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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第六章 護れるほど強く…
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第一部 記憶

蒼炎を手にしてから初めて焔獣と対峙した真。

麗奈とともに挑むその闘いで真はどのような動きを見せるのか…。


真の初めての闘いと過去が少し垣間見える第六章をお楽しみください!!

『見つけたぞ、紅の後継者!』


「こいつ…俺が初めて見た奴と同じじゃねぇか…」


死の恐怖とともに俺が初めて目の当たりにした焔獣。

サソリのような姿をしているが大きさは比べ物にもならない。

両手の巨大な鋏、鋭く尖った尻尾があの時の恐怖を蘇らせる。


「真、怖がらないで。今のあんたには戦う術があるんだから」


「あ、あぁ…」


脳裏に過った恐怖に全身が震えているのが自分でも分かる。

蒼炎を握る手には汗が滲み、筋肉は完全に硬直している。


『…貴様は碧の後継者か』


「だったら何?」


焔獣の赤く光る大きな瞳が俺から麗奈に向けられた。

麗奈は一切動じず、ただただ焔獣を睨み返している。


『くっくっくっ…紅を始末したら次はお前を始末してやる。それまで大人しくしているんだな』


「ふん、あんたに言われなくても最初からそのつもりよ」


『…何?』


「…え?」


麗奈の言葉に焔獣はおろか俺まで困惑してしまった。


「今日は真の腕試し。私はただの付き添い」


『俺を噛ませ犬にするつもりか!?』


「噛ませ犬? あんたみたいな雑魚、噛ませ犬にもならないわよ」


口元だけで嘲笑い、焔獣を挑発する麗奈。

俺は何も言うことができず隣でただ口をパクパクさせている。


『おのれぇ! どこまでもこけにしやがって!!』


挑発を受けて怒り狂った焔獣は、尻尾を振り回して辺りを破壊し俺に視線を向けてくる。


『よかろう! さっさと紅を始末して貴様も亡き者にしてくれる!!』


勢い任せに振り上げられた巨大な鋏が俺に向かって落ちてくる。


「う、うわあぁあぁぁ!!」


あの時の恐怖が蘇り、心拍数も異常な数値を叩き出しているであろう心臓。

全身の筋肉が硬直する中でも声を出すことでなんとか地面を蹴り、後方へと逃げる。


『逃げるな、紅!!』


「そうよ真、何で避けるのよ!?」


「お前どっちの味方だよ!!?」


「敵を良く見て、恐怖が拭えないのは分かるけど今乗り越えないとずっとそのままよ!?」


俺と焔獣の闘いを木の上から眺めている麗奈に檄を飛ばされる。

麗奈の言っていることは確かだと頭では分かっているが、体は恐怖に正直だ。


「ちくしょう! やってやるよ!!」


震える腕を抑えつけ、地面を思い切り蹴って焔獣に突進する。

目の前に迫ってくる巨体に心が張り裂けそうになりながら、なんとか蒼炎を振り下ろす。


「うおぉりゃあぁぁ!!」


『返り討ちにしてくれるわ!!』


蒼炎と鋏が金属音を辺りに響かせて衝突した。


「くっ…」


麗奈はこれをいとも容易く斬っていたのか…?


