第2話:体育で浮いてる俺に「走れ」は拷問だろ
「おい幽ヶ崎、体育の準備できてるか?」
「いや、まず“浮いてる俺に走れ”って時点で意味不明なんですけど!?」
俺は今、体育の時間に校庭に立っている(※実際は2cm浮いてる)。
この浮遊状態で50メートル走とか、もはや競技じゃない。
ほぼ心霊現象。
「位置について、よーい……」
ピィーーッ!
シュバァァーーッ!!!
俺は走った。いや、滑った。いや、たぶん漂った。
なんだこれ?風に乗るビニール袋の方がスポーツしてるぞ?
「幽ヶ崎!もっと足を動かせ!」
「動かしてるよ!? 地面が遠いだけで!!
俺の魂は今めっちゃ頑張ってるよ!?」
ちなみに記録:測定不能
理由:光電管が俺を“存在”として認識してない。
もうこれアスリート以前に人として無理。
戻ったらクラスメイトに囲まれた。
「ねぇ無念、あの移動方法マジでチートじゃん」
「飛んでんのか滑ってんのかよく分かんなくて逆にかっこよかったぞ」
「文化祭のパフォーマンス、それでいこうよ!」
「やだよ!! なんで俺の浮遊がパフォーマンスに格上げされてんの!?
ていうか文化祭、浮いて出たら絶対オカルト枠でしょ!?」
そして極めつけは、体育教師の言葉。
「お前さ、もっと魂で走る気持ち持てよ」
「だから魂ってどこにあるのか教えてくれよォ!!」
その日の昼、給食中。
「無念くん、今日のコッペパン、透けてたよ」
「それ俺じゃないよ!? 食パンの亡霊とか存在すんなよ!?」
「あと牛乳も、開けたら中身なかった」
「それも俺じゃねぇよ!? 存在すらしてねぇ牛乳って、もうそれホラーだろ!!!」
結果、俺の本日記録――
走れず、食えず、漂って終わる。
これが青春か?
これが高校生活なのか?
……まぁ、そうかもな。
「幽ヶ崎、来週の球技大会、バレーボールね!」
「人選どうなってんだこのクラス!?
ボールすり抜けるやつに球技って!!
勝たせる気ゼロかよ!!!」
俺のツッコミが校庭中にこだまする。
たぶん、音速越えて届いてる。
次回、魂のスパイクが炸裂――するわけがない。