなことに俺が驚いていると、風水翼の先端から翠色の光が溢れ出して宮野さんを包んでいく。

膝まである長い漆黒の髪はゆらゆらと揺らめき始め、翠と橙のコントラストが一枚の絵画を作り出した。


「我の命に従いてその身を委ねよ…翠曲格子ジェィド・グリッド!」


そんな優雅な絵画とは打って変わって、宮野さんから放たれたのは力強い叫び声。

そして、持っていた風水翼を勢いよく地面に突き立てると、空から翡翠の雷が枝分かれしながら落ちてきた。


「おわっ!!」


自分のすぐ後ろに落ちてきた雷に思わず声を上げてしまった。

しかし、驚いている俺を尻目に翡翠の光は次々に天から降り注ぎ、柳や麗奈の近くにも突き刺さる。

しかし、柳も麗奈も全く動じていない。

柳はあらかじめこの術を見せてもらっていたんだろうが、麗奈は俺と同じく今初めて見たはず。

あんなに近くに雷が突き刺さってるのに動じないとは…、あいつと俺の差はまだまだあるということか…。


そんなことを考えていると、地面に突き刺さっている光が今度は横に伸び始め、お互いを翠の光で繋いでいく。

そして、俺たちを優に包み込む程のドーム状の格子が出来上がった。


「ふぅ……どうぞ触っても大丈夫ですよ」


術を出し終えた宮野さんが手を差し出した。

もうさっきまで宮野さんを包んでいた翠の光はなく、さっき出会った姿がそこにある。


「不思議な感触ね、固くも柔らかくもない…」


麗奈がさっそく近づいてそれに触れて、その感触を確かめるように押したり叩いたりしている。

俺と柳もそれに倣うように自分たちの近くの壁に触れる。


「本当だ。うまく例えることができないけど、弾力があってでも当たっても怪我とかあまりしなさそう」


「これは外の攻撃からあなたたちを護る術です。ここまで大きなものは今日初めてやったのですが、うまくいってよかったです」


優雅な微笑みを讃えて、宮野さんが嬉しそうな声を出す。

母親に褒められた子供のようにあどけないその顔に思わず見とれてしまいそうになるが――


「これで遠慮なく真と修業できるってことね」


その癒しタイムを崩壊させてくれるのはやはり麗奈。

俺の方に視線を向けてニヤリうと不気味な笑みを浮かべている。

獲物を見つけた狩人のようなその顔に思わず後退りしてしまった。


「八神に限らずだけど、同期や術の修業もここでできるんじゃない?」


「そうね、多少の攻撃ではびくともしないみたいだし」


俺の隣で砕光翔を杖代わりにしている柳が、ドームを見上げるようにして呟くような声で言った。

麗奈も柳の提案には賛成のようで、同じように上を見ながらポツリと漏らす。


「まぁ、八神は一回同期してるから修得までにそう時間は掛からないだろうけどね」


「何ですって!?」


柳が何気なく放った一言が狩人と化している麗奈を激しく動かした。


「いつ同期したの!?」


闘牙を解放していないのに俺が気付かぬ内に間合いを詰めた麗奈に胸ぐらを掴まれる。

そのままギリギリと首を絞められる俺。


「き、昨日昨日!!」


「なんで私に黙っていのよ!!?」


「い、いや…そこら辺をよく覚えてなくって――。…あと、そろそろ限界……」


麗奈の腕をパンパンと叩いて警告。

首を圧迫していた手がようやく離れて新鮮な空気を体に巡らせる。


「そ、それにほら、麗奈だってそれどころじゃなかったろ?」


「何言ってんの、私がそんなわけ――」


そこまで言った麗奈が急停止。

俺と麗奈を暫しの沈黙が包んだ後、麗奈の顔が急に赤くなった。


「真のバカ! なんてこと思い出させるのよ!!」


「ってぇーー! もとはと言えばお前だろうが!!」


「そこはデリカシーがあるところを見せなさいよね!!」


「無茶言うなー!」


顔を赤くした麗奈と恥ずかしさの余り空手チョップを喰らった俺のなんとも無意味な掛け合い。

まさか偶然にも同期したときの話からこういうことになるとは誰が予想しただろうか…。


「と、とにかく! これからそういうことがあったらすぐに私に知らせなさい、いいわね!?」


「わ、分かったよ」


あまりに勢いよく言われてしまったので思わず頷いてしまった。

そうしてクルリと向きを変えて歩いていく麗奈。

俺はその様子をホッと胸を撫で下ろして見ていた。


「あ、忘れてた」


「ん? ……うわ!!」


再び向きを変えたかと思うと一瞬で俺との距離を詰めて、闘牙をフルスイングしやがった。

もちろん峰打ちなんだけど……。


「がっ…」


そのまま為す術なく格子に叩きつけられる俺。

…た、確かに固くも柔らかくもないけど、……でも、やっぱり痛い…。


「八神、大丈夫……じゃないよね」


