093:サイド:シュバルツ帝国(2)
今までで一番書くのが苦しかったです。
物語的に大事な話になるので、丁寧に書いたつもりですので、
よろしくお願いします<(_ _)>
サイガの母ユウカさんから突き返された補償金を持って本庁舎に戻ると、すぐにセグメント総帥の部屋に通される。僕が事の顛末を報告すると総帥は大笑いして、補償金は僕が預かっておくように言われた。
本庁舎を出た僕が帝都の貴族街にある屋敷に帰ると、ティアとフォルが訪れていると執事から告げられ、使用人に荷物を渡しティアたちがいる部屋を聞いて、すぐに2人の元へ向かう。
「2人とも久しぶり。……というほどでもないけど、何だか最近忙しくて2人の顔を見れて嬉しいよ」
「そうね、私も嬉しいわ。本当はもう少し会いたいんだけど……」
「そうだな、お互い色々と忙しいからな。で、今日来た理由だが、かなりまずい事になった」
3人で再会を喜ぶ暇もなくフォルが真剣な表情で深刻な状況になった事を告げる。ティアを見ると同じく緊張で少し表情が硬い。すごく嫌な予感しかしないが、聞かない訳にもいかず、フォルに来訪した理由について尋ねる。
「フォル、いったい何があったんだい? もしかしてサイガの死亡が確認されたの!?」
「いいや、そこまで最悪な報告じゃない。……実はウラノス皇国の大使館からマヤとアオが2人だけで魔族領に向かったと連絡がきた。しかも王家から追放される形でだ」
フォルの言葉に一瞬、頭が真っ白になる。ウラノス皇国の王女である2人が単身で魔族領に向かい、しかも王家から追放された。ということは何も援助も支援も無い状態でサイガを探しに旅に出た事になる……間違いなく魔族領に着く前に盗賊や野盗に襲われる!
僕はいても立ってもいられず、席を立つとフォルが慌てて肩を掴み、僕を止めようとする。
「ちょっと待て、アルス! どこに行くつもりだ!」
「離してくれ! もちろん、マヤとアオを探しに行くんだ。なぜ、君たちはじっとしていられるんだ、仲間じゃないのか!」
僕は思わず大声で助けに行くのを阻止しようとするフォルを非難する。彼女たちが危険な状況にあるかもしれないのに何故、じっとしていられるのか、つい2人を睨んでしまう。
「お前の気持ちは分かる。俺たちもすぐに探そうとしたが、それより先にこの報告書が届いたんだ」
フォルは服のポケットに入っていたメモを取り出して僕に突き出す。僕はメモを受け取り中身を読むと魔族領との境界地域の情報が記載されており、その中には境界付近でマヤとアオ、そして以前サイガが率いていた元前衛小隊の隊員たちが魔族領に入っていったと書かれていた。
「つまり、マヤとアオは2人だけじゃなく、元前衛小隊の隊員たちと共に行動しているということか……。だけど、それでもやはり危険だ。僕たちも早く魔族領に向い合流しよう!」
「……悪いが、こっちの報告書も呼んでくれ。その後、どうするか相談しよう」
僕の提案を聞くとフォルは暗い表情をして、もう1枚の報告書を手渡す。さきほどに輪にかけて嫌な予感しかしないが、急いで中身を確認する。
「っ! これはどういうことだい。すでに魔王の1人は討伐して、暫くの間、魔族領に新たな魔王は現れず不安定な治世が続くはずだ。なのに境界地域付近に魔族たちが集結して人族領への侵攻を計画している可能性があるって! 今まで一度も魔族側からの大規模な侵攻なんて無かったじゃないか!」
「……そうだ、それに噂だが、複数の魔王も集まり人族領の侵攻に参加するという情報もある」
……信じられない、一体、魔族領で何が起こっているんだ。僕たちが命を懸けて戦ってきたのは、世界の安寧の為じゃなかったのか。しかし、思惑とは逆に魔王の1人が討伐された事で何かが大きく狂い出し、世界の均衡が崩れようとしている気さえする……。
僕の考えが及ばない事態に呆然と立ち尽くしていると、ティアが心配そうに声をかける。
「アルス、どうするの? 正直、このまま3人で魔族領に向かっても何もできないと思うの。魔王1人に5人でなんとか勝つ私たちじゃ……。それに、もしかしたら今度は複数の魔王を相手にしないといけないかもしれないし……」
ティアの言う通り、このまま無策で魔族領に向かっても、何も出来ず逃げ帰ってくるだけだ。多分、2人は僕が行こうと言えば付いて来てくれるだろうが、あまりにも危険だ。かといって1人で乗り込んでも何もできずに殺されるのがおちだ。僕1人では魔王アメキリンに勝つことは不可能だったのだから……。
今以上の力が必要だ、1人でも魔王を倒せる力が……。僕は今までずっと考えていた事を2人に話す決心をすると、判断を委ねるために口を開く。
「2人とも聞いてほしい。再び魔族領に行くには、今以上に強くなる必要があると思うんだ。僕はその方法について、ずっと考えていた。そして、1つの可能性に辿り着いた。外法に外法を重ねた邪法と言ってもいい禁忌の手段だ。まずは2人に説明したい」
僕はサイガと魔王アメキリンの会話を思い出し、人間の領域を超える為の手段を思い付いた事と、その手段には大きな犠牲が伴う可能性がある事を説明した。
「――――と僕の【医療の神の加護】があれば可能だと思う。正直、人の道から外れた禁忌の施術だ。僕を軽蔑しても構わない」
