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085 カミニシと対戦(1)

俺はカイが居なくなると、テントに戻り決勝に向けての仕込みを行う。確かオテギネさんから貰った荷物も持ってきたはずだ。背嚢の中をごそごそ探していると例の物を見つけ、念のために2つとも取り出して準備を進める。


俺が決勝に向けてテントの中で色々と準備をしていると試験官から声がかかる。


「サイガ様、決勝の準備が整いました。カイ様がお呼びです」


俺はテントから出て、試験官と一緒に決闘場で待っているカイの元へ向かうと、既に決闘場の前にはカミニシとカイが並んで待っていた。俺は軽く頭を下げ2人に謝罪し話しかけた。


「待たせてしまったな、すまない。準備が整ったと聞いたが、今から決勝か?」

「はい、始めさせて頂きたいと思います。さきほど、カミニシ様からは始めても問題ないと確認が取れました。サイガ様もよろしいでしょうか?」

「あぁ、問題ない。始めてくれ」


俺は頷き2人を見ると、カイは深々と頭を下げ、カミニシは冷たい視線を送り軽く頷く。


「分かりました。それではお2人とも決闘場にお上がりください」


カイが決勝を開始すると告げると、カミニシと俺は決闘場に上がり対峙した。



いよいよ決勝が始まる。これで念願の人族領への侵攻に一歩近づく。人族に姉さんを殺されてから、もう7年が経つが、ついに復讐することができる。準備は着々と進み、既に多くの人族に恨みを持つ魔族がこのジュウカンに集結しつつある……あとは俺がここの魔王になるだけだ。


人族への復讐心を燃やしながら俺は目の前に立つサイガを見る。魔人では珍しい黒髪で、全身は隈なく鍛えられている。また、魔素感知が苦手な俺でも分かるほど膨大な魔素を保有している……俺やクズノセを上回るほどだ。まだ、十代後半ぐらいだと思うが、末恐ろしい男だ。


後は何の拘りか分からないが、手甲などの防具を直接、体の上から身に付け、その上から服を着ている。普通は服の上から付けると思うが、防具を付けていることを隠したいのだろうか……その割には隠す気配もなく、訳がわからん。


まぁ、これから殺す男にあまり関心を持っても仕方がない。それにもうそろそろ戦いが始まる。さっさとジュウカンの魔王となり自領であるワントンに戻らないと、配下の者たちが過労死してしまうかもしれない。


「サイガ様、カミニシ様、いよいよ決勝です。準備はよろしいでしょうか?」


俺が配下の者に心の中で謝罪をしていると、カイが声をかけてきた。サイガが頷くのを確認し俺も頷き、最後にカイも俺たちを見て頷くと試合開始を宣言する。


「それでは、魔王選定の儀、決勝を始めます!」


カイが決勝の始まりを告げると、すぐに俺は細剣を抜き斬りかかる。サイガは少し上体を反らして最小限の動きで躱し、俺が攻撃を見切られた事に少し驚き、サイガを注視すると、サイガは目の焦点が合ってないのか、こちらをぼんやりと見ていた。


何か特別な技術だろうか、見たことがない。まぁ、様子見の初撃を躱されただけだが……。あまりに相手の様子を気にしても仕方がない。俺は振り抜いた細剣を戻すと、連続で刺突を繰り出した。



カミニシが突き出す細剣を最小限の動きで躱し続けていると、急に細剣が蛇のように曲がり、俺の頬を切り裂く。今までの直線的だった軌道の中に曲線的な軌道が混ざり、次第に躱すのが難しくなり、身体中に小さな切り傷が増えていく。


堪らず俺は浮観(ふかん)を解いて、カミニシの動きを注視すると、カミニシは腕が伸び切る前に手首を返し、細剣をしならせ軌道を変えていることが分かる。俺はカミニシの絶技に舌を巻きながら、一旦距離を取るため大きく後ろに飛んだ。


「呪術:瞬風帯刀 (シュンプウタイトウ)」


カミニシは俺が後ろに飛ぶと同時に呪術を発動した。俺はすぐに魔素感知をして飛んでくる斬撃の軌道を見極めると、空中で両手両足を前に出して頭を引っ込め、亀のように丸まる。


ガキンッ!


カミニシの斬撃と俺の外殻がぶつかり、激しい衝突音が会場に響く。踏ん張りが利かない空中で受けた俺は体勢を崩しながらも着地すると、そのまま転がり決闘場の端まで逃げる。


かなり距離を空けたおかけで、カミニシの呪術を避けやすくなったが、遠距離からの攻撃手段を持っていない俺は、ここにいても避ける以外に何も出来ない。周りを見ても特に攻撃に使えそうな物はなく、地面には石畳が敷いてあるだけだ。


俺は例の仕込みをする為に決勝前に試験官に尋ねたことを思い出す。魔王選定の儀では1対1で戦う以外は何をしても良く、決闘場から出て戦っていいし、どんな武器を使ってもいい。何でもありの呪術がある戦いで、あまり縛りを設けても意味がないらしい。


俺は拳を振り上げて思い切り地面を殴り、石畳を砕き粉々にすると、適当な大きさの石くれを掴み、カミニシに向かって投げつけた。



サイガは呪術を受けて決闘場の隅まで逃げると、石畳を砕き瓦礫を作って投げつけてきた。つまらない小細工に溜息をつきそうになるのを我慢して、俺は飛んでくる瓦礫を避けると、立て続けに大小様々な瓦礫が飛んでくる。俺は避けるのも面倒臭くなり、細剣の鞘で全て打ち落とす。


いつまでも下らない遊びに付き合っている暇はないと、俺が呪術を発動しようとしたと同時に、目の前に大きな石板が飛んできた。俺は細剣の鞘で打ち落とすことは無理だと判断し、落ちてくる石板を横に跳んで避けると、石板の影からサイガが現れた。


サイガは俺が着地するより早く詰め寄ると、胴体を目掛けて左拳を突き上げる。俺が無理やり拳とみぞおちの間に鞘をねじ込ませて直撃を避けると、ガンと重い音がして、サイガの拳が俺の鞘ごと、みぞおちにめり込む。


みぞおちからの突き刺すような痛みのせいで俺の動きが止まると、その隙を突いてサイガが俺の顎を目掛けて前蹴りを放つ。迫り来る蹴りを躱せないと思った俺は、とっさに魔素で首から顎にかけて強化する。


速さを重視したのか、サイガの蹴りは思いのほか弱く、上顎を軽く跳ね上げる程度だったため、思わず気を抜くと、次の瞬間、頭上から物凄い衝撃がきて、俺は目の前が真っ白になった。

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「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けると嬉しいです

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