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098 ショウオン村に暗雲

リンと模擬戦をしていたはずだった俺が目を覚ますと、綺麗なお花畑に立っていた。目の前には清らかな川が流れ、対岸側には死んだはずのクソ親父が手招きをしていたので、とりあえず無視して、お花畑に視線を戻すと、元気良くスキップするヒマワリたちや、可愛い小動物たちを捕食しようと蔦を伸ばすサザンカがいた。そして、見覚えがある大きなテントウムシ……テンテンさんが自由を謳歌しながら青々と晴れ渡る大空を飛び回っていた。


「……ガ、……イガ、サイガ!」


リンの言葉が頭の中に響いて、俺は再び目を覚ます。……どうやら夢を見ていたようだ。……めっちゃ、怖かった。


「大丈夫、サイガ!? ごめんなさい。夢中になって寸止めするところ、思い切り振り抜いちゃった、『てへぺろ』」


リンが心配なのか謝罪なのか全然分からない言葉を投げかける。俺は思わず『ジト目』で睨むが、リンに気にした様子はなく、俺は溜息を吐きたいのを我慢して全身を隈なく確認するが、顎が少し痛む程度で特に大きな怪我は見当たらなかった。


俺は僅かに痛む顎をさすりながら、リンが空中で軌道を変えて攻撃できた原理について尋ねる。


「あれはね、体内の魔素を一気に放出したの。こんな感じよ」


俺の言葉を受けてリンは手を前に突き出し魔素を集め、一気に放出すると風が吹きつける。突風を受けた俺は、なぜ空中で移動できたのか理解するが、新たな疑問が沸いて尋ねる。


「なるほど、原理は分かった。だが、かなりの魔素を放出しないと人を動かせるほどの風は起こせないと思うのだが……」

「えぇ、そうよ。以前の魔素量のままなら無理だったと思うわ。さっきもかなりの魔素を消費したし。けど、呪術が使えない私にとっては良い切り札になるわ。実際にサイガも意表を突かれて負けたでしょ」


リンの言葉に俺は確かにその通りだと納得する。呪術を気にして魔素を節約する必要がないリンとっては、戦況に応じて躊躇なく使うことができる特殊な魔素操作術……。やはり元とはいえ魔王だっただけはある、戦闘に関する才能はずば抜けている。シノジユウにも嫉妬したが、リンにも同じ気持ちになってしまう。


「いや〜、照れるなぁ。そんなに褒めないでよ、サイガも、まぁまぁ強かったよ。勝ったのは私だけど……。って! サイガ、魔皇の呪紋(じゅもん)は大丈夫!?」


急にリンが左手の呪紋を確認しろと慌てだしたので、決闘に負けたら魔皇の呪紋が奪われる事を思い出して左手の甲を見ると、ちゃんと呪紋が刻まれたままだったので、俺は左手を見せてリンを安心させる。


「ふぅ~、よかった。正直、私じゃ魔皇なんて務まらないし、魔神トガシゼン様と戦う勇気はないわ」

「そうか、魔皇である俺に勝ったんだ、意外と魔神にも勝てるかもしれないぞ」

「ふふふ、サイガ。アンタ、馬鹿ね。それを『フラグが立つ』って言うのよ。余計な事は言わないで」


俺の何気ない言葉にリンが不吉な予言をするなと半目で睨んで注意する。確かに余計な言葉だったと反省し、あくまで魔神を倒すのは俺だと自覚する。人間に戻る方法を聞き出す為に必ず魔神トガシゼンに勝たなければならない俺は、改めて自らの目的を思い出し、決意を新たにした。


――――――――


俺は魔王選定の儀の疲れを取るため、リンと模擬戦をした日から数日間、ララの屋敷でダラダラして過ごし、そんな俺の姿を見たリンが『ニート』と言っていたが、とりあえず無視した。多分、別世界の言葉だと思うが、褒め言葉では決してないことだけは分かった。


