第9話:透けてる俺に「写真映りいいね!」は侮辱か?
文化祭、当日。
クラスの出し物は【お化け屋敷】。
俺? もちろん“最奥のボス霊”です。
……うん、わかってた。そりゃそうだよね。
でもな。
あまりにナチュラルに選ばれると、逆にモヤっとするのなんで?
「無念、今回の主役よろしくなー!」
「はいはい。浮いてるからって軽率にラスボス任命すな」
そして俺は、霊的存在の自覚を胸に、黒マントとガイコツマスク(装飾のみ)を身にまとい、
最奥の薄暗い教室でスタンバっていた。
なお、役作り不要。素で怖いらしい。
そこへ現れたのが、クラスメイトの女子――椎名ひより(しいな・ひより)。
どこまでも明るく、どこまでもポジティブな、俺の霊体すら否定しない天然系女子である。
「無念くん、写真撮ってもいい?」
「え、ああ……いいけど」
「はい、チーズ!」
パシャ!
「うん!透けててすっごく雰囲気出てる!」
「褒めてる!? 怖がるどころか“映え”って言われたの初めてなんだけど!?
てか俺の存在、今日だけインスタ素材!?」
「SNSにあげていい?」
「ダメに決まってんだろォォォォ!!!
バズるから!! “幽霊バレ”で拡散不可避だから!!!」
そんな感じで幕を開けた文化祭だが――
問題はそのあとだった。
俺が“ボス霊”として待機していたとき、
小学生の社会科見学ツアーが突撃してきた。
子ども:「うわぁああああああ!!!」
親:「ちょ、やめてやめてマジでやばいやついるじゃん!」
「ちょっと!? 俺何もしてないよ!?
立ってただけで泣かれるってどういうこと!?
幽霊にも無実ってあるよな!? なぁ!?」
控室で聞きつけた担任・大島が登場。
「幽ヶ崎、お前やりすぎ」
「違うって!! 今回俺、ガチでなにもしてない回なんだってば!!!」
結果、俺は文化祭中に以下の記録を打ち立てる:
•写真撮影:20件
•ツーショット:15枚
•見学者号泣:45名
•SNS上昇ワード:『幽ヶ崎 透ける』『本物』『呪われてほしいほどイケメン』←!?
椎名ひよりが言った。
「無念くん、やっぱり主役だったね!」
「なんでそんなに嬉しそうなの!?
透けてる人間が人気出て喜ぶ世界線ってどこ!?」
でも、まぁ。
……悪くない。かもしれない。
来年の文化祭も、出たいような……
いや、やっぱ成仏したいような……
でもまずは次回の後夜祭だよなァァァァァ!!!!