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ハイシーズン
サービスエリアで働いていると年末年始という季節はハイシーズンと呼ばれる。言葉の響きだけを拾えば白い砂浜とカクテルグラスが似合いそうだが現実はまったく別物だ。絶え間なく流れ込む人波、追いかけてくる注文、刻々と削られていく時間。気がつけば呼吸は浅くなり休憩室に戻る頃には疲労が靴の奥深くまで染み込んでいる。
それでも私は頭の中で小さな言葉の置き換えを行う。これは単なる繁忙期ではない。文化祭の前日なのだ、と。理由もなく空気がざわめき、普段なら交わさないような会話が自然に生まれ、どういうわけか笑い声が増えていく、あの奇妙で軽やかな時間。そう思うだけで前掛けの重さはほんの数グラムだが確実に軽くなる。
洗脳と言えば、たしかにそうかもしれない。しかし人生の大半は、そうしたささやかな自己暗示によって辛うじて回っているのだと思う。私は券売機の向こうに伸びる長い行列を眺めながら、その事実を静かに受け入れる。忙しさのど真ん中で、ほんのわずかでも自由な気持ちを確保するために。




