第三部 再見
「さーて、帰ろう」
午後の授業が無事に終わり、相良がさっさと帰ろうと鞄を下げてくる。
「秀真、帰るで!!」
「げ、京香!」
教室の入り口から元気な声が聞こえたかと思ったら、山中さんが麗奈と一緒に来ていた。
「何でお前が居るんだよ!?」
さっそく相良が山中さんに食い掛かった。
「レナっちが八神と一緒に帰るって言うから、ウチも一緒に帰ろうと思って」
「何でだよ?」
「ほらほら、早く帰るで!」
「無視か!?」
手招きをして俺たちを呼び、さっさと歩いていく。
「お待たせ」
自転車で通学しているのは俺だけのようで、みんなは校門のところで待っていた。
「ん」
「ほい」
麗奈が差し出したカバンを当然のように籠に納める。
「おーおー、自然な流れやねぇ」
山中さんが再び俺たちをイジりだした。
指をアゴに当てて、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。
「言わずとも相手のやることが分かる。これぞまさに恋人! いや、夫婦!!」
また勝手に俺たちをはやし立ててるし。
「レナっちはこれで将来安泰やね!」
「ばっ、バカなこと言わないでよね! 何でこんな奴と!!」
いつものポーカーフェイスを赤くし、俺を指差して声を上げる麗奈。
「ひどい言われようだな、おい」
「あんたも何か言いなさいよ!」
山中さんを指差して俺を見てくる。
何をそんなに意地になってんだ?
「俺は別にいいぞ、お前となら」
「え…?」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか、俺の言葉に麗奈は見事に固まった。
「や…その、ほら…えっと……」
顔をさっきより赤くして、何やら手を動かして慌てている。
「冗談だよ、バーカ」
「へ…?」
もうちょっと見ていたいが、これ以上やるとホントに明日の朝日が拝めなくなるのでやめよう。
「……………」
…ん、あれ?
「あの?、麗奈さん?」
なぜか俯いてしまった。
…もしかしてこれは……地雷踏んだ?
「お、おい…」
「……真」
「は、はい…」
やっと声を出してくれたが、とてつもない低音ボイスが出てきた。
「…ちょっといらっしゃい」
うつむいたまま手招きをして俺を呼び寄せる。
いつになく恐ろしい空気を漂わせているため、拒否権を行使できない。
「…な、なんだよ」
「……………」
目の前に立ったが、ずっと俯いているため表情が読めない。
「…………ふっ!!」
「うぐおぉぉ!」
いきなり俺の腹をグーで殴りやがった。
油断していたので、見事にクリーンヒットしてしまった。
「ぐ…あぁ……」
腹を押さえてそのまま倒れる俺。
その時少し麗奈の顔が見えたのだが……やっぱり地雷だったか…。
「ふん、バーカ!!」
きびすを返して、一人でどんどん坂道を下っていく。
「あ、レナっち待ってぇなー」
その後を追うように山中さんがついていく。
「八神、大丈夫…じゃないよな」
相良がしゃがみこんで俺の顔を覗き込んでくる。
「凄いね、水城さん。見事なものだよ」
柳が顎に指を当てて、さっきの麗奈の動きを評価している。
…柳、今は俺の心配をしてくれよ。
「…く、よいしょおぉぉ!」
「おぉ、起き上がった」
自転車を杖代わりにして、なんとか立ち上げれた。
あぁくそ、まだズキズキする。
とりあえずそのまま自転車を押して坂道を下って、なんとか柳、相良と別れるところまでこれた。
「じゃあな」
もはや手を振る元気も残っていない俺は、言葉だけを残して家の方に足を向ける。
「じゃあな、八神。麗奈ちゃんによろしく」
「それじゃあ八神、元気出してね」
それぞれが自宅に向けて足を踏み出していった。
…ん、“元気出して”?
柳の言葉に思わず痛みを忘れて振り返る。
「あいつ……」
気付いてやがったのか…。まったくすげぇよ、お前は。できれば俺専属のカウンセラーになってほしいぐらいだぜ。
柳の特殊能力がまた一つ明らかになったところで、自転車に乗って自宅を目指すことにした。
「お、麗奈だ」
少し走ったところで麗奈が壁に寄り掛かっていた。
「何やってんだ?」
「…………」
何も言わず、自転車の後部に乗り込んできた。
「はいはい、分かったよ」
それ以上は聞かずに自転車を漕ぎだす。
「…真」
走っている途中、不意に麗奈が声を出した。
トーンが低いがさっきのように怒っている感じではない。
「さっきは、その…ごめん」
その言葉に正直驚いた。
麗奈の口から謝罪の言葉が出てくるとは。
「キ、キョウが言えって言うから言ったんだからね! か、勘違いしないでよね!?」
俺の後ろにいるため顔は見えないが、恐らく赤くなっているだろう。
何を勘違いするのか知らんがあの麗奈を謝らせるとは、山中さんも相当のやり手だな。
「…でも――」
肩に置いてある麗奈の手に少し力がこもる。
何か甘い囁きでもしてくれるのか?
「今度、あんな冗談言ったら本気で許さないから!」
「いだだだだだ…痛い、ちょっ…やめろこら!」
手の力がどんどん増していき、ハンドルを持つ手がおぼつかなくなる。
「嫌よ、やらないって誓うまでやめないんだから!!」
「分かった分かった! 誓う、誓うから!!」
とにかく舵取りに必死な俺は麗奈の言うことに従う。
「やっと分かったわね? じゃあ、早く帰るわよ!」
ようやく俺を解放し麗奈は、ビシッと家の方を指差して早く漕ぐようにせっつく。
まだ肩がジンジンするが、早く帰りたいのは俺も一緒なので麗奈に同調して、いざ漕ごうとしたのだが
――キーン…――
来やがった。
この感覚…間違いなく焔獣のものだ。
近づいてくるところを見ると、やっぱり俺たちを狙っているようだ。
「…真」
「あぁ、分かってる」
今度は俺にも剣がある…戦える!
自転車を適当なところに停めて、焔獣が出てくるのを待つ。
「行くわよ、闘牙!」
『うむ!』
麗奈が闘牙を解放して構える。
「こっちも行くぞ、蒼炎!」
『承知!』
麗奈ほど早くはないが、俺も蒼炎を解放してそれっぽく構える。
「あんた構えから修業が必要ね」
「うるさい、それは帰ってからにしろ」
そりゃ何にもやったことないんだから当然だろ?
『見つけたぞぉぉ、紅の者!!』
麗奈の小言を聞いてるうちに、焔獣が轟音とともに現れた。
土埃が舞い、その巨体がゆっくりと姿を現す。
「出たか、今度はやられねぇぜ!!」
これから戦う目の前の化け物に向けてより一層気合いを高めた。
いかがでしたでしょうか?
ご意見、ご感想をお待ちしております!!
さて、自分の日常の変化に少しずつ慣れてきた真。
初めて蒼炎を手に焔獣と対峙し、どのような闘いを見せるのか!?
こうご期待ください!!