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094 サイド:リブギッド共和国・ゼウパレス聖王国

私は国に戻るとすぐに共議会の開催を申請したが、なかなか受理されなかった。申請から1カ月後にようやく開催されるも下位種である人間のために兵士を出す必要はないとすぐに議会は終了となった。


私の国はドワーフ、ホビットとその上位種であるハイドワーフ、ハイホビットが(おも)に住んでいる。人間や獣人などは僅かしか住んでおらず、国を運営する十二議員は全て上位種で構成されていて、私もその1人だ。


どうも昔から一部の者は長命種である自分たちは人族の中でも優秀だと思い、短命の人間や獣人、鬼人を下に見る傾向がある。馬鹿げた考えだと思うが、十二議員の連中は私以外は同じ考えだ。


更にスミノエがいるゼウパレス聖王国はもっと酷い。最長命種である自分たちのみが神に作られし選ばれた民と思っているらしい。ほかの種族は自分たちに仕える下僕としか見ておらず、よく今回の遠征にスミノエを派遣したなと思ってしまう。


「どうかしましたか、エンキ様。先程からずっと黙って」

「いや、どうも最近、人間や獣人たちを下に見る奴らが増えてきたなと思ってな」


私が書斎で資料を見ながら考え事をしていると秘書のヨウムが声をかける。ホビット族のヨウムは比較的背が高く、手先も器用で頭が切れる。とても優秀で秘書の枠を超えて色々な仕事を手伝ってもらっている。


「確かに多いですね。愚かなことだと思います。私たちの国は様々な物を加工して輸出する加工貿易で成りたっている国です。その原料を産出している国との関係を悪化させるようなことは何の利益にもなりません」

「そうだな、私もそう思う。ただ、利益とか関係なく私たちは同じ種族だ。命の長さで人族の価値は決まらない」


ヨウムの言う事は正しいが、どうも感情に欠ける発言に苦笑いする。魔族と争い魔物の脅威が常にあるこの世界で同じ種族である人族同士でいがみ合うなんて、本当に愚かなことだ。サイガたちと旅をしてからは、特にそう思うようになった。


「それでこれから予定通り、シュバルツ帝国の皇帝と面会するのですか?」


再び思考の海に沈みそうになりヨウムに呼び戻される。相変わらず良いタイミングで声をかけてくれる。


「あぁ、その予定だ。このままではサイガの捜索隊の結成など無理だろう。祖国のシュバルツ帝国なら少しは前向きに動いてくれるかもしれないからな。正直、難しいとは思うが……。何もしないのはアイツらに申し訳ない」


私は席を立ちヨウムに馬車を準備するように言うと書斎を出てシュバルツ帝国の大使館へ向かった。



「よくぞ戻った、スミノエよ。それで魔王は討伐されたと思ってよいのじゃな」

「ええ、問題ないわ。この目で見たわけじゃないけど、間違いなく討伐されたはずよ」


私は自国であるゼウパレス聖王国に戻ると元老院のジジィ、ババァどもに呼び出されて魔王討伐の事を色々と聞かれた。今回の討伐で私にはいくつかの使命が課せられていたが、もちろん、この元老院にいる老害どもからではない。


「それで神からの使命の方も無事に果たすことが出来たのじゃな」

「それについては、あんたたちには関係ないことよ、これから巫女長と一緒に神への祈りと共に報告するわ」

「相変わらず生意気な小娘じゃ。まぁ、神の使命も果たせたなら、それで良いか」


私の横柄な態度に老害どもは面白く無さそうにしているが、神に直接仕える私に対して、何も言えない事が分かっているので、軽く憎まれ口を叩き報告を受け取ると、もう用は無いと退室しても良いと告げる。


私もあまりここにいて老害どものカビ臭い(にお)いが染みつくのは勘弁してほしいと思っていたので、これ幸いと報告を済ませて、さっさと会議室を出て巫女長がいる神殿に向かった。


王城よりも更に大きく華美で厳かな雰囲気を持つ神殿は王都の中心にある。ゼウパレス聖王国を実質支配しているのは神であり、それに仕える巫女たちである。王城にいるお飾りの聖王ではない。故に神殿は王城より立派で大きく国の中心に建っている。


私は神殿の奥にある巫女長がいる部屋の前に立つと扉を叩く。部屋の中から優しい声が聞こえると扉が開き、部屋の奥には机に向かい書類に目を通す巫女長のサラスセルがいた。私は一礼するとサラスセルがいる机の前まで進み、もう一度頭を下げると床に膝をつけて臣下の礼をとる。


「サラスセル様、ただいま戻りました。巫女スミノエです。神に課せられた使命について報告したく参上しました」

「よくぞ戻りました、巫女スミノエ。それでは使命について報告をお願いします」


サラスセルは優しく微笑むとソファに座るように勧める。私は臣下の礼を解き、ゆっくり立ち上がりソファに腰を落とすと、机から離れて向かい合う形でサラスセルもソファに座った。


「それで神より与えられた力は使えることはできたの」

「はい、使えることは確認できましたが、やはり効果に関しては今一つでした。ただ、人族には影響はなく魔族のみ効果するのは間違いありませんでした」


私の報告に満足そうに頷き、そばに仕える巫女見習いのハイエルフを呼び何やら指示を出す。多分、神へ報告するための書類を作成させるのだろう。


報告も終えて緊張が解けると、ふとサイガの事を思い出す。どうせ無理だろうと思うが、念のためにサラスセルにお願いしてみる。


「サラスセル様、1つお願いしたいことがあります」

「何かしら、しばらくは神事も無いし、少しなら休暇を取っても良いわよ?」

「いいえ、休暇も欲しいですが、別のお願いです。今回の魔王討伐で1人行方不明になった人間がいるのですが、その捜索を各国に呼び掛けてもらえないでしょうか?」


私のお願いが意外だったのか、サラスセルは大きく目を開き驚くと、すぐに表情を戻し優しく語りかける。


「巫女スミノエ、あなたは動かなくなった玩具の部品に興味があるの。玩具は捨てて新しい玩具を買えばいいだけよ。玩具は勿体ないと思うけど、その部品まで勿体ないなんて思わないでしょ? 私たちエルフは玩具で遊ぶだけでいいの。その玩具はドワーフやホビットが作って、部品は下位種が準備する。そうやって世の中は回っているのよ」


サラスセルは話し終わると、ソファを立ち机に戻り書類に目を通し始めた。私は予想通りの答えを聞くと、溜息を吐くのを我慢して立ち上がりサラスセルに一礼すると部屋から出た。

お読み頂き、ありがとうございます。

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<(_ _)>


「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けるとありがたいです。

<(_ _)>

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