スマホを忘れただけ
透析。
この美しき言葉よ。
生命をゆるやかに繋ぎとめる、この儀式に私は今日も招かれた。
病院に入りあの無表情な機械と静かに語らい
私はひととき生きるということの「仮免許」を与えられたのである。
だが帰宅後、異変に気づく。
あれが、ない。私のもう一つの臓器スマートフォンが。
絶望した。
連絡手段を絶たれた私は社会的に「死亡」したも同然だった。
LINEもX(旧Twitter)もできぬ。
ああ、まるで井戸に落ちたカエルのように世間から切り離され孤独を味わう。
翌朝、私は意を決して再び病院を訪ねた。
透析でもないのに。
透析でもないのにッ!(ここ重要)
受付の事務員は笑顔で言った。
「スマホ忘れてたんなら病院から電話なかったですか〜?」
――私は静かに目を閉じた。
そして思った。
その電話が今ここにないスマホにかかっていたのだとしたら
私は一体どこでそれを受ければ良かったのだろうか?
鍋のフタか? 鏡か? それとも胸の鼓動か?
私は軽く会釈しスマホを受け取った。
それはまるで失われた過去との再会であり、
かつての恋人が黙って手を差し出してきたような、そんな錯覚さえ覚えた。
そして私は思う。
次回からスマホに「透析帰り」と書いたキーホルダーでもぶら下げておこうかと。
いや、もうスマホを首から下げて透析を受けようか。
幼児か。いや私はもう人間ではない。ただの生き延びる装置である。