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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第八章 紅蓮の力
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第一部 三人

自分の世界の人々を護る覚悟を決めた真。

固い決意で焔獣と対峙して見事殲滅することができた。

しかし、八神に安息のときはない…。

迫りくる次の敵は真の身近な存在の生命を脅かす…。

そのとき蒼炎の力が――!!

「真、起きなさい」


「ん、んん…」


朝が来たことを告げに来たのか体を揺さ振られる。

カーテンが開かれているのか、眩しい日差しが瞼越しに眠たい目に突き刺さる。


「んー、後五分……」


「だめ、今すぐ起きなさい」


実力行使に出たのか、腕を掴まれる。


「あ、琴音も一緒に寝れば問題なしだな…」


「えっ? …きゃっ!」


寝ぼけながら掴まれた腕を逆に掴み、自分の方に思い切り引き寄せた。

そのまま体に腕を回して二度寝に突入しようとする。


「ちょ、ちょっと、真…」


「琴音、兄妹なんだから気にすん――」


「お兄ちゃん、おっはよー!!」


琴音を抱き締めたまま二度寝に突入寸前だった俺の頭に超ハイテンションな声が響き渡る。

その声の主は有無を言わさず布団を剥ぎ取る。

それの所為で頭が一気に覚醒した俺は体を跳ね起こした。


「琴音、朝一から大声を出すんじゃない」


「だって麗奈お姉ちゃんが起こし行ったのにお兄ちゃん全然下りてこないんだもん」


「だからってなー、……………ん? ちょっと待て、お前琴音だよな?」


「そうよ」


「で、麗奈が何だって?」


「麗奈お姉ちゃんがお兄ちゃんを起こしにいったの。お兄ちゃん、寝ぼけ過ぎよ?」


「と、いうことは……?」


そこまでいってようやく現実を理解した俺の頭が首をガクガクと回す。

その先には頬を少し赤くし、眉を吊り上げている麗奈の姿があった。


「ようやく分かったかしら、真」


ゆっくりと体を持ち上げながら話す麗奈。

顔は赤いままだが、発するオーラが徐々に黒くなっていく。


「琴音ちゃん、すぐに行くから下で待っててくれる?」


「うん、分かった。早く来てね!」


麗奈の言葉に従順な琴音は、俺の部屋を出てリビングに向かった。

…で、残された俺はというと……。


「真、おはよう」


「おはようございます…」


「朝から腕が痛いんだけど…?」


「大変申し訳なく思っている次第です…」


ベッドから降りて俺の前に仁王立ちしているであろう麗奈に責められる。

恐怖からこれ以上首が上に上がらない…。


「さて、私はそろそろリビングに行くけど、真はどうする? まだ寝てる?」


「いや、俺もそろそろ起きようかと――」


その言葉に思わず勢いよく顔を上げてしまう。

しかし、上げてすぐに後悔した。

俺の目に映ったのは眉を吊り上げながら笑顔を作るという器用なことをしている麗奈の顔と、右手に握られた今にも放たれようとしている鉄拳だった。


「そう、まだ寝るの…。じゃ、お・や・す・み!!」


「ぐぬぅおぉぉ!!」


目にも止まらぬスピードで放たれたそれは俺の腹のド真ん中を貫いた。

薄れゆく意識の中で、部屋を出る麗奈の足音と勢いよく締められたドアの音だけが聞こえた。






「はっ!!」


どれぐらい経っただろうか。

殴られた衝撃から復活した俺はすぐさま時計に視線をやった。


「やべぇ、もうこんな時間かよ!!」


ベッドから跳ね起き、大急ぎで制服に着替えてから激痛が走る腹を押さえて階段を下りる。


「母さん、飯!」


「そこにあるわよ?」


皿の上には目玉焼きとトーストが置いてある。

それを一緒にして一気に平らげる。


「ごちそうさま、いってきます!!」


「はいはい、いってらっしゃい」


時間がないので日課も短縮バージョンで済ませる。

ごめん、親父。


「よし、これなら間に合う!」


時計を見るとなんとか遅刻せずにすみそうだ。

そう思うと少しだけ落ち着きを取り戻した。


「ったく、麗奈の奴」


「私がどうかした?」


「あれ?」


てっきり先に行ったと思っていたのだが、麗奈は自転車のところで腕を組んで立っていた。


「何だ、先に行かなかったのか?」


「歩いてだと遠いでしょ、あの学校」


「遅刻するかもしれないんだぞ?」


「遅刻ぐらいどうってことないわ、要は欠席しなければいいのよ」


強い…強すぎるよ麗奈。

仁王立ちで自信満々な麗奈に若干の羨望の眼差しを向けてから自転車に乗り込む。


「それじゃ、行くか!」


後ろに麗奈が乗ったのを確認して、いつもより足に力を込めてペダルを漕ぐ。


「ねぇ、真」


「ん、何だ?」


みんなとの合流地点を目の前のして麗奈がやや真剣みを帯びた声を出した。


「今日の朝ご飯おいしかった?」


「んー、大急ぎで食ったからなぁ」


一気に平らげたので正直味などあまり気にしていなかったが


「でもまぁ、おいしかったかな」


別にまずくはなかったと思う。


「ホントに!?」


「あぁ、飯のことで嘘はつかないって」


「やったぁ」


「ん、何か言ったか?」


「へ!? う、ううん…別に!」


小声で何か言ったような気がしたが…まぁいいか、先を急ごう。

時計とにらめっこをしながらいつもの坂のところまで自転車を走らせる。


「おっ、八神。いつもより遅いじゃねぇか」


「八神ー、レナッチー、おはよー」


学校に続く坂の入り口で相良と山中さんに出会った。

…山中さんは歩きながら寝れるのか?

