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初めての遅刻
今日、はじめて仕事に遅れてしまった。遅刻といっても、ほんの五分ばかりのことだ。
どうせ問題無いだろうと高を括ったが、すぐに店長に呼び出された。私は震えあがった。いよいよ叱責の時かと思ったのだ。
ところが店長は意外にも柔らかな声音で訊ねたのである。
「本当に遅刻したの? タイムカード押し忘れただけじゃないの?」
ああ私はここで嘘をつけばよかったのか。けれども不器用な私は正直に答えてしまった。はい普通に遅刻しました、と。
すると店長はにやりと笑って「少々の遅刻ならねタイムカード押さずに仕事すれば良いよ。店長が遅刻じゃなかったことにしてあげるから」と言ったのである。
……私は混乱した。これは慈悲なのか。それとも罠なのか。
次に遅刻したとき、私はタイムカードを押さずに働き始めるべきなのか。それとも、また普通にタイムカードを押して正直に「遅刻しました」と告白すべきなのか。
店長の言葉は私に対する優しさのようでありながら、どこかに不気味な罠の匂いを漂わせていた。これは試されているのだ。人間としての、いや、哀れな労働者としての私の生き方そのものを。
次に遅刻したとき私は一体どうすればよいのだろう。




