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シャントエコー
シャントエコーの検査というものは、どうにも心の準備がいる。腕を出すだけの話なのに、まるで魂のスキャンでもされるかのような緊張を覚える。検査技師さんがにこやかに言う。「では本人確認のため、生年月日をお願いします」
私は堂々と口を開いた。「ええと、せんきゅうひゃく……ごじゅうなな年……あれ?」
言ってから気づく。私は昭和五十七年生まれ。なのに、なぜか口が勝手に1982年と合成した年を採用してしまったのだ。二十五歳も余分に人生を盛ってしまった。
検査技師さんは、一瞬の沈黙ののち淡々と「はい、では始めますね」とだけ言った。
まるで私の生年月日など、どうでもよいいや、もしかして彼女の中で私は六十八歳設定で登録されたのではないか? それならそれで私はもう悟りの域に達しているのかもしれない。
言い直そうか迷った。しかし私の中のもう一人の私が囁いた。「もういいじゃないか老けて見られてもエコーには年齢映らない」。そうだ。超音波は真実を映すが戸籍までは照らさない。
検査が終わり私は静かに腕を引っ込めた。あの1957年を訂正した方が良かったか未だにわからない。ただ一つ確かなのは──私は今日、少しだけ早く老後を迎えた、ということだ。




