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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第九章 光と翠を授かりし者
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第一部 覚醒

紅蓮の力を解放し、自らの気を使い果たして意識を失った真。

あのとき助けてくれたのは誰なのか…?

自分に加勢してくれるのか…。

それとも対峙することになるのか…。

もやもやする真の目の前に現れたのは――?

“どこだろ、ここ? まるで浮いてるみたいだ”


どれぐらい時間が経ったのか分からない。

気付いたら真っ暗な世界に居た。


眼を開けている…ような感覚はあるんだけど何も見えない。

でも、不思議と心地いい…。

体全体が何かに包まれているような感覚がする。


何で俺はこんなところに居るんだ…?


狼みたいな焔獣と戦った。

それは覚えてる…。

それで倒したところでもう一体の焔獣に気付いて…。


それからどうなったっけ…?


確かそいつがこっちに向かって突進してきて…。

そこで何か…何かあったような気がするんだけど……。


「真…」


“ん?”


ぼーっとする頭で何とかさっきの出来事を振り返っていると、真っ暗な世界に俺の名を呼ぶ声が響いた。


「真よ…ようやく力を目覚めさせることができたか…」


戸惑う俺の前に人の形をした何かが現れる。

眩しい光に包まれていて輪郭以外は何も分からない。


「どうした…? ……そうか、まだ私の姿は見えないか…」


それには俺の姿が見えているのか、少し残念そうな声を出している。


“なぁ、あんたは何者なんだ?”


「お前がここに来たということは、私が封じ込めたお前の力が解放された証…」


あれ…?


俺は確かに声を出したはずなのに、眼の前のそれは質問を完全にスルーしやがった。


もしかして俺の声は届いてないのか…?


「私の姿が見えないということは、まだその力は自分の支配下にないということか…」


“さっきから何を言っているんだ?”


「真よ…力が解放された今、お前は更に強くなれる。なにせお前は――。…おっと、もう時間か……」


輪郭しかないそれが上を見上げている。

俺も釣られて見たが、そこには暗闇しかなかった。


「これ以上お前がここに居ると、私の精神がお前を侵してしまう。それに、お前を大切に想っている人が傍で目覚めをまっているようだし…」


こちらに向き直った光は、スッと手を伸ばして掌を俺に向けてきた。


「また会おう、真。姫香さんたちをしっかりと護ってくれよ?」


心なしか、そいつが微笑んだような気がした。


“『姫香さん』って、まさか…おい、ちょっと待ってくれよ!!”


今まであった形がどんどん小さくなっていく。

呼び掛けも虚しく光は消え、暗闇の中で俺の体はどんどん加速して上へ上へと進む。


“うおあぁぁ――”


