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091 リンの生還

ようやく、一区切りつきました。

今まで拙い文章を我慢強く読んで頂きありがとうございます。

これからは少しペースダウンしますが、これからも読んで頂ければ嬉しいです。


『サイガ、いつまで寝てるの? もう朝よ、遅刻するわよ』


リンが『オカン』のような言い方をして起こしてくる。遅刻って一体何に遅刻するというのだろうか。あまり無視しても五月蠅そうなので、多少まだ眠いが起きることにする。


「遅刻も何も魔王選定の儀は終わって、今日の予定は何もないはずだが……」

『何言ってるの、急いでララの所に戻って、魔皇になったことを報告しないといけないでしょ。それに私を元に戻す方法も見つかったんだから、早く元に戻してよ』


まぁ、確かにララには色々と報告しなきゃいけないし、魔神を探すための相談にも乗ってもらいたい。正直、リンよりララの方が頼りになる。


リンが半目で睨んでいるが、俺は無視して支度を整えるとテントを出る。不帰の森の入口に設置された野営地も殆ど片付けられて大会本部の大きなテントがあるだけとなっていた。カイに挨拶するために本部へ向かうと、既に魔神トガシゼンの元に戻るため野営地を出たと試験官が教えてくれた。


確かに魔神の元へ戻るカイの後を追えば、すぐに居場所も特定できる。少なくとも向かう方向だけでも分かれば、ある程度場所を絞り込むこともできるかもしれない。もちろん、そんな卑怯な真似をするつもりはないが……。


とりあえず、1ヶ月後に出される御布礼(おふれ)に備えて色々と準備をしないといけない。まずはララが治める主都フーオンまで戻り、魔皇になった事とリンを戻す方法が見つかった事を報告する必要がある。


俺は試験官にすぐに野営地を出ることを伝えると、厳重に保管された箱を渡される。中身を確認すると紫色の死免蘇花が入っていた。褒美はもう貰っているはずで、貴重な魔草を貰う理由が分からず聞いてみる。


「これはどういう意味だ? 既に褒美も支度金も昨日、カイから受け取っているが……」

「これは昨日の決勝で使われた死免蘇花の代わりだそうです。カイ様から渡すように言われています」


なるほど、カミニシとの戦いで使った死免蘇花を補填してくれるということか。カイの気前の良さに感謝しつつ、有難く紫の死免蘇花を受け取る。他の魔王候補者たちは既に野営地を出たらしく俺たちが最後らしい。


カイへの感謝の言葉を試験官に伝えて本部のテントから出ると、俺が泊まっていたテントも片付けられていた。俺たちが野営地を出ると以前、王都ジュウカンで会ったララが手配した文官が待っていた。


「おめでとうございます、魔皇サイガ様。ララ様がお待ちですので、フーオンまでご同行お願いします」


地面に膝を付き臣下の礼をして迎える文官を無理やり立たせると、馬車まで案内してもらう。そんなに偉くなったつもりはないので、これまで通り接するように釘も刺しておいた。


野営地から少し離れていた場所に馬車が停めてあった。俺が馬車に荷物を乗せようとすると御者と馬の魔獣が平伏しようとしたので止めさせると急いで馬車に乗り込む。文官も同席してもらい、フーオンにいる住民やララの配下には、これまで通り接してほしいとお願いした。


――――――――


なんとか陽が沈む前にフーオンに着くことができた。かなりの速度で進む馬車だったので文官に何か呪術でも使っているのかと尋ねたら、ただ馬が優秀なだけだそうだ。実は凄い名馬で本当は馬車など引かせるのは失礼になるのだが、魔皇が乗る馬車ならばと快諾してくれたそうだ。俺はそんな偉くないので本当に勘弁してほしい。


俺が外の景色を眺めていると、フーオンを訪れた時に最初に丁寧に対応してくれた門番が深々と頭を下げて迎えてくれるのが見えた。町の人達も似たような態度だったら嫌だなと思っていたが、そんなことはなく皆は普通に町を行き交っていた。


ララの屋敷に着くと扉の前にはノーベさんや召使いの女性たちが並んでいた。俺は馬車から降りて荷物を背負いノーベさんに挨拶する。


「ただいま、ノーベさん。おかげで何とか魔王、いや魔皇になることができた。本当に感謝している」

「おめでとうございます、魔皇サイガ様。どうぞ、中でララ様がお待ちです」


さすがはノーベさんだ。以前と変わらない接し方をしてくれて安心する。多少疲れはあるが俺はララが待っている部屋への案内をお願いした。



今朝早くサイガが魔皇になったとの報せが入った。魔王選定の儀の会場に派遣した文官の1人が早馬で報せてくれたのだ。まさか魔王を通り越して魔皇になるとは思わなかった。魔皇なんて私も伝説でしか聞いたことがない称号だ。確か今の魔神トガシゼン様が、過去に1度だけなった事があると噂で聞いた事があるくらいだ。


とりあえず、これで姉さんの呪術を完成させるための手掛かりを探す準備はできた。ついでにサイガも人間に戻れる方法を探すことができるが、姉さんを戻すことが先決だ。まずはオテギネさんに相談した方がいいかもしれない。


