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099 最悪の事態

あと、1話でやっと……

私が正門で待っていると背嚢を背負ったサイガがやって来て、乱れた呼吸を整えて少し遅れた事を謝罪する。


「リン、待たせて悪い。それじゃ、急いで出発するか」

「そんなに待ってないから、気にしないで。それよりもサイガ、その荷物全部持って行くつもりなの?」


サイガの背中には大量の荷物を押し込みパンパンに膨れ上がった背嚢が見える。いくら名馬とは言え、サイガと一緒にそんな大量の荷物を運ぶのは無理だ。たとえ運べたとしても、ショウオンに着くまで何度も休憩をしないといけないはずだ。今は一刻の猶予もないのに……。


「あぁ、そうだ。できるだけ備えておきたいんだ。それに馬に運んでもらうのは、この背嚢だけだ、俺は走っていくから大丈夫だ」

「……………………」


相変わらずサイガには常識が無いらしい。この名馬たちは私たちを不帰の森からフーオンまで運んでくれたあの名馬(・・・・)の血を引いている。その脚力は通常の馬の3倍以上あり、体内の魔素を循環して走れば、音速に近い速さで走ることができる。その名馬の魔獣に伴走するなど不可能でしかない。私は溜息を吐きたい気持ちを抑えて、とりあえず出発しようと促す。


「まぁ、いいわ。とりあえず出発しましょう、もし私たちに付いて来れなかったら、その時は荷物を捨てて素直に馬に乗ってね」

「わかった、それじゃ行くぞ!」


私の言葉に大きく頷き、やはり何も分かっていないと思い、私はわざと大きな溜息を吐いて馬を走らせると、サイガも名馬の魔獣に背嚢を載せて首を軽く叩き、すぐに走り出した。



流石は名馬の魔獣だと俺は感動する。フーオンを出ると、信じられない速さで走り切り、あっという間にショウオン村近くの雑木林に着いた。俺は道中、走りながら馬たちと意思疎通で話していたら、魔王選定の儀の帰りに送ってくれた名馬の魔獣の兄妹だと教えてくれたので、あの時は大変世話になったと伝えると大変喜んでいた。俺が雑木林の前で馬たちと談笑していると、リンが化け物でも見るような目で見ていた。……なぜだろう?


リンと話し合って俺たちは歩いて村に向かうことにした。魔物の大量発生(スタンピード)が発生して何処に魔物が潜んでいるか分からない場所に、大切な馬たちを連れていく訳にはいかない。俺は改めて馬たちにお礼を言ってフーオンに帰ってほしいと伝える。


馬たちと別れた俺たちは徒歩でショウオン村を目指す。途中で小麦畑を見た俺は収穫が既に終わり被害が無いと分かり安心すると、そのまま歩を進める。そして、暫く進むと目の前に村が見えたので茂みに隠れて様子を見る。……正門の前を中心に転がる無数の魔物の死骸を確認して、すでに戦闘が行われた事が分かった。


俺は村の周りに転がる死骸を観察すると、黒焦げになった死骸や何かに圧し潰された死骸など、何か超常的な力で殺されたと思われる魔物たちがそこら中に転がっている。多分、呪術によるものだと予想できるが、俺がいた時は、オウカさん以外に呪術が使える魔族はいなかったはずだ。偶然、村に立ち寄った上位の魔族でもいるのだろうか……。


魔物を倒した魔族も気になるが、まずは村の様子を確認したい俺は、再び村の周辺を見渡し、どこか入れる場所はないかと探す。だが、いまだ十数体の魔物が村の周りを取り囲み見張っていて容易に村に近づく隙がない。


俺はどこか統率が取れた魔物の群れに違和感を覚え、迂闊な行動は危険な気がして慎重になる。……とはいえ、村の安全を確認することが最優先だと思い直した俺は、リンには悪いが強行突破する事にする。


「リン、今から魔物の群れを無視して村に突入しようと思う。少し荒っぽい方法で悪いが、しっかりと掴まっていてくれ」

「えっ?」


特に説明はいらないだろうと思った俺は、リンの背中に手を回し横向きに抱き上げて走り出すと、身体強化して魔物の群れに突っ込む。すぐに数体の魔物が気付き襲い掛かるが、更に加速して魔物たちの襲撃を振り切る。


物凄い速さで村の前まで辿り着いた俺は、膝に力を入れて踏み込むと思い切り跳躍する。膨大な魔素で強化した俺は、リンを抱えたまま余裕で防壁を超えると、衝撃を抑えるために膝を深く曲げて着地し、周りに魔物がいない事を確認して、そっとリンを下ろす。


