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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第五章 麗奈と活発少女
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第一部 同棲

麗奈との出会いが真の日常を目まぐるしく変化させていく。

そんな中で出会う新たな人物。


真の新たなる日常を描いた第五章をお楽しみください!!

「お兄ちゃん、おっはよー!」


朝日が差し込む俺の部屋に、今日もハイテンションで参上したのは愉快な我が妹だ。

強制的に布団を剥ぎ取られて体を思いきり揺さぶられる。


「ほらほら、起きて。今日もいい天気だよー!!」


「う…うぅ、お、起きた起きたから揺らすな…」


琴音が全力で体を揺さぶってきたせいで、だんだん気持ち悪くなってきた。


「じゃあ、早く降りてきてね。麗奈お姉ちゃんももう起きてるから!」


元気な声でそれだけ言うとまた勢いよくドアを飛び出して階段を降りて行った。


「まったく嵐のような妹だな……」


『はっはっはっ、元気があってよいではないか』


「あぁ、おはよう、蒼炎」


『うむ、おはよう、真殿』


左腕にはめられた蒼炎にあいさつをしながら、体を起こして制服に着替える。


「あれ、そういやこの腕輪って他の人には見えてないのか?」


『我々の姿は選ばれた者にしか見えないのだ』


「なんだ、心配して損した」


この腕輪がばれたら皆にどう説明しようか考えていたがその杞憂はから振りに終わったようだ。

ネクタイをしっかりと締めて皆が待つ食卓に向かう。






「おはよー」


「おはよう、真君」


「おぉ、おはよう、真」


台所に立っている母さん、椅子に座ってお茶をすすっているじいちゃん、母さんを楽しそうに眺めている琴音。

いつも通りの朝の光景がそこに広がっていた。


「あれ、麗奈は?」


「麗奈お姉ちゃんならあそこだよー」


昨日から我が家に加わった麗奈の姿が見えなくて探していると琴音が庭を指差した。


「…990…991…」


そこには半袖のTシャツにジャージのズボンという格好で木刀を振っている麗奈の姿があった。


「腕を鈍らせないために毎朝素振りを1000回やってるんだって」


「ふーん」


「真君はやらなくていいの?」


「まぁ、何も言われてないからなー」


「早く二人で並んで素振りしてる姿が見たいわぁ」


「……ま、そのうちね」


麗奈を褒めるような声色で話している母さんが頬に手を当てて何かを妄想している。

少し身の危険を感じた俺はスッと母さんから離れて椅子に座った。


「あらあら……麗奈ちゃん、ご飯にしましょう」


「…999…1000……はい、今行きます!」


「まぁまぁ、汗だくね。先にシャワー浴びてらっしゃい」


「い、いえ…着替えるだけで十分ですから……」


「だーめ、身だしなみはキチンと整えないと。皆、先にご飯食べちゃっててね」


戸惑う麗奈の背中を押して、浴室の方に歩いていく母さん。

残された俺たちはテーブルに用意された朝食を食べることにした。


「お兄ちゃん、今日から修行するんだよね?」


「あぁ」


「どんなことすんの?」


「うーん、何も聞いてないから分かんないなぁ。まっ、帰ってからのお楽しみだな」


トーストを頬張ってい瞳をキラキラさせた琴音が興味津々といった様子で聞いてくる。

麗奈がやるようなことだからきっとキツイ修行なんだろうけど、残念ながらまだ何かは分からない。


「ふーん、じゃあ早く帰って来よーっと」


「そうしてくれ。それじゃ行ってくる」


「麗奈お姉ちゃんを待たないの?」


「準備してたら一緒になるだろ」


台所に食器を置いて、日課となっている部屋に向かう。


「ありがとうございました」


「いいのよ。女の子なんだもん、いつもきれいにしてなくちゃね」


俺が食卓を離れたとほぼ同時に二つの声と足音が聞こえてきた。


「あら、もう行くの?」


「うん、行ってくる」


「ちょっと、真、私を置いていくつもり?」


俺と母さんの会話に、隣で髪を拭いている麗奈が肩を掴まんばかりの勢いで近づいてきた。

洗いたての髪からわきたつシャンプーの香りが俺の鼻をくすぐる。


ちょっ、近い、近いって!!


