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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第六章 護れるほど強く…
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第二部 修行

自分のベッドに倒れこんだ俺は、さっきのことで頭が支配されていた。

突然脳裏に浮かんだあの光景、俺にとって最も思い出したくないものだ。


自分の中ではとうの昔にその悲しみからは立ち直ったものだと思っていた。


「…親父」


あなたが亡くなってもう十年という月日が流れました。

今の俺にはあの時できなかったことをできるような力を持っています。


「強くなりたい…みんなを護れるほど強く……」


拳を握り締めて固く決意する。

あの時俺ができなかったことを今やるんだ。


『…真殿』


突き上げた拳から蒼炎の声が聞こえた。


『なんという温かい想い、このようなものを感じたのは初めてだ。……真殿なら焔神を倒せるかもしれぬ』


「倒してやるさ、俺の仲間をこれ以上傷つかせないためにも」


『真殿ならもしや――』


―コンコン…―


蒼炎の言葉を遮るようにドアがノックされた。


「開いてるぞ」


俺が返事をするとゆっくりとドアが開いて麗奈が入ってきた。

その顔は今まで見たなかで一番暗く、沈んだ表情を浮かべていた。


「どうした?」


手を組んだまま俯いている麗奈。

そのまましばらく沈黙の時が流れる。


「…真、その……今朝のこと何だけど…」


今朝?…あぁ、あれか。

母さん…しゃべっちまったのかよ……。


「…ごめんなさい、私――」


「別にいいよ」


麗奈が言おうとしたことをちょっと強引に遮る。


「麗奈の言ったことは本当のことだから、別に怒ってない」


「でも、私は――」


バッと上げた麗奈の瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。

普段の麗奈からは全く想像できない姿に思わすドキッとしてしまった。

とりあえずその辺にあったタオルを麗奈に手渡す。


「麗奈、俺は強くなりたい、俺は俺に関わってくれた人たちみんなを護りたいんだ。…だから――」


涙を拭った麗奈の瞳が俺に向けられ、俺もそれに合わせる。


「俺を強くしてくれ」


嘘偽りのない言葉を麗奈に伝える。

もう親父のときのようにただ手をこまねいているだけなんて嫌だ。


「…分かったわ。ビシビシ鍛えてあげる、誰にも負けないくらい強くしてあげるわ」


「頼んだぜ、麗奈」


「じゃあ、今からやるわよ!?」


「おっしゃ!!」


俺から一切視線を外さずに言う麗奈。

その目は少し赤くなっているが俺の言葉をしっかりと受け止めてくれていた。






「あら、今から修行?」


裏庭にある竹林、そこで修行すると決めて外に出ようとしたときに廊下で母さんに出会った。


「あぁ」


「そう、よろしくね、麗奈ちゃん」


「はい、お任せください」


相変わらずな笑顔を麗奈に向ける母さんはいいが、麗奈も笑顔になっているのはなんだろうか。

まぁ、きっと言ってもまともに答えてくれないだろうから言わないけど…。


「夕飯までには戻ってきてね」


「分かりました。ほら、行くわよ、真!」


「いててて、そんなに引っ張らなくても行くっての!」


俺の腕を掴んでズンズンと足を進める麗奈。

母さんはその様子を見て手を振って見送ってるし。

…その笑顔は何なんだ……?


