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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第七章 護るということ…
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第一部 葛藤

焔獣に襲われ、命が危ないながらも戦えなかった真。

果たして真は焔獣を斬り裂き、世界を護るという覚悟を決めるのか?


第七章で真が精神的に成長する姿をご覧ください。

「八神、助けてくれ…」


「八神、君にはその力があるんじゃないのか……」


「相良、柳!?」


蒼炎を握る俺の目の前に全身が血塗れの相良と柳が立っている。

その後ろにはこないだ襲われた焔獣が居て、その巨大な鋏を振り上げている。


「危ない、逃げろお前ら!! ――なんだよ、これ……?」


二人を助けるために飛び出そうとした俺だったが、足に力を込めて地面を蹴ろうとしてもなぜか足が動かない。


「…手?」


ふと下を見ると俺の足を掴んでいる手が見えた。

それは見紛うことなく、毎日見ている俺の手…。


「ちくしょう、離せよ! 早くしないとあいつらが…!!」


「ぐわっ…!!」


「がはっ…!!」


「!! そ、そんな……」


自分を掴む自分の手と格闘している最中に聞こえた声に目を向けると、焔獣の攻撃をまともに受けた二人が俺の目の前に倒れ込んできている。


「相良? 柳?」


俺の体をなぞるようにして倒れた二人は、そのまま動かなくなった。

自分の体と蒼炎は二人の血で紅く染まっていて、焔獣は次の標的を見つけて迫ってきている。


「…く、来るな……」


何も言わずにじわじわと近付いてくるそいつは、相良と柳を葬り去ったときと同じように巨大な武器を振り上げる。

刀を振り上げることもできず、自分の手によって動くこともできない俺はただそれを見ている。


そして、足を止めた焔獣は二つに割れたそれを何の躊躇もなく振り下ろしてくる。


「来るなあぁあぁぁ!!」


二人と同様に俺を葬り去ろうとするそれが眼前に迫り――






「ああぁあぁぁーー!!」


自分に直撃する瞬間に現実に引き戻され、絶叫とともに体を起こす。


「はぁ…はぁ…はぁ……、なんだったんだ、あれ…?」


息を整えながら額の汗を拭う。

なぜかやけに生々しい感覚が全身に残っている。


「お、お兄ちゃん? どうしたの?」


「琴音か…いや、別になんでもない……」


「そう、じゃあ、先に下に居るね」


それだけ言い残して琴音はそっとドアを閉めて出ていく。


「…ふぅ、下に行くか……」


重い体を持ち上げて制服に着替え、朝食の待つリビングに向かう。

階段を下りている間になんとか顔を引き締めておかないと…。


「おはよう」


「真君、おはよう。悪い夢でも見たの?」


「え?」


母さんの一言に顔が作れてなかったかと思ったが、こちらに向かって手を合わせている琴音を見てすぐに理解できた。


まったく…いらんことを……。


「別に、なんでもない」


「そう? ならいいけど…」


琴音に目だけでお仕置きをしてから席に着く。

ちょうど麗奈も朝の素振りを終えて席に着いたので、みんなで朝食に手をつけた。






「おーっす、八神!」


「レナッチ、おっはよー!!」


「おっす」


「おはよ」


いつものように麗奈を後ろに乗せて、いつものように坂道の入り口で相良たちと出会った。

朝に見た胸糞悪い夢が出そうになったが、そこは必死に堪える。


「やっ、おはよう」


「お、おぉ、柳。おはよう」


自分と格闘中に不意に肩を叩かれた。

次に視界に入ってきたのは柳の笑顔。


その顔を見た瞬間に完全に今朝の夢がフラッシュバックしてしまった。


「ん、どうしたの、八神?」


「あ、あぁ…いや、別になんでもない」


顔を覗き込む柳に悟られそうで、すぐに瞳を逸らしてしまう。


「よぉ、柳!」


「やぁ、相良。今日も元気だね」


元気よくハイタッチを交わす二人。

ナイス相良、助かった。