目は完全に閉じられているのだが、それでもふらふらせずに歩いている。


「そろそろ空気が湿ってきたな」


「あぁ、そうだな」


いくら今日みたいに空が晴れ渡っていてもそろそろ梅雨が近づいている。

それの所為で空気がじめじめして、なんとも不愉快だ。


「おっ、あれは柳か? おーい、やーなぎー!!」


「やぁみんな、お早よう」


柳が声に反応したそいつが振り向く。

束ねられた長髪がふわりと揺れて、美少年に輝きを持たせている。

…ちくしょう、何をやっても画になる奴め。


「おや、八神。今日は遅かったね」


「あぁ、ちょっとごたごたしててな」


「あっ、そうや。八神――」


もうすぐで学校というところで麗奈と話していた山中さんが俺の隣に走ってきた。


「今日ちょっとレナッチを借りたいんやけど…ええやろか?」


「え? 別にいいけど――」


「ちょっとキョウ、何で真に許可を取るのよ?」


どうやら麗奈も俺と同じ疑問を持ったようで、スラッと伸びた眉をひくつかせながら腕を組んでいる。


「いやー、やっぱ彼氏に許可取っとかなあかんやろ?」


ニタニタと笑いながら俺ごしに麗奈を見ている。


「だ、だからこいつはそんなんじゃないってば!!」


「アッハハ! 隠さなんでもええって!!」


「ちょっと持ちなさい、キョウ!!」


山中さんが満天の笑顔を見せて走っていき、顔を赤くした麗奈がそれを追い掛けていく。

残された俺たちはそれを止めさせるでもなく、ただぼんやりと見ていた。


「さてさて、ではワシらも行こうかのう」


「何老けてるんだよ、相良」


腰に手を当ててわざとらしく屈んで歩いている。


「京香も麗奈ちゃんも元気よすぎだぜ」


「確かにあの二人は他の生徒と比べてもとりわけモチベーションが高いね」


やれやれといった様子で手を広げる相良。

そこに美少年による解説が入る。


「彼女と山中さんはどこか似ているのかもしれないね」


「麗奈と山中さんが?」


柳の言葉に思わず反応してしまった。

どう考えても似てないだろ、あの二人は。


「自分と似ている人物が近くにいると、それだけで安心して慣れていくものだよ」


「ふーん」


「まぁ、どこが似ているのかまでは僕にも分からないけどね」


そう言って少しはにかんでみせる。


「麗奈と山中さんがねぇ…」


俺から言わせればあの二人は正反対だ、似ているところなんて見当たらない。


「あれ?」


俺たちは校門のところに着いたのだが、二人が見当たらない。


「もう教室に行ったみたいだね」


「まったく、元気よすぎだ」


男三人でそれぞれ苦笑を漏らしながら教室に入る。


「そういえば山中さんは水城さんをどこに連れていくんだろうね?」


いつも通りのポジションに着いてこれまたいつも通りに談笑する。


「あぁ、洋服買いに行くんだってよ」


柳の疑問に相良が即答した。


「知ってたのか、相良」


「あぁ、今朝会ったときにな。麗奈ちゃんの服も選ぶって張り切ってたぜ?」


「へぇー、ってあいつ金持ってるのかな」


「まぁ、今持ってなかったら京香が貸すだろ」


「おーい、席に着けー」


「おっ、もう時間か。それじゃまた後でな」


