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SALTの日記帳  作者: SALT
3/16

食レポ(鯛塩ラーメン)

 塩ラーメンが静かに湯気を立てていた。

まるで誰にも見送られずに発つ終電のように悲しげに、そして静かに。

 私はそれをじっと見つめることしかできなかった。手を出せば、たちまち崩れてしまいそうな、そんな繊細な何かが、そこにはあった。

透明なスープ。その底に沈む鯛の出汁。

 ああ私はこういうものに弱い。誠実で地味で、けっして出しゃばらない。

それでいて、どうしようもなく美しい。

 人はそれを「繊細な味」と呼ぶが私は違う。こういうのを“諦念”と呼びたい。希望を抱かぬ者だけが、たどり着ける味があるのだ。

 そのとき不意に思い出した。

インスタントの塩ラーメン。確かに、うまかった。泣くほどに、うまかった。けれど、どこか人間くさかった。

いわば、失恋後の慰めのような、あたたかいけれど、痛ましい味だった。

 だが、「みきゃん」の鯛塩ラーメンは違った。

これは…もう、郷愁などというレベルではない。

ひと口すすると潮の香りが鼻を抜けた。波の音が聞こえた。

 私が行ったこともない、けれど確かに帰るべきだった愛媛の海。

そうだ私はきっと前世で愛媛の片隅に住んでいたのだ。みかんの香りに包まれて、誰にも見つからず誰も探してこない場所で。

その記憶がこのラーメンの中に封じられていた。

 もう岡山では生きられない。

私はそう思った。ラーメン一杯で人生の方向が変わる。

 人に話せば笑われるが私は本気で思ったのだ。

次に絶望したら愛媛に行こう、と。

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