009 暴走に愕然
話が短ったため、2話連続で投稿しました <(_ _)>
――まずは蹴りの練習に適した木を探そうと、林の中を歩き始めた。しばらく進むうちに、目の前に立ちはだかるような大木を見つける。俺の胴回りの五倍はあろうかという、太く立派な幹だ。試しに拳で叩いてみると、コンコンと、芯の詰まった心地よい音が返ってきた。
この木なら、俺の蹴りにも耐えてくれるはずだ。ゆっくりと腰を落とし、右足を大きく後ろへ引く。正面にそびえる巨木を睨みつけ、深く呼吸を整えた。
そして、左足へと重心を移すのと同時に、右膝を抱え込むように引き、腰を鋭く回す。一気に加速した体勢から、遠心力を乗せた右足が、全力で幹へと叩き込まれた――。
ドォンッ! ザ、ザ、ザザー、ドドーン!
爆音が林に響き渡る――。
直後、地崩れのような轟音とともに、巨木が根元から折れ、周囲の木々を巻き込みながら激しく倒れていった。
……マジかよ。あり得ないだろ、これ。
自分の何十倍もある大木を、蹴り一発で倒すなんて。
普通なら、蹴った反動でこっちの足が無事じゃ済まないはずだろ……。
念のため、自分の体をざっと確認してみる。すると、蹴りを放った右足――甲から脛にかけて、赤黒く金属のような光沢が浮かんでいた。……まるで硬質化しているかのようだ。
続いて軸足を見れば、五本の指と踵から鉤爪のようなものが生え、まるで、その場に固定するように地面をしっかりと掴んでいた。
だが、それ以外に怪我も骨折も見当たらない。――まったくの無傷だ。
……これはヤバい。
完全に、人間の限界を超えてる。
これが単なる身体機能の進化なのか、それとも何か特別な能力なのかはわからない。だが――攻撃に最適な形へと、無意識のうちに体を変化させていたなんて……凄すぎる!
抑えきれない興奮が爆発し、俺は夢中で思いつく限りの打撃技を繰り出した。まずは基本の正拳突き。続いて肘打ち、手刀、裏拳――さらに貫き手、掌打……。どの技も信じられないほどの威力で、目の前の巨木を次々と粉砕していく。
「フハハハハハ! すごい! まるで紙屑のようだ!」
思わず、物語に出てくる悪役みたいなセリフが口から出てしまう。どの技も、想像をはるかに超えている。攻撃するたびに、手足が勝手に変化し、強化されていく――その感覚がたまらなく楽しい。……楽しすぎる!
抜き手を突けば、爪と指が鋭く硬質化し、裏拳を振るえば、皮膚が分厚く盛り上がり、まるで手甲のように変化する。蹴り技も強烈だったが、殴打技の破壊力もまるで桁違いだ。
……まだだ。まだまだ試したい技が山ほどある。
まず、腰の回転に合わせて拳を横薙ぎに振るい、続けざまに回転しながら裏拳を叩き込むと、その勢いを乗せて、さらに後ろ回し蹴りを放ち、目の前の巨木をなぎ倒す。
続けて、倒れた木を前蹴りで宙に浮かせ、空中で手刀を叩き込んで地面へと叩き落とす。跳ね返ってきた木を肘打ちで迎え撃つと、粉々に砕け散る。
さらに、別の倒木を下段蹴りですくい上げ、続けざまに踵落としで地面へと叩きつける。地面にめり込んだ巨木を、全力で踏み抜いて粉砕。
そして――横打、掌底、正拳、手刀、抜き手、肘打ち……。怒涛の連打を休む間もなく叩き込み、最後には辺り一面にあった巨木を木っ端微塵にしていた。
……俺の飽くなき探求心が、体力の限界をも超えて、次々と技を繰り出させていたのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ふぅ、結構動いたな。すごい汗だ」
全てを出し切ったような、どこか爽やかな笑顔を浮かべながら、額の汗をぬぐう。荒い呼吸を整え、あたりを見渡した俺は――思わず、言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。