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096 加護と魔族

いつも読んで頂きありがとうございます!

本日より、本編に戻ります。少しずつですが、この世界の謎に迫れれば、良いなぁと思っています。

<(_ _)>

扉を叩く音で意識を取り戻した俺は、ベッドに寝かされている事に気付く。確か俺は、死免蘇花―黒―を発動するために全ての魔素を譲渡して、そのまま意識が無くなった……。その後、何があったか分からないが、俺は部屋に運ばれ寝かされたようだ。窓から差し込む日の光が、もう朝なのだと教える。


俺が窓の外を眩しそうに眺めていると、再び扉を叩く音がする。俺が入室を許可すると、ノーベさんが入ってきて体調は大丈夫かと尋ねるので、ベッドから起き上がり、全身を隈なく確認したが特に異常はなかった。頭痛も吐き気もなく体調は万全だが、体内の魔素は7割ぐらいしか回復していない。


「おはよう、ノーベさん。体調は問題ないが、魔素がまだ回復していないようだ。ところであの後、どうなったんだ? リンは元に戻ったのか?」

「それにつきましては、これから食事をしながら話がしたいとララ様とリン様から承っております。サイガ様、いかがでしょうか?」

「そうか、わかった、問題ない。それじゃ準備をするから待っててくれ」


俺が朝食の同席を了承するとノーベさんが、リンとララに俺が起きた事を伝えるために部屋を離れるが、代わりに使用人を寄越すので、それまで部屋で待っていて欲しいと告げた。


――――――――


準備を終えた俺を使用人が呼びに来て、食堂まで案内して部屋に通すと、隣り合う形で座り談笑するリンとララが目に入る。俺は無事にリンが元に戻ったことが分かり安堵すると、俺に気付いたララが向かいの席に座るように勧めてきたので、軽く頷き、使用人に席まで案内してもらう。俺は使用人に礼を言って席に着くと、並んで座るリンとララを見つめる。


……隣り合う2人を見比べた俺は、さすが姉妹だと感心する。瞳の色と髪の長さを除けば、双子のようにそっくりで、リンは白銀の髪を腰まで伸ばし、ララは肩口で切り揃えている。人族では見ない銀色の真珠のような瞳のリンと、深緑に輝くエメラルドのような瞳のララ……2人の美しい少女が並ぶと何か神聖なものを感じるが、もちろん、そんなことは2人には絶対に言わない、特にリンには。


「いや〜、照れるな。そんなに褒めないでよ、サイガ。もしかして惚れ直した?」

「……リン、確認するが、俺は知らないうちに口にしたのか?」

「いいえ、何も喋ってないわ。不思議よね、まだ意識が繋がってるなんて。やっぱり魂が混じり合っているのが原因かしら?」

『ほら、口に出さないでも意思疎通できるでしょ』


俺は思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまう。つまり、リンは俺が何を考えているのか分かるということだ。いつでも勝手に頭の中を覗き込まれ、少しでも下らない事を考えれば、容赦なく突っ込みをいれられるのか……。そんな悪夢のような日々を過ごす訳にはいかないと思い、なるべく早くリンから別れる決意をする。さすがに距離が離れれば、相手の考えも分からないと思いたい……。


「それは無理よ、サイガ。アンタ、これから魔神になるために魔族領を旅することになるでしょ。その時に道案内は必要よ、その大役をこの私が引き受けてあげるんだから」


リンが偉そうに胸を張って宣言するが、誰も頼んでいないし望んでもいない。俺は自由気ままな1人旅がしたいんだ。全くもって道案内なんて必要ない。最悪、潤沢にある支度金から人を雇えばいい訳だから、リンは不要だ。俺が魔族領の名所巡りについて考えていると、リンが呆れた顔をして甘い考えだと注意する。


「何か勘違いしているようだけど、案内人になってくれる魔族は少ないわよ。これから1カ月後には例の御布礼(おふれ)が出るのよ。そうなったら大勢の魔族がアンタを狙ってくるわ。例え1対1の決闘とは言え、皆がお行儀よく戦ってくれるとは限らないわ。そんな危険な状況にいるアンタに付いて来てくれる魔族がいると思う?」


……確かにリンが言う事にも一理ある。戦うかどうかを決めるのは俺だが、雇った案内人を人質に取り不利な条件を付けて戦おうとするヤツもいるかも知れない。寧ろ正々堂々と戦うヤツの方が少ない可能性が高い。


「サイガ、姉さんの言う事も分かるの。魔族同士、意思疎通はできるけど個人で考え方は違うし、部族の壁も厚い。私たちにとっては卑怯と思う事でも、他の部族では当たり前のことだってあるわ」