どれくらい進んでいったのだろう、暗闇の世界に一筋の光が見えてきた。

俺は更に強い力でその光に吸い込まれ――






「あぁ!」


ガバッと勢い良く体を起こす。


「ここは…」


同じように暗いが、さっきまで居たところのような何かに包まれてる感じはしない。

俺の体は確実に何かの上に乗っていて、小さい音だがカチッカチッと一定のリズムが聞こえる。


「俺の部屋…か?」


まだ完全には覚醒していない頭を回転させて現状を把握。

眼が暗がりに慣れてきたのか、ぼんやりとだが周りの景色が見えてきた。

よく見た机、椅子、鏡、耳に馴染んだ時計の音、そして俺の匂いが染み込んでいるベッド。

それらが俺がどこにいるのかを明確に示してくれた。


「ふぅ…なんだっただろ、さっきのは…」


脳裏に深く焼き付けられている暗闇での記憶を反芻する。

一方的に話されたとは言え、その一言一句を覚えている。


「夢にしては鮮明すぎるな…。それに、あの人は―――――ん?」


ふと視線を横にずらすと、ベッドにもたれかかるようにして麗奈が寝息を起てていた。


「もしかして俺が起きるのを待っている人って……」


さっきの言葉が不意に脳裏をよぎる。


「……まさかな」


麗奈に限ってそれはない。

そろっとベッドから降りて掛けられていた布団を麗奈に掛ける。


「なぁ、蒼炎」


『何だ?』


「俺は…あの後どうなったんだ?」


『我にも分からぬ、真殿が気を失った時に我の意識も途切れてしまったからな…』


「そうか…」


すべては闇の中…か。

ふっと麗奈の方を見る。


「麗奈なら何か知ってるかもしれないな」


『麗奈殿が?』


「俺をここまで運んだのが誰なのか…もしかしたら麗奈が運んだかもしれないけど何か見たかも」


『なるほど、では起きるのを待つか』


「あぁ、もう一つやっておきたいことがあるからな」


寝ている麗奈を起こさないようにそっとドアを開けて階段を降りる。


さすがに夜中なので誰の気配も感じられない。

電気を点けると母さんが起きてしまいそうだから、そのまま暗い廊下を歩いていつもの場所にそっと入る。


「親父…」


座布団に正座をして遺影に向かって話し掛ける。


「あれは…親父だったのか?」


『真殿、父上がどうかしたのか?』


突然仏間にやってきたことが蒼炎には異様に映ったのか、戸惑っているような声を出した。


「実は目が覚める少し前、何もない暗闇に人が現れたんだ」


『人が?』


「あぁ。光で造られた輪郭しか見えなくて、会話もできなかったんだけど、あることを言ってたんだ…」


『………』


遺影に向けていた視線を一度蒼炎に向けた。

俺の左腕にはめられている腕輪は何も語らず、ただ俺の言葉を待っている。


「私が封じた力が解放された――…って」


『封じた力……どういうことだ…? 真殿には封印された力が眠っていたのか…?』


「分からない。俺は封印の儀式みたいなものを受けた記憶なんてないし、小さいころから琴音のように霊感があったわけでもない…」


蒼炎の低い声が俺の頭に響く。


「それに、今も別にこれまでより力が溢れているような感覚はない」


『確かに…。そうであるならば我が気付かないはずがない』


自分の体に変わったところもなければ、気が中で蠢いているようなこともない。

ということは、やはりあれは夢…?


「でも、俺の中の何かが…さっきのが夢じゃないって言っているように感じる…」


『確かに…夢にしては出来過ぎているような気はするが…』


「あぁ、夢なら俺の都合で変えられたはずだし…。しかも、俺はその人が最後に言った一言が妙に気になっていてさ」


『その言葉とは…?』


「“姫香さんたちをしっかりと護ってくれよ”って言ってたんだ…」


親父の遺影を見つめて目を細める。


「“姫香”は母さんの名前だ。少なくとも俺が知っている人の中で母さんを名前で呼ぶ人は親父以外居ない…。だから、もしかしたら俺の前に現れたのは親父だったのかと思ってさ」


『ふむ…、真殿の父上は何か特別な力を持っていたのか?』


「いや、俺が知る限りただの人間だ。母さんは霊感とか強いみたいだけど…」


『そうか、こちらも謎となってしまったな…』


「…でも、親父だったらきっと味方だ」


『そうだな』


少し崩していた正座を正し、目を閉じてゆっくりと手を合わせる。

ひとまず無事であることを報告し、さっきの疑問も投げ掛けて立ち上がった。


「さっ、もう一眠りするか…」


来た時と同じ、暗い廊下を通って部屋に戻る。

麗奈を起こさないようにドアノブをそっと回して足を踏み出す。


「真!」


「うおっ!」


寝ているものだと思い込んでいた麗奈がいきなり飛びついてきたので思わず声を上げてしまった。


「麗奈、どうしたんだ?」


「どうしたじゃないでしょ? あんた、体は大丈夫なの!?」


「あ、あぁ…普通に動くよ」


そう言って腕を軽く動かして見せる。


「よかった…」


「ん、麗奈?」


暗がりでぼぅっとしか麗奈の顔を見ることができないが、安堵の表情を浮かべた後に顔を伏せてしまった。

抱きついたままの体勢で俺の胸に頭を押し付けていて、それが小刻みに震えている。


「お前、もしかして泣いてるのか?」


「な、泣いてないわよ!」


目の辺りをごしごしと拭ってキッと俺を見てくる。


いや、バレバレだって…。


「ありがとう、麗奈」


「えっ?」


「心配…してくれたんだろ?」


「そ、それはまぁ…そうだけど」


少し視線を下に降ろして俯く麗奈。

しかし、すぐに復活して鋭い視線を向けてくる。


「でも、それは仲間としてだからね!? へ、変な勘違いしないでよね!?」


「誰もそんなこと言ってないって」


「う、うるさいうるさい!!」


恥ずかしさからか、俺の胸をポカポカと殴ってくる。別に本気でやってはいないので痛くはない。


「ふん! も、もう寝るわよ!」


そう言ってベッドに潜り込んでいく麗奈。

もちろん俺の。


「お、おい」


「何よ?」


「何で自分の部屋に行かないんだよ?」


「後ちょっとで朝なんだから、ここで寝るわ」


布団を引き寄せて俺に背を向ける。


「俺は?」


「あんたは床で寝なさい」


「床かよ」


「言っとくけど変なことしたら殺すからね」


そこまで言うと麗奈はスヤスヤと寝息を起てていた。


まぁ、ずっと見ていてくれたみたいだからいいか。

そう思うと麗奈の寝顔も可愛く見えてくる…。


はっ! 何を考えてるんだ俺は!?

俺が麗奈なんかに萌えてたまるかっ!!


「はぁ、俺も寝よ…」


少しの時間しかないが、床に寝そべって眠った。


……………固いなぁ。


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