初めて襲われたときに助けてくれた麗奈が簡単に斬り飛ばした鋏。

蒼炎の力を持ってすれば簡単に切り裂けるものだとばかり思っていた。


『なんだその意志のない攻撃は!? そんなもんで勝てると思っているのか!!?』


「はぁ…はぁ…意志のない……だと?」


『そうだ、貴様の剣からは相手を切り刻み、勝利を得る意志を感じん!!』


「……くっ、そんなはずあるかぁあぁぁ!!」


全力で斬りかかること、殺らなければ自分が殺られる。

そんなことは焔獣に言われなくても理解している。

その思いだけで再び同じ攻撃を繰り出す。


『意志のない攻撃など誰にも通用せぬわぁあぁぁ!!』


「ぐっ…!」


さっきは単に受け止めるだけだった奴の鋏が、今度は攻撃している最中の俺ごと吹き飛ばす。

気づいたときには俺の体は木の幹に叩きつけられ、そのままずるずると地面に倒れ込む。


『残念だ…この程度の人間が後継者とは……』


そう言いながら巨大な鋏を振り上げる。


…畜生……。


最初に襲われたときの記憶がフラッシュバックする。

自分の弱さに思わず唇を噛む。


『さらばだ、紅の後継者よ!!』


「くそっ…!」






「まったく…しょうがないわね……」






ただ倒れ込んだまま何も出来ない俺の前に麗奈が疾風のごときスピードで割り込んだ。

その瞬間だった――






………………

…………

……


「逃げろ、真!!」


「親父!!」


「がはっ…!」


「親父ーーーーー!」


………………

…………

……






『ぐわぁあぁああぁぁ!!』


意識を取り戻したときには焔獣は塵と化していた。


「はい、終了っと」


麗奈が闘牙をしまって俺に近づいてくる。


「ちょっと真、あいつに傷ぐらい付けなさいよね!」


何か非難めいたことを言っているが、その言葉は俺に聞こえていない。


「ちょっと真、聞いてる!?」


「―――い」


「え、何!?」


「……悪い、先に帰るわ」


「えっ…」


俺は蒼炎を握り締めてその場を飛び出していた。


「ちょっと、荷物はどうするのよ!?」


麗奈が声を上げているが…悪い、今はそれどころじゃない。

そのまま飛び続けて自分の部屋に入り、ベッドに倒れこんだ。






「何なのよ、もう!!」


暗い顔してると思ったら、いきなり飛んで帰るなんてわけ分かんない。


「まったく、なんで私が…」


二人分の鞄が入った自転車に跨って家に向かって走り出す。


『さっきの闘いの中で何かあったのかのう?』


「さぁね、とにかく帰ったら問い詰めるわよ」


『麗奈が何かやったのか?』


「心当たりなんてないわよ」


夕焼けに染まった空を眺めながらペダルを回す足に力を込める。

どうやって真を問い詰めようか、そればかり考えながらただ走っていた。


「あら、麗奈ちゃん、おかえりなさい」


「ただいま戻りました。…あの、真は……?」


「真君なら帰るなり自分の部屋に籠ってるわ。何かあったのかしらね?」


「…私、ちょっと見てきますね」


「あ、その前に少しお茶にしない? ちょうど和菓子をいただいたのよ」


通り過ぎようとした私の腕をおもむろに掴んだおばさんは笑顔でそう言った。

私に向けられたその顔は、何かを見透かしているようだった。


「はい、麗奈ちゃん」


「ありがとうございます」


リビングに通された私の前に出てきたのは、緑茶と羊羹。

鼻を通る緑茶の香りで真に対して怒っていたのが少し和らいだ気がした。


「帰りに何かあった?」


「はい?」


優雅に緑茶をすするおばさんの口から出てきた核心を付く言葉に少し驚いてしまった。


「麗奈ちゃんもいつもの雰囲気じゃないから、もしかしたら喧嘩でもしたのかしらと思って」


「いえ、別に何も……」


「本当に?」


「じ、実は――」


敵わないと思った。

これまでの修行で常に平静を装えるようになったはず。

しかし、今目の前に居るこの人は会った瞬間にその異変に気付いた。

今も見つめられている優しい瞳はおそらく私のことなどどこまでもお見通しなのだろう。


「今日の帰り、他校の生徒に絡まれてしまって――」


それでも焔獣のことは言わない。

嘘でもなんとかあの時の状況に近くなるように説明する。


「私が闘ってなんとか追い払ったんですけど、真は一発もらっちゃったんです。それで、私真のこと責めちゃって…もしかしたらそれで――」


そこまで言って俯いてしまう。

本当は他にも伝えるべきことがあったのかも知れない、けど今はこれが精一杯だった。


「…麗奈ちゃん、ひょっとしてその時かばうようにして真の前に飛び出さなかった?」


「え? それは真を助けるためにしましたけど……」


私の話しを静かに聞いていたおばさんが包み込むようなやさしい声で言う。

その言葉は私が予想していたものとはまるで違って困惑してしまった。


「…そういうことね……」


おばさんは何やら合点がいったようでお茶を味わうように瞳を閉じて一口すすった。

次に開けられたその瞳にはさっきまでの優しい色はなく、ただ悲しみを帯びているように見えた。


「麗奈ちゃん、朝、仏間で真君を見た?」


「はい…」


「私の夫…真君の父親の遺影も…?」


「はい……」


なぜか話が今朝にまで遡ってしまっている。

私はただただおばさんの質問に答えるだけ…。


「私の夫は…もう何年も前に亡くなったの」


「それは聞きました、確か事故だったと」


「事故…そうね、事故だったのかも知れないわね」


真もだが、おばさんまで何か納得してないような口振りだ。


「あの…もしかして事故ではなかったのですか?」


こんなことを聞くのはいけないことだけど、もやもやしたままはいやだ。


「私はそこに居たわけじゃないから詳しくは分からないんだけど、ただその場に居た真君は――」


おばさんはそこまで言って今までで一番の悲しみを瞳に滲ませた。


「“自分が殺した”って言ったの」


「――っ!?」


体の中を電流が走り抜けたような衝撃に襲われる。

それじゃあ、今朝私が言ったことは――。


「警察が調べた結果では夫は何者かに刃物で斬られたみたいで、決して真君が殺したわけじゃないんだけれど…あの子は自分を責めていたわ」


もうおばさんの声はあまり聞こえなくなっていた。

私はただ俯いてスカートを握り締めていた。


「だから、もしかしたら麗奈ちゃんと夫が重なる瞬間があったんじゃないかしら」


「おばさん…」


それまで俯いていた顔を上げてスッと席を立つ。


「真のところに行ってきます」


「ええ、お願いね」


「はい」


おばさんのふわりとした笑顔に見送られ、リビングを出て階段を上っていく。


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