097 リンとの模擬戦
リンも【神の加護】と魔人の関係については、これ以上話しても何も出ないと思ったらしく、苦笑して両手を上げて降参する真似をする。そして、真剣な顔になるとどこか思いつめた様子で話し出した。
「サイガ、これから言うことは絶対にララには言わないで。もしばれたら案内役は出来ないと思って」
「……急にどうしたんだ、リン。真剣な顔して、何があったんだ?」
「……驚かないで聞いてね、私、呪術が使えなくなっちゃった」
「はぁ!?」
真剣な表情から一転して、あっけらかんと話すリンの言葉に思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。だが、良く考えたら、俺はリンがどのような呪術を使っていたか憶えていないので、どれだけ重要なことなのか分からない。……とりあえず、俺は知っている情報をリンに伝える。
「この際、正直に言うが、俺はお前の呪術について、ほとんど何も知らない。【知識の神の加護】から呪術の名前と起きた事象については、教えてもらったが、今はもう何も憶えていない」
「なによ、それ、何も憶えていないアンタが悪いんじゃない、なんで偉そうに言ってるのよ。……しょうがないわね、バカなアンタに私の呪術について教えてあげるわ」
リンは別世界の言葉でいう『ジト目』をした後、溜息をつき、自らの呪術について説明し始めた。
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「――――と、以前の私は第4段階まで呪術を極めていたの。アンタと戦った時も全て使ったわ。まさか第4段階の『器死廻生』まで使うとは思わなかったけどね……」
「確かに発動条件が『命を捨てる覚悟』なんて無茶苦茶な呪術、早々使う訳にいかないしな。お前の説明で、呪術については分かったが、正直、呪術が使えないお前を旅に連れて行っていいかは、難しいところだな」
俺は顎に手を当て思案するふりをしながら、ひょっとしたらリンとは、このままおさらば出来るかもしれないと期待に胸を膨らませる。正直、案内役がいなくなるのはちょっと辛いが、俺の『コミュニケーション』能力があれば、どうにかなるような気がする……。
『そんな訳ないでしょ、魔族の常識も知らないくせに。どちらかと言えば、アンタは「コミュ障」よ!』
いきなりリンの声が頭の中に響き驚いた俺は、すぐにリンに顔を向けると『ジト目』で俺を睨んでいた。そういえば意識が繋がっていることを、うっかり忘れていた。やはりリンとは早く別れた方が良いのではないだろうか……。しまった、これもリンに伝わっているのか!
「はぁ~、まぁ良いわ。言っとくけど、いつも聞こえてるわけじゃないわ。アンタに意識を集中しないと無理よ。逆にアンタも私に集中しないと何も感じないでしょ」
考えを読まれたと思い焦る俺を見ながら、やれやれと首を横に振るリンは、意識を集中しなければ、互いに繋がることはないと教えてくれた。確かに俺はリンの考えている事が分からない……。俺はリンを見ながら意識を集中すると『そんな事も気付かないなんてバカなの』という明確な意思が伝わってきた。
「……まぁ、いい。それで呪術が使えないリンは、旅の間どうやって自分の身を守るんだ?」
「そうね、呪術は使えなくても戦う術はあるわ。私は鉄扇術が得意で、呪術と併せて戦っていたわ。アンタに深手を負わせたのも鉄扇術だったし。それに魔素は以前より多いから、身体強化と鉄扇術で十分に自衛できると思うわ」
リンの言葉を受けて俺は魔素感知でリンの体内にある魔素量を見ると、その膨大な魔素量に驚愕する。俺には及ばないものの、魔王であるシノジユウやカミニシレンを遥かに上回る量の魔素が体内を循環している。人間だった時の俺は、こんな化物と戦い、死にかけたとはいえ勝つことが出来たのか……とても信じられない。
「化物とは失礼ね、アンタたちと戦った時より、魔素はかなり増えてるわよ。今ならあの時のアンタたちにも勝てるかもね、呪術が使えたらだけど……。ねぇ、これで分かったでしょ、私なら十分に戦うことが出来るって」
「そうだな、呪術もそのうち使えるようになるかもしれないしな。分かった、やっぱりお前に案内役を頼む。それにララには呪術が使えなくなった事は秘密にしておく。だから、最後に俺からのお願いを聞いてくれないか?」
俺はリンに呪術が使えなくなった事を秘密にするかわりに、手合わせしてくれないかと頭を下げて頼む。リンは魔王を凌ぐ魔素を持ち魔素感知もできる、そして、一流の鉄扇術の使い手だ。どうしても手合わせしてみたいと思った俺は、自らの欲求を抑えられなくなりお願いする。
「フフフ、アンタ、やっぱり面白いわ。いいわよ、私も久しぶりに生身の体を動かしてみたいし……。そうね、これから中庭で模擬戦なんかどう?」
「ありがたい、食後の運動にちょうど良いな。それじゃ、早速、向かおう!」
あまりにも嬉しくなった俺はリンに満面の笑顔を向けると、何故だかリンが顔を赤くして視線を逸らした。……なぜだろう?
◆
私たちは中庭に来ると中央まで進み対峙して戦う準備をする。愛用の鉄扇を抜き胸元で開き構える私に対して、サイガは悠然と立ち無防備のままだ。
「それじゃ、始めるけど。死免蘇花があるとはいっても貴重な魔草だから使わない範囲で戦いましょ。あと私は呪術が使えないから、武術だけの模擬戦よ、問題ないかしら?」
「十分だ、それじゃ、早速始めるか!」
私が説明を終えると、すぐにサイガが突っ込んでくるが、私は小さく横に跳んで躱すと、鉄扇を閉じて振り下ろす。サイガは腕を上げて外殻で受けようとするが、当たる直前で鉄扇を止めるとサイガの鳩尾に横蹴りを放つ。
私の意表を突いた攻撃にサイガも反応するが、僅かに間に合わず、足刀が鳩尾に突き刺さり体をくの字に曲げると、私は目の前に現れた後頭部に鉄扇を振り下ろすが、サイガは顔を上げて額の外殻で受け止める。
ガキンッ!!
額の外殻と鉄扇がぶつかると、激しい金属音が中庭全体に響き、一旦、互いに距離を取り様子を覗う。私の渾身の蹴りを受けても平然と構えるサイガに、少し悔しさを覚えた私は身体強化をもう一段階上げると、鉄扇を上段に構えて飛び掛かった。
サイガは身体強化された私の跳躍に驚き一瞬動きが止まるが、すぐに冷静になると軌道を読んで横に避ける。だが、私も動きが読まれるのは想定済みで、魔素を一気に放出して空中で停止すると、姿勢を変えて勢いよく回し蹴りを放つ。
私の予想外の動きに驚き防御が遅れたサイガが、回し蹴りをまともに受けて数歩よろめくと、私はすぐに詰め寄り、脳震盪を起こしふらつくサイガに上段から鉄扇を打ち落とす。サイガも咄嗟に反応して腕の外殻で受けようとするが、すぐに鉄扇を止めて、がら空きになった首に手刀を打ち込むと、思わず倒れそうになるサイガの顔に中段蹴りを放ち、強引に上体を蹴り起こした。
私の猛攻を受けて、意識が朦朧とするサイガに止めを刺すべく、下段蹴りを入れて体勢を崩すと、顎を目掛けて鉄扇を横薙ぎに振り抜く。もはや満身創痍でなんとか立っているサイガに、迫り来る鉄扇を防ぐ術はなく、顎に直撃すると激しく脳を揺らされて意識を失った。
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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると嬉しいです。
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