私がこれからの事を色々と考えていると扉を叩く音がした。サイガたちが帰ってきたのだろうか。私が入室の許可を出すと、ノーベに促されてサイガと姉さんが入ってきた。


私が座るように勧めると、サイガは頷き目の前のソファに座る。その隣には宙に浮いてる姉さんがいる。サイガが魔王選定の儀に挑んでから、まだ数日しか経っていないはずだが、体内にある魔素が途轍もない事になっている。思わず隣にいる姉さんを見ると、私が言いたい事が分かったのか両手を上げて肩を竦める。


信じられないサイガの成長に驚き唖然としている私を無視して、姉さんが魔皇になった経緯と元に戻る方法について話し始めた。


『――――という訳で魔王を2人も倒したサイガを魔神トガシゼン様が気に入り、挑戦する権利と褒美として黒の死免蘇花をくれたの。ちなみに支度金は破格の魔金貨20枚よ』


サイガの成長に驚いている私に姉さんが追い打ちをかけて混乱させる。まさに伝説のオンパレードだ。魔皇という幻の称号に続き、いまだ発見されていないはずの黒の死免蘇花まで出てきた。さらに支度金として魔金貨20枚とは信じられない。


「驚いているところ、すまないが魔金貨20枚とはそんなに凄いことなのか?」

『やっぱり、知らないと思った。人族の貨幣価値については知らないけど、魔族の価値でいうなら魔金貨1枚が10万キラよ、金貨なら100枚ね』

「つまり、200万キラの支度金を貰ったことになるわ。姉さんの時は確か魔銀貨5枚で5万キラだったから、40倍の金額になるわ」

「そうなのか、すごい金額なんだな。少し渡した方がいいか?」


いまだにどんなに凄い金額か分かっていないサイガを見ていると、混乱している自分がバカバカしく思えてきて逆に冷静になり、まずは姉さんを元に戻す方法について改めて確認することにする。


「つまり呪術:死免蘇花―黒―を発動することが出来れば、姉さんは元通り戻ることができるということね。そして、サイガの魔素を以てしても難しい。そういうことでいいのよね、姉さん?」

『そうよ、サイガが呪術:死免蘇花―紫―を使用した時より更に多くの魔素が必要になると思うわ。サイガ自身はあの時よりも魔素の保有量は増えているようだけど、それでもギリギリ足りないと思うわ』


なるほど、魔素が足りないだけなら意外と簡単に解決するかもしれない。私の考えをサイガたちに説明する。


「姉さん、もしサイガの魔素に私の魔素を足したら呪術:死免蘇花―黒―は発動できると思う?」

『…………。なるほどね、盲点だったわ。さすがララね、確かにあなたの魔素を足せば呪術:死免蘇花―黒―は発動するわ。もともと魔素を譲渡するだけで発動する死免蘇花なんだもの、問題ないわ』

「やっぱり、間違ってなかった。それに私と姉さんの魔名と真名を知っているサイガとは僅かだけど魂で繋がっているから譲渡もしやすい」


私たちが勝手に話を進めている横で、サイガは理解が追いつかずノーベにお茶のお代わりを頼んでいた。



ノーベさんが淹れたお茶を飲みながらリンとララの会話を聞いている。とにかくララの魔素を足すことで呪術:死免蘇花―黒―は発動できるらしい。そうと分かればリンには早く元に戻ってもらって【知識の神の加護】を返してもらいたい。


「なるほど、とにかく呪術:死免蘇花―黒―は発動できるわけだ。早速、発動してリンを元に戻すか?」


俺の言葉にリンとララがにっこりと笑って手招きをする。俺はソファから立ち上がりララの元へ向かうと後ろ向きにされ、ララがノーベさんに何か指示を出しているのが背後から聞こえてくる。いったい何で後ろを向かされているのか聞こうと思った瞬間、急に眼の前が真っ暗になる。まさか、また額の外殻がズレたのか。


「サイガ、今から呪術:死免蘇花―黒―を発動するから、準備はいい?」

「ん? 準備はいいが、なぜ目の前が真っ暗なんだ?」

『馬鹿ね、死免蘇花で元に戻った私の恰好ってどうなってると思う。多分、裸よ』

「あぁ、なるほど、理解した。ということは、これは目隠しということか」

「正解よ、今、ノーベに黒の死免蘇花の準備をお願いしたわ。サイガは私が言うところに手を(かざ)して」


しばらくすると、俺の手を誰かが握り誘導する。多分、黒の死免蘇花の上に手を置かれたのだろう。呪術を発動しようか迷っていると誰かが俺の背中に手を当てる。僅かだが、何か暖かなものが背中から入り込んでくる。


「サイガ、今から呪術:死免蘇花―黒―を発動して、同時に私もあなたに魔素を渡すから」

「分かった、それじゃ発動するぞ!」


ララの合図で俺は手の平から体内にある全ての魔素を放出して死免蘇花―黒―に譲渡する。どんどんと魔素が吸い取られていくのが分かるが、まだまだ発動する気配はない。もう残り僅かしかないと思ったその時、背中から新たな魔素が流れ込んでくる。


ララの魔素も俺を通して全て放出する。もう本当に体内にある魔素全てが無くなってしまう……と思った瞬間、急に死免蘇花から物凄い量の魔素が溢れ出す。溢れ出した魔素は次第と人の形を(かたど)っていくのが分かる……。


俺は全ての魔素を放出すると意識がなくなり、その場でぶっ倒れた。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。また、何か感想を頂けると嬉しいです。

<(_ _)>


「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けるとありがたいです。

<(_ _)>

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