地面にひれ伏す俺を柳が覗き込んでくる。

眼鏡の奥に見える瞳は本気で心配してる目だった。


「ま、まぁちょうどいいし、僕の術を見せてあげるよ」


少し焦り気味に話した後、俺から少し離れて宮野さんの時と同じように砕光翔を握り締めた。


「森羅万象の光の精よ――」


束ねた髪が揺らめき、砕光翔から出てきた金色の光が柳の体を包んでいく。

その光は柳が呪文を詠唱していくごとに輝きを増し、次第にその姿を目に映すのが難しくなってきた。


「我が言霊に応え、その力を我に与えよ…滴光癒ヒール・ライト!」


呪文を唱え終えたのか、宮野さんと同じように力強い言葉が聞こえた。

すると、次の瞬間には砕光翔の矛先から大きな光の球が放たれ、麗奈の所為で痛みを負った俺を包み込んだ。


「うおぉ! 何だこれ!?」


「それが僕の治癒術だよ。今の八神の傷ならすぐに治せる」


光に包まれる感覚に驚きながら自分の体を見てみると、さっきできた傷がどんどん塞がっていく。

そして、治癒が終わったことが分かったのかそれまで俺を包み込んでいた光の球は静かにその姿を消した。


「すげぇ……」


「修業したら、もっと上の治癒術が使えるようになると思うよ」


「あの…、ところで――」


それまでそっと俺たちのやり取りをみていた宮野さんが、凛とした声を響かせた。

小さく手を挙げているその姿もまた可愛らしい。


「同期って、どうやるのですか?」


「それは僕も聞きたいな」


「あぁ、俺も聞きたい」


三者三様に言葉を出して、同期ができる人物を見た。


「まぁ、これは私の場合なんだけど――」


一気にみんなの注目を集めたそいつは、軽くため息を吐きながらも説明を始めた。


「闘牙を手にして修業をしてから二週間後ぐらいかしらね、いきなり“儂の波長に合わせてみろ”って言われたのよ」


「波長?」


「そうよ、この世のあらゆる物はそれぞれに異なる波長を持っていて、それに自分の波長を合わせることが同期っていうことらしいわ」


「…難しいな」


「えぇ、でも精神を研ぎ澄ませて自分の気をコントロールできるようになれば同期はできるわ」


「…はぁ」


「まぁ、黙想してみることね。みんなにもやり方教えるから」


そう言って手招きしてみせる麗奈。

反対の手にはいつの間にか闘牙が握られている。

そして、俺たちが集まったことを確認した麗奈はドカッと地面にあぐらをかいた。


「さっきも言ったけど、黙想するのは自分の波長がどれで、それぞれの武器の波長がどれなのかを知るため。だから、必ず武器を解放してやること、これがまず一つ。姿勢は正座でもあぐらでもどっちでもいいわ、自分が長く集中していられる姿勢を選んでちょうだい」


柳、宮野さん、俺と順番に目を合わせながら話していた麗奈だったが、今度はその瞳を閉じていった。


「そして、眼を閉じて武器の波長を探すことに神経を集中させる。割とすぐに見つかるはずよ。自分の波長は気の使い方で調節することが出来るから、あとは合わせていくだけ。――これが黙想のやり方。何回もやれば同期がすぐにできるようになるわ」


同期するまで見せてくれると思っていたが、麗奈もそんなに自分の気を使いたくないのか、黙想をする方法の講義は十分程で終了してそろそろ日が暮れてきたので今日はもう解散することにした。


「じゃあ、また明日」


「失礼しますね」


柳と宮野さんが夕焼けの中、自宅に向かって足を進めている。

その後ろ姿はとても優雅で美しく、テレビドラマを見ているような錯覚に陥ってしまう。


「真」


しかして俺の心微睡む時間は、お転婆な娘さんによって妨害されるものなのだ。


「あんたも早く同期できるように部屋に戻って修業しなさい」


「はいはい、分かったよ」


今日の修業内容を通達された俺は、おとなしくその指示に従い自室に戻って黙想することにした。


「さてとやるか、蒼炎」


『うむ、我の波長をしかと感じてくだされ』


念のため部屋には鍵を掛けて、さっき教えてもらった通りに蒼炎を持って黙想する。

あぐらか…いや、正座かな……やっぱあぐらだな。

波長を感じるなんてことはまだできないだろうけど、精神を研ぎ澄ますことはなんとかやってみよう。

静まり返った部屋で一人沈黙の海に身を沈めていく。耳に入ってくるのは鳥のさえずりや、風の音だけで自分の心が見えてくるような気がする。


“しっかし、これは眠くなるな”


深呼吸を繰り返しているので、ついつい眠気に負けそうになる。


“いやいや……耐え…ろ……俺”


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