俺の心を読んだのかと思えるほど相良がいいタイミングで柳の気を引いてくれた。


「――でよぉ、岡野の奴が俺を廊下で見つける度に絡みに来んだよ」


「だって相良は――」


俺のすぐ傍で楽しそうに話している相良と柳。

会話の内容は本当に何でもない日常のこと。


すぐ前を歩く麗奈と山中さんもそう…。

今日も昨日と変わらない時間が待っていると言いたげな会話。


…麗奈がどう思っているのかは分からないが……。


「なぁ、八神はどう思うよ?」


「へっ?」


「おーい、聞いとけよなー」


突然相良に話を振られて間抜けな声を出してしまった。


「大方、可愛い女の子のことでも考えてたんだろ?」


「お前と一緒にすんじゃねぇ。それよりもうすぐ予鈴が鳴る時間だろ、早く行こうぜ?」


ニヤニヤしながら言ってくる相良を小突いて一人さっさと学校に向かう。

相良たちは文句を言いながらもしっかりと俺の後を付いてきて一緒に学校に入り、それぞれの教室に入った。


「まったく…ホントにどうしたんだ八神? 今日のお前はらしくないぜ?」


教室に入って授業が始まるまでの数分、相良がいつものように俺の席にやってくる。

後ろの席の柳も授業の準備をしながらだが当然話に加わる。


「なんでもねーよ」


「水城さんと喧嘩でもしたの?」


「それだったらあいつの方が不機嫌だろうさ」


「悩んでるなら話してみろよ。親友じゃないか?」


「あー、はいはい。分かったから席に着け。先生来てるぞ?」


「げっ、もう来たのかよ」


親指を立てて得意気になっていた相良だったが、教卓からこちらを見つめる先生を見つけたらスゴスゴと自分の席に戻っていった。


「はい、じゃあ授業を始める」


相良が自分の席に戻るのを確認して、さっそく授業に入る先生。

俺も一応真面目に授業を受けるため教科書を取り出す。


「それでは昨日の続きから――」


そう言って黒板に数式を書き始める。


「…日常か……」


思わず窓の外に目をやる。






"私たちが止めないと世界が終わる"






麗奈に言われた言葉が嫌に頭に残っている。

そして、今朝見た夢…。

俺は俺に関わってくれた人たち全てを護りたい。

これは俺が決して譲れないところだ。


じゃあ、そのためなら容赦なく蒼炎を振るい、眼前に迫りくる敵を斬れるのか…。

護るためならもちろん斬れる…。


その敵を斬ることで俺の仲間は護られる…。

でも、倒した焔獣にも仲間が居て、当然仲間が殺られたとなればそいつらは復讐にやってくる。

そいつらから見れば俺は悪人、俺の仲間から見れば善人。


どちらが正しい…?

いや、そもそも"正しさ"なんてものがそこに存在するのか……?


たぶん俺が焔獣を斬れない理由がそこにある。

仲間を護りたい…でも、目の前の敵を斬ることが本当にそれに繋がるのか…。

しかし、斬らなければ麗奈の言うとおり世界が終わる。


そうなれば世界は焔神の意のままになってしまい、恐らく人類は全滅させられるだろう。

そんなことは絶対にさせない…!

ならば、迫りくる敵をこの手で斬り払うまで!!

そして、すべての元凶である焔神を葬り去る!!!


それが俺の決意…。

覚悟を決めなければそれは達成されない……。


「覚悟…か」






「ほー、八神、ようやく問題に答える覚悟ができたのか?」






「え?」


自分以外の声が聞こえ、その主を探そうと首を回すと教科書を持って俺の前に仁王立ちしている先生が居た。


「まったく…他人の声が聞こえない程何かに集中するのはいいが、授業中は先生の話を聞いて欲しいもんだな」


「あ、すいません…」


「じゃあ、あの問題やってみろ」


先生がスッと黒板を指差す。

そこでようやく自分が当てられていることに気付いた。


「分かりました」


頭をポリポリと掻きながら黒板に向かう。

ひとまず哲学的な考えは置いといて、目の前の問題を解くことにしよう――


としたが、授業を一文字も聞いていなかった俺に解けるわけもなく、しばらくチョークを持ってフリーズしていた。


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