僕の説明を聞いた2人は固まり、何も言えなくなる。正直、他の人間にこの施術を行うつもりはない。ただ、もしも僕がこの施術を行い命を落とした時、2人には何があったのか知っておいてほしかっただけだ。一応、念のために褒美として例の物を5つは頂いているが……。
よほど衝撃的な内容だったのだろう、いまだに固まっているティアたちを見つめて、話し出すのをじっと待つ。2人から激しく罵られ、これまで築いた友人としての関係が崩れるかもしれないが仕方ないと思う。それほどの邪法だと自覚している。
「アルス、本気なのか? サイガは仲間だが、そこまでする必要も責任も、お前には無い。なぜ、そこまでサイガに拘る?」
フォルが口を開くと、何故、サイガの為に命を懸けるのかと聞いてきた。
「さぁ、僕にも分からない。それに別にサイガの為だけじゃないんだ。僕は勇者だ。国から認められただけで何も特別な力は無いけど、それでも勇者なんだ。今回の魔王討伐も、結局はサイガのおかげで達成できただけだ。そして、最大の功労者であるサイガを救うこもできない……」
フォルの問い掛けに答えるつもりが、独白めいた話になっても、黙って聞いてくれる2人に感謝し、冷めたお茶に口を付けて喉を潤すと話を続ける。
「勇者なのに僕は何もできない、それが凄く悔しいんだ。……さっき、サイガの母親に会ってきたんだ、とても強い人だったよ。そして、教えてもらったんだ。アイツは遠征前から命を懸ける覚悟をしていたんだって。もちろん、僕もしていたはずなんだ……。けど、何もできなかった。結局、僕は命を捨てる覚悟はあっても、命を懸ける勇気は無かったと教えられたよ。何かを為すために誇りも信念も何もかも捨てる勇気は無かった。どこかカッコよく死ねたら良いとしか思っていなかったんだ……。だから、今度こそ勇者らしくアイツを助けたい。そして世界を救いたいんだ。僕の全てを懸けてでも……」
話が終わると部屋の中は静寂に包まれ、僕が最後まで黙って聞いてくれた2人をじっと見つめると、ティアが思い詰めた顔をして口を開く。
「……アルス、私も今より強くなりたい。そして、魔族領にあなたと一緒に行きたいの。私にも邪法をかけて……」
「ティア、何を言ってるんだ! お前はブランバイス王国公爵家の人間で将来は国を背負って立つ立場の人間だ。そんな命の危険があることをさせる訳にはいかない!」
ティアの言葉にフォルが激高して思い止まれと言うが、ティアは首を横に振り、僕の目を見つめる。
「アルス、私はあなたの事を愛してる。旅をする前から憧れていた。旅を続けて好きになった。そして、今は心の底からあなたを愛してる。あなたが死ぬなら、私も生きてる意味は無いの。だからお願い、私も一緒に魔族領に行かせて」
ティアの目に光るものが見え、僕の胸が苦しくなるのが分かる。だけど、彼女の告白になんて答えて良いのかは分からない。彼女の事は好きだ、だが、愛してるのか分からない。今までそんな目で見たことがなかったから……。
「ティア、気持ちは嬉しい。僕もティアが好きだ。けど、わからないんだ、この気持ちが愛なのかどうか。ごめん、答えになってないけど、これが今の正直な気持ちだ……」
「フフフ、アルスらしいわ。けど、答えは簡単よ。これから探せば良いだけよ。この世に見つからない答えなんて無いんだから。だから、お願い、私も魔族領に連れて行って!」
ティアの気持ちを受け止め、真剣に考えても答えを出せない情けない僕に、ティアは懸命に笑顔を作って、一緒に答えを見つけようと励ます。そして、そんな彼女を見たフォルは、何かを悟ったかのような表情をして僕に彼女の事を頼むと言う。
「……アルス、悪いがこの我がまま公爵令嬢を連れて行ってやってくれ。あと例の邪法についても頼む。ただ、絶対に無理はするな、もし危険だと思ったらすぐに止めろ。強くなる方法なんて、きっと他にもある」
「もちろん、死ぬつもりはないよ。それにまず行うのは僕だ。そして、確実に安全だと分かったら、ティアにも行うことにする、決して死なせたりなんかしない」
フォルが僕を見つめて肩に手をおいて絶対に無理はするなと念を押す。そして、ティアの方を向いて溜息をつくと、自分が祖国に帰り適当な理由をつけて時間を稼ぐから、その間にさっさと魔族領に行けと言った。
「アルス、ティア、俺はまた別の方法でサイガを探そうと思う。そして、強くなる方法についてもだ。だから、お前たちも、危険があればすぐに人族領に戻れ」
「ありがとう、フォル。僕たちもきっとサイガを見つけ出し、マヤ、アオと一緒に戻ってくるよ」
僕が拳を突き出すと、フォルも笑って拳を合わせてる。そして、僕たちの拳の上にティアが手を添えて3人で笑った。
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「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けるとありがたいです。
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