数日の休養を得て魔素も全て回復し、体調も完全に戻った俺は、例の御布礼(おふれ)が出るまで修行でもしようかと思い、リンとララに相談するために執務室に向かった。


俺が執務室の前に着くと、何やら部屋の中から騒がしい声が聞こえてきた。僅かに聞こえる言葉から、何か問題が起きたと分かり、俺は扉を叩くと許可を待たずに部屋に入った。


「それは本当なの? ショウオン村の近くで魔物が大量に発生したというのは」

「はい、間違いありません。ショウオン村にいた隊商のセップが魔鳥を飛ばして知らせてきました」


俺が部屋に入ると、文官から報告を受けて顔を青ざめるララが目に入る。確かショウオン村にはオウカさんがいたはずだ。魔物の大量発生(スタンピード)は脅威だが、オウカさんがいるなら簡単にどうにかなるとは思えないが……。


「すまん、横から口を出して。魔物が大量に発生したらしいが、あそこにはオウカさんがいるはずだ。それに警備隊も駐在している。すぐに危険な状況になるとは思えないんだが……」

「サイガ、いい所に来たわ。確かにショウオン村にオウカがいたわ、1カ月前まではね。あなたは知らないと思うけど、オウカは剣を極めるために村を出たのよ。もうショウオン村にはいないわ」


ララの話を聞いた俺はオウカさんの事を思い出す。彼女には(かしら)の地位を捨ててでも叶えたい夢があった。何か特別な理由があって、警備隊長としてショウオン村に留まっていたが……。俺はようやく彼女が夢を叶えるために旅に出る決心をした事を知り、少しだけ嬉しくなったが、今は緊急事態で、余計な事を考える余裕はなかったと反省する。


俺は頭を振り余計な雑念を払うと、以前会った警備隊の連中の顔を思い出し、戦力的にかなり厳しいと分かり、ララの顔が青い理由を察する。だが、(ぬし)であるオテギネさんからの援軍は期待できないのだろうか。確かショウオン村ならオテギネさんの城からもそんなに離れていないはずだ。


「ララ、オテギネさんに援軍を依頼するのは難しいのか? ショウオン村ならオテギネさんの城からそんなに離れていないはずだ」

「実は不帰の森でも魔物の大量発生(スタンピード)が起きているらしいの。ショウオン村よりも大規模な……」


まさか不帰の森でも魔物の大量発生(スタンピード)が発生しているとは……。思い返すと魔王選定の儀の時にも、大量のゴブリンの魔族と戦ったが、偶然ではないのかも知れない。妙に胸がざわつくが、今はショウオン村をどうするかを考えるのが先だ。


「わかった、なら俺が行く。ショウオンで起きた魔物の大量発生(スタンピード)を討伐してくる。すぐに荷物を纏めて出発するから、悪いが、ララ、後のことは頼む」

「助かるわ、本当は(ぬし)である私が行くべきなんだけど、正直、他の場所でも魔物の大量発生(スタンピード)が起きそうな気がするの……。私はそれに備えてここに残るわ」


俺と同じでララも何か人為的なものを感じているのだろう。ショウオン村だけなら偶然と思うが、強力な魔族がいる不帰の森でも魔物の大量発生(スタンピード)が起こったとなると話は別だ。


「そうね、ララはここにいて全体の指揮をお願い。サイガ、私も一緒に行くわ。馬の準備は出来ているわ」


いつの間にかリンも執務室に訪れ、ショウオン村で起きた魔物の大量発生(スタンピード)について文官から説明を受けていたようだ。


「ありがとう、リン、助かる。それじゃ俺は部屋に戻って急ぎ荷物を纏めるが、どこで落ち合う?」

「そうね、正門前でいいでしょ。それじゃ、馬と一緒に待ってるわ。あと、元とはいえ、私はジュウカンを治めていた魔王よ。領民を助けるのは当たり前、感謝は不要よ」


リンが礼を述べる俺に感謝は不要と言って闘志を漲らせ、怒りに顔を歪ませる。大事な領民たちに迫る危機を前に気持ちが逸るリンを落ち着かせると、俺は部屋に戻り荷物を纏めて急いで正門へ向かった。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると嬉しいです。

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