「あ、安心しろ。ちゃんと待っててやるから」


「本当でしょうね?」


「ほ、ホントだって!」


至近距離で麗奈の強い視線を感じて気恥ずかしいやら怖いやら色んな感情が入り交ざる。


「あらあら、仲良しさんねぇ」


「えっ!? べ、別にそんなんじゃないです!」


「そ、そうだぞ! 何言ってんだよ、母さん!」


「うふふ、はいはい」


麗奈が勢いよく母さんの方を向いてわたわたと手を振っている。

俺も加勢したが母さんは適当な返事をして目の前で慌てている麗奈を優しく見つめていた。


「じゃ、じゃあ俺は用意をしてくるから!」


「う、うん。分かった!」


居心地が悪いのでそそくさとその場から立ち去る。

俺の方に向き直った麗奈は、少し赤い顔をしながら返事をしていた。






「ふぅー、大変だった…」


いつもの日課のためにある部屋に入った。

その部屋には誰も居らず、静寂に包まれていた。


「…でも、麗奈、いい匂いだったな……って、変態か!!?」


さっきの光景が脳裏を過り、変な思考に走ってしまった。

それを振り払うように頭を動かし、床にある座布団に正座した。


「行ってくるよ、親父」


静かに手を合わせ、目の前にある写真に向けて声を発する。


『真殿の父上か?』


「あぁ、"八神隼人(やがみはやと)"、俺が小学生になる前に亡くなったんだ」


『毎朝、こうやって挨拶を?』


「うん、家族だからな…」


『そうか。しかし、我には真殿の悲しい想いが流れてくるのだ。それも絶望に近いほどの……』


「……絶望…か」


そういえば蒼炎には強い想いが流れていくんだったな…。

たとえそれが負の感情であっても。


「どうせ蒼炎にはバレるんだから、先に言っておこうかな」


『ん? 何をだ?』


「俺が絶望に近い負の感情を抱いている理由さ…」


『しかし、真殿が辛くなるのであれば無理をせずとも――』


「いや、誰かに話した方が楽になることもあるさ」


『…そうか。それではお聞かせ願おう』


「あれは、俺がまだ物心つく前だった――」


蒼炎の気遣いを半ば強引に押し切って、俺は言葉を紡いでいった。






「ごちそうさまでした」


「はい、お粗末さまでした」


「それでは学校に行ってきます」


「あら、もうそんな時間なのね。じゃあ、麗奈ちゃん、はいこれ」


そう言って手渡された布に包まれた四角い箱に少し驚く。


「お弁当よ。いつも食堂ばかりだと栄養が偏っちゃうし、食費も掛かるでしょ?」


「あの…でも、ご迷惑では……」


「言ったでしょ? 娘が出来たみたいで嬉しいって。自分の娘にお弁当を作るのは当たり前でしょ?」


「あ、ありがとうございます」


おばさんの柔らかい微笑みに顔が熱くなるのを感じて俯いてしまった。


「ふふっ、それじゃあいってらっしゃい。真も待ってるだろうから」


「はい」


渡されたお弁当を大事に抱えながら鞄を取りに部屋に戻る。


『ずいぶんとご機嫌じゃのう』


それまで大人しく傍観していた闘牙が皮肉めいた声で言う。


「う、うるさいわね。私だって上機嫌な日ぐらいあるわよ」


恥ずかしさに顔を赤くしながら鞄を取って玄関に向かう。


「あれ、真?」


玄関で待っているはずの真の姿が見えない。


「靴はあるんだけど……」


仕方がないので真を探しにあちこち歩き回る。


「しーんー、どーこー?」


「あら、麗奈ちゃん、どうしたの?」


「あ、真が居ないんです。靴はあったのでまだ学校には行ってないみたいなんですけど……」


「んー、もしかしたら仏間かもしれないわね」


「仏間…ですか?」


「えぇ、あの子の日課があるのよ」


「はぁ…」


よく分からないが、とりあえず教えてもらった仏間に向かう。






「ん? 麗奈か?」


静かな足音がどんどん近づいてくる。


「それじゃ、行くか、蒼炎。くれぐれもさっき話したことは内緒だからな」


『分かった、約束しよう』


「真」


部屋を出ようと鞄を手に取ったところで麗奈がスッと襖を開けて入ってきた。


「…この人が真のお父さん?」


「あぁ」


「あんまり似てないのね」


「よく言われる」


「でも、眼のところはそっくり」


「それもよく言われる」


遺影をまじまじと見つめながらふとそんなことを漏らす。


「…事故だったの?」


聞くことをためらったのか、いつもより低い声で尋ねてきた。


「事故…そうだな、事故だったよ……」


「なんか……納得していないような言い方ね」


「そんなことないさ、それより学校に行くぞ」


鞄を手に静かに立ち上がる。


「まるで”自分が殺した”ような声をしてたわよ?」


「……くだらないこと行ってないで早く行くぞ」


背中越しに聞こえた麗奈が何気なく放った一言に思考が一瞬停止していしまったが、それを悟られないように部屋を出ていく。


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