「……アンタ、私を殺す気なの?」


涙目のリンが俺を睨み非難するので、俺はなるべく早く村の状況を知りたかったと釈明して、説明せずに村に突入したことを謝罪する。


「すまん、急いでいたとはいえ説明不足だった。だが他に何か良い方法があったかといえば無かったと思う。違うか?」

「……まぁね、アンタしか出来ない方法だけどね。私たち2人が村に入るには、あれしかなかったかもしれないけど、ちゃんと説明はして欲しかったわ!」


乱れた髪を直しながらリンは不承不承ながら頷くと周りを見渡し、村の様子がおかしい事に気付く。


「まだ、魔物は侵入していないようだけど、住民もいないようね。何処かに避難しているのかしら?」


静か過ぎる村に違和感を覚えた俺たちは、住民を探しながら正門近くにある警備隊の駐屯所へ向かう。


駐屯所に着いた俺たちが中に入ると、奥の方から人の気配を感じて歩を進める。一番奥の会議室まで着き扉を開くと、4人の警備兵が地図を開いて相談していた。その中で指示を出している灰色の髪の中年の男を見た俺は、すぐに副隊長のジアリさんだと分かり声をかける。


「ジアリさん、村の住民はどうした? 皆は無事なのか?」


難しい顔で話し込んでいるジアリさんたちに俺が声をかけると、一斉に顔を上げて俺を見て驚く。村を出てから3カ月以上経っているが、ジアリさんも俺の事を覚えていたようで、すぐに詰め寄り話しかけてくる。


「どうして、サイガがここにいるんだ!? 村の周りは魔物の群れに囲まれて近づけないし、門も全て閉じて侵入も無理なはずだ!」

「少し落ち着いてくれ、ジアリさん。俺はフーオンでこの村の近くで魔物の大量発生(スタンピード)が起きたと聞いて、急いで来たんだ。村にどうやって入ったかも、あとでちゃんと説明する。だが、今は村の状況を教えてほしい」


俺は興奮するジアリさんを落ち着かせると、村の状況や住民の安否について詳しく説明してもらった。


――――――――


「――――で俺たち警備隊が囮となり、最後まで村に残って魔物を引き付けている。その間に村の住人たちは、裏門から抜け出し隣村のサンルウに向かってもらった」


ジアリさんの説明によると、村に大量に押し寄せてきた魔物たちは最近、警備隊に入った2人の新人が呪術を使って殲滅したらしい。巨大な炎の竜巻を発生させたり、土で出来た大きな蜘蛛を呼び寄せて使役したりと、新人たちの呪術のおかげで、数多くの魔物を討伐することができたみたいだ。


だが、殲滅した魔物はゴブリンやコボルト、オークなど貧弱な魔物しかおらず、瞬く間に討伐されたが、続けざまにオーガやトロールなど強力な魔物が大量に現れて、始めに襲ってきた魔物は、こちらを消耗させるための捨て駒だと気付いた時には、新人たちは大量の魔素を消費したみたいで呪術が使えなくなっていたと説明する。


ジアリさんは呪術が使えない新人と自分たちだけでは、強力な魔物の群れを退けることは出来ないと判断して、2人には村の住民たちを引き連れて隣村まで逃げるように命令をした。そして、ジアリさんたち残りの警備隊員は、村に籠城して住民たちが逃げるまでの時間を稼いでいると俺たちに話した。


「ジアリさん、大量の魔物と言ったが、何体ぐらい現れたんだ。俺も村に入る時に確認したが十数体しかいなかった。大量とは言えない微妙な数だ……」

「……戦いながら数えてたので、正確には分からないが、30体以上はいたはずだ。俺たち4人で10体ほど引き付けていたが、その後ろに倍以上の魔物が見えたから、間違いないはずだ」


俺の質問の意図を理解したジアリさんが、なるべく正確に出現した魔物の数を伝えると、お互いが目撃した魔物の数に大きな差がある事に気付き、最悪の事態が頭を過り俺はすぐにリンの方を向いて大声で叫ぶ。


「俺は今から隣村に向かった住民たちの後を追う! すまないが、リンはここに残ってジアリさんたちを守ってくれ!」

「わかったわ、すぐに行って。アンタなら大丈夫だと思うけど、無理はしないで」


不安気に見つめるリンに俺は力強く頷き、足早に駐屯所を出ると、隣村に向かった住民たちを追いかけた。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

<(_ _)>

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