ララもリンの意見に賛成のようだ。魔獣や魔蟲、魔鳥など様々な部族がいて、考え方も違うし、魔皇という称号に対する価値観も違うだろう。リンは元とはいえ魔王であり自衛できるだけの武力は持っているはずだ。それに魔族領に関する常識や知識も十分にあり、案内人としては申し分ないかも知れない……。


「2人の意見は分かった。確かに俺に雇われる魔族は少ないと思うし、案内人を守りながら旅をするのは厳しいのも確かだ。さっきは不要と言ってながら、都合が良くて申し訳ないが、リンに頼みたいと思う」


俺は深々と頭を下げて、ついさっきまで1人旅を楽しみたいと言って、リンを邪魔者扱いした事を反省して詫びると、頭を下げて顔が見えないはずなのに、リンが別世界の言葉でいう『ドヤ顔』をしているのが、何故だか分かり、これが魂が混じり合った結果だと思うと少し悲しくなった。


その後も3人で話し込んでしまい、朝食を始める時間が押してしまったみたいで、いざ食事をしようとしたら、用意した料理を温め直すための時間がほしいとノーベさんに言われた。



食事を終えたララはノーベと一緒に執務室へ向かうというので食堂で別れて、私はサイガと一緒に部屋へ向かう。サイガは少し嫌そうな顔をしたが、私は無視して後ろを付いていく。これからの事を話さないといけないし、相談したいこともあるので2人だけになりたかった。


私たちが部屋に入り、小さなテーブルを挟んで2人向かい合うように座ると、いきなりサイガが口を開く。


「それで【知識の神の加護】は、どうなったんだ。まだ、俺に付与されていないようだが」

「呆れた、いきなり聞くことがそれなの。【知識の神の加護】って言うけど、魔素と意識の集合体よ、【神の加護】って呼ばれるほど大層なものじゃないわ。ちなみに元に戻った時に聞いたら、私の方が良いみたいでサイガには戻らないそうよ」


サイガは私から【知識の神の加護】から拒絶された事を告げられると、呆然とした表情をしてピクリとも動かなくなった。昨夜、私は元に戻るとすぐに【知識の神の加護】をサイガに戻そうとしたが、私に付与されたままが良いと【知識の神の加護】に懇願された。どうも魔人の知識や経験を沢山持っている私の方が良いらしく、特に何も使い道はないのだが、害も無さそうなのでとりあえず許可した。


私が【知識の神の加護】とのやり取りを思い返していると、呆然としていたサイガが何かに気が付き質問をしてきた。


「そういえば【神の加護】は、人間や獣人、鬼人にしか付与されないらしいが、魔人であるお前にどうして付与されるんだ?」

「さぁ、分からないわ、あくまで予想だけど、アンタと魂が混ざり合って、私の魂が人間(アンタ)に近づいたからだと思うわ。あと長い間ずっと一緒にいたから、それも影響あるかも……」


当然といえば当然の疑問だが、私とサイガの魂は混ざり合っていて、魔名まな真名まなを知っているので、自然と私の魂も人間(サイガ)に近づいてしまう。魔人になったサイガに付与されたのだ、私に付与されてもおかしくはない。私がサイガに【神の加護】ついて自分の考えを説明していると、1つ疑問が沸いてきたので聞いてみる。


「私からも質問して良い? 【神の加護】って人族でも人間や獣人、鬼人だけにしか付与されないのよね? ホビットやドワーフ、エルフには付与されないの?」

「あぁ、そうだな。何故だか付与されないそうだ、過去に付与されたヤツもいないと【知識の神の加護】に教えてもらった事がある。けど、それがどうしたんだ?」

「別に大したことじゃないけど、魔人と同じだなと思って。魔人も人間や獣人、鬼人はいるけど、ホビットやドワーフ、エルフはいないの。ただの偶然かしら?」


やはり長命種であるドワーフやエルフたちに【神の加護】は付与されないらしい。魔族の中にも長命種であるドワーフやエルフたちはいない。今の魔神トガシゼン様も300年近く生きているが長命種ではなく、魔神になる時に何かの呪術を受けたと聞いた。ただの偶然かもしれないが、何か大事なことのような気もする。私が思考の海に沈みそうになるとサイガが声をかける。


「【神の加護】と魔人に何か関係があるのか? 魔人の中にお前以外で付与された奴がいるのか?」

「いいえ、いないわ。別に何か考えがあって聞いたわけじゃないわ、ただ、少し不思議に思っただけよ」


私はそう言うと肩を竦めて両手を上げて自分でも何が気になるか分からないと言って苦笑した。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。また、何か感想を頂けると嬉しいです。

<(_ _)>


「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けるとありがたいです。

<(_ _)>

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