俺の心配事が増えたところで先生が教室の扉を開け、授業開始のベルを鳴らした。


「それじゃ、この前の続きから…柳、教科書121ページから読んでくれ」


「はい」


白髪混じりの頭をした国語の先生が俺の後ろで真面目に教科書を開いている柳を指名する。


「この話は――」


柳が朗読しているのを聞きながら、教科書に視線を滑らせて俺も授業を受けていた。






「さぁ、帰ろう帰ろう」


カバンを肩に下げて、相良が俺たちのところにやってきた。


「あ、僕はちょっと図書室に寄るから先に帰ってていいよ」


「水臭いぞ柳、俺たちも一緒に行くぜ。なっ、八神」


「あぁ、時間もあることだしな」


「そう?、じゃあすぐに済ませるね」


俺たちは柳に連れられて図書館に向かった。

あんまり行ったことはないが、柳が言うには図書館よりも専門書が多くて助かるんだそうだ。


この学校の歴史を物語るような古い木の扉を開けて柳が入っていく。


「あ、柳さん。こんにちは」


「こんにちは、宮野さん」


入った瞬間に受け付けにいた女生徒が声を掛けてきた。

宮野と呼ばれたその女性は、柳と同じぐらい背が高く、細身で眼鏡を掛けていて、黒髪はひざまで届こうかというほど長い。

挨拶したときの姿勢や立ち居振る舞いがこの人の清楚な感じを醸し出しているのだろう。


「頼んでた本あるかな?」


「はい、こちらに」


そう言うと、奥の方から何やら分厚い本を抱えて戻ってきた。


「そろそろいらっしゃると思って取っておきました」


「ありがとう」


宮野さんが笑顔で差し出した本を受け取る。


「他に読みたいものはありますか? よろしければ取っておきますよ?」


「そうだなぁ――」


柳は考えるように腕を組んで


「何か世界の神秘を感じられるものがいいな。宮野さんに選んでもらってもいいかな?」


「えぇ、喜んで。明日取りにいらしてもいいようにしておきますね」


「それじゃ、急いでこれを読まないとね」


嬉しそうに柳のお願いを聞き入れ、たぶん冗談を言っている宮野さん。

柳と二人で上品に笑みを漏らす。

ダメだ、俺には上品すぎてついていけない。


…そういえば何で柳は俺たちと一緒に居るんだ?

もっと話の合う友達はたくさん居るだろうに。

まぁ、今となってはどうでもいいけど。


図書館を後にした俺たちは、夕焼けがかる空に包まれながらいつも通りに坂を下っていた。

下校時間を過ぎている所為か俺たち以外に帰っている生徒の姿は見えない。


「柳、それ何ていう本なんだ?」


鞄を持ちながら器用に手を頭に当てている相良が沈黙に耐えられなくなったように声を出した。


「ん、これかい? アインシュタインの相対性理論について書かれているんだ」


「そうたいせいりろん?」


「…そんな気の抜けた声を出すなら聞くなっての」


自滅した相良を横目で見て、ふぅと軽くため息を吐く。






『くっくっく…呑気にしている場合かな……?』






「何!?」


いきなりどこかから声が聞こえた。


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