そんな疑問を残したまま竹林に入っていく。


「はい」


麗奈が差し出したのはここに来る前に物置から取ってきた木刀。


「ほう、これが木刀か」


鍔はないがちゃんと刀の形をしていて、思っていたよりも重くなく、すんなりと振るうことができる。


「まず構えから教えないとね」


そう言って麗奈がまず構える。


「これが構え」


両手で木刀を持って、スッと構える。


「私をよく観察して、真似して見なさい」


麗奈の正面に立って、見よう見真似でやってみる。

…たぶんこうだ。


「そのまま動かないで」


麗奈が近づいて俺の構えを見ながらぐるっと一回りする。


「もう少し上」


「こうか?」


「あと少し前…うん、それぐらいね」


一応納得したのか、俺から離れて全体を見る。


「今の形をよく覚えて、それが基本だから」


木刀を地面に刺して杖のようにしている麗奈。


「じゃあ、次。片手で構えるとしたら、どうなると思う?」


「片手か…同じようにこうじゃないのか?」


右手で木刀を持って両手の時と同じように構える。


「それじゃ急所がガラ空きよ?」


そう言うと同時に麗奈が木刀を持って襲ってきた。


「うわぁ!」


「ほらね」


ちょうど心臓の辺りに木刀を突き付けて麗奈は止まった。


「い、いきなり何すんだよ!?」


「敵はいきなり来るのよ? さっきのでは闘った瞬間にあの世行きね」


スッと木刀を引いて、少し距離を取る。


「正しい構えはこう」


俺と同じように右手で木刀を持ち、片手で構える。

自分の体を刀の後ろに隠すようにして、左手は腰に当てている。


「真似してみて」


「こうか?」


なんとか形になっただろうと思ったところで麗奈の指導を受ける。


「そんなとこね。今の状態をよく覚えて、すぐにできるようにしておきなさい」


麗奈は再び俺から離れて距離を取る。

そして、自分も構えるとスッと俺を見る。


「ここからは実践よ、私に斬り掛かってきなさい」


「勝てるわけないだろ!?」


今日初めて教わったと言うのに麗奈に適うわけない。


「大丈夫よ、私は斬らないから」


「何?」


「私は受けるだけ、反撃もしないから安心しなさい」


真剣な眼差しを向けたまま話す。


「ただし、受けるときにいくつか技を使うからよく見てなさい」


それだけ付け加えると麗奈は深呼吸を一つして


「じゃあ今から三分間、あんたは私を斬ることだけ考えなさい」


それだけ言うと俺の出方を見るように寡黙になった。


「それじゃあ遠慮なく…行くぜ!」


大きく振りかぶって一気に麗奈目がけて振り下ろす。


「ちっ、外したか!?」


寸でのところで躱されてしまった。

急いで麗奈が動いた方へ向き直る。


「あ、あれ?」


振り向いたはいいが、麗奈がどこにもいない。


「ここよ」


「へ? うおっ!!」


いつのまにか麗奈は俺の後ろにぴったりとくっついていた。


「あと一分三十秒」


ニヤリと口元を歪めて、何やら楽しそうな雰囲気の麗奈。


「くっ、分かってるよ!?」


ブンと木刀を振ってなんとか当てようとするのだが


「ちっ、当たらねぇ!」


「もっとよく私の動きを見て」


俺の攻撃を受け流しながら指導する麗奈。


「見てるよ!」


「もっとよく見なさい、パターンが見えるはずよ!」


「パターン!?」


「ほら、あと三十秒!!」


時間に迫られ、闇雲に攻撃を繰り出していたが…。


「ん、あれ?」


パターンがあると言われたからか受け流している麗奈の動きが同じであることに気付いた。


「十…九…八…」


麗奈がカウントダウンをやり始めた。


「五…四…三…」


「よし、こうだ!!」


俺が考えた通りなら…。

フルパワーで最後の攻撃を繰り出す。


「二…一…終了!」


終了の合図と同時にガキーンという音が辺りに響き渡る。


「どうだ!?」


「どうだ……じゃないでしょう!?」


「いってぇー!!」


俺の木刀を払ったかと思うとそのまま頭を殴られた。


「何すんだよ!?」


「あの程度のことでどんだけ時間掛けてんのよ!?」


頭突きでもするのかと思うほどの勢いで顔を近付けてくる。


「いい? 今度はもっと早く読めるようにしなさい!」


それだけ言うとスッと顔を離して家の方に向かう。


「おーい、修業は?」


「今日はこれぐらいでおしまい。あんたは構えをよく復習するように!」


木刀を物置にしまいながら付け加える。


「それとね、真。あんたの剣には迷いが見えるわ」


「迷い?」


「そう、相手を傷つけてしまうという恐怖ね。それがある限りあんたは私に勝てない、もちろん焔獣にも…」


麗奈の目が鋭さを増して俺に突き刺さる。

焔獣にも言われたその言葉が俺の中で繰り返される。


「麗奈にはないのかよ、俺が持ってるような恐怖は?」


「もちろんあるわよ。私も初めは闘牙で焔獣を斬るなんて出来なかった…」


麗奈の顔が少し陰る。


「でもね、私たちがやらないといずれこの世界は焔神に支配され、一般の人たちが闘いに巻き込まれることになる。それを止めることができるのは私たちだけなの」


さっきは悲しみを持っていたその瞳が、次第に揺るがない信念を秘めたものになっていく。


「それを悟ったときに私の迷いは消えたわ。ここで私が逃げ出したら世界が終わる…だから、私はもう逃げない」


俺の瞳を真っ直ぐに見つめたまま放たれたその言葉に麗奈の強い決意と覚悟を感じ、俺は何も言い返すことができずただ家に戻っていく麗奈の背中を見ていた。


「麗奈お姉ちゃん、ただいまー!」


「おかえり、琴音ちゃん」


麗奈が竹林から出たところで、琴音の声が聞こえた。

そこ声で意識を取り戻した俺は麗奈の後を追って、声のする方に向かった。


「ねぇねぇ、修業は!?」


「残念だけど、今日のは終わってしまったわ」


「えぇー、つまんなーい!」


「また今度、ね?」


不貞腐れる琴音の頭を優しく撫でている麗奈。

その様子はさながら姉妹だ。


「むぅー。じゃあ、また宿題見て!」


「えぇ、いいわよ」


「ホント!? じゃあ、早く行こ!!」


「ちょ、ちょっと琴音ちゃん!?」


麗奈が快く返事をした瞬間に琴音はその腕を引っ張って行き、そのまま家の中に入っていった。


「うしっ、俺も部屋に戻るか!」


物置に木刀を戻して自分の部屋に戻る。


「やっぱり麗奈は強いなぁ」


『ハッハッハ、だからこそ修業を自ら進んでやったのであろう?』


「まぁ、そうだけどさ」


初めて聞くかもしれない、蒼炎の笑い声が部屋にこだました。


「とりあえず復習はしておかないとな。付き合ってくれよ、蒼炎」


『承知した、存分に修業してくだされ』


寝るまでの間、鏡に向かって麗奈が教えてくれた構えを体に叩き込むべく練習していた。


いかがでしたでしょうか?

ご意見、ご感想お待ちしております!!


さて、自らの力のなさを実感した真、麗奈に教えられた覚悟。

そして、真の辛い過去の一端が垣間見えた。


麗奈の覚悟を聞いた真が今後どのように進化していくのか…。

こうご期待ください!!

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