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084 リンとの会話

『終わってみれば、圧倒的だったわね。それに最後に使った呪術……あんなの使われたらどうにも出来ないわ』

「そうだな、不思議な呪術だ。あんな不自然な体勢でアサリリを止めて、そのまま動きを封じるなんてな。まさに時間が停止したかのように固まり動かなくなった」


カイから勝利を告げられると、カミニシは会場に倒れ動かなくなったアサリリを見ることもなく決闘場から下りる。


『なんか感じ悪くないアイツ、私は嫌い。サイガ、命令よ。アイツには絶対に負けちゃダメよ』

「命令も何もアイツに勝たなきゃ魔王になれないだろ。まぁ、リンの言いたい事も分かる。戦った相手に対してあの態度は気に入らないな」


決闘場を後にするカミニシをリンが嫌悪感を隠さずに睨みつける。たしか魔族同士の決闘では負けた相手に敬意を払い何か譲り受ける習わしがあると聞いたが、カミニシにとってアサリリはそうでは無かったということか。それとも、そもそも誰に対しても敬意を払う心を持っていないのか……。


俺もカミニシに対して少し嫌な感情を持ちそうになり、すぐに自分を戒める。その横で誰にも聞こえない事を良い事にリンが両手を前に出して『爆ぜろ』『メテ○』『ミ○デイン』などなどと別世界の呪文をカミニシに向けて唱えていた。



さすがは現役の魔王だと感心する。アサリリ様を相手に圧勝するとは、まさに圧巻でした。


私は決闘場を後にするカミニシ様の背中を眺めながら先程の戦いを思い返す。とりあえず、これで魔王を決める舞台は整った。このジュウカン領を統治する魔族に相応しいのはどちらか……これで決まる。


カミニシ様たちの思惑は分かっている。魔族領で唯一、人族領と接しているジュウカン領を統治して、人族に強い敵対心を持つ魔族を領内に集め侵攻するつもりだろう。


人族と交流は持たないが、敵対するつもりもないというのが大抵の魔族の考えだ。我が主も人族に何も興味はない。だが、人族に身内や友人を殺された一部の魔族は人族に対して強い憎しみを持っている。


人族領に攻め込んではいけないという(おきて)もなければ、約束もない。人族領に侵攻するのも自由だ。だから、我が主もカミニシ様たち魔王の参加を認めたのだろう。もしくはサイガ様なら阻止できると思っているのか……。


どちらにしろ、もうすぐ答えは出ます。魔族の歴史上初の2つの王領を治める魔王が誕生するのか、それとも元人間の変わった魔王が誕生するのか……。どちらに転んでも、面白いことになりそうです。



まだ別世界の呪文を唱え続けるリンを無視して、カイの元へ向かう。


「仕事中にすまない、カイ。決勝はいつ行うんだろうか?」

「あぁ、サイガ様、別に構いませんよ。こちらもちょうど、サイガ様に聞きに行こうと思っていたところです」


試験官に指示を出すのを止めると、カイは俺の方を振り向き胸に手を当て軽く頭を下げる。


「本来なら明日行う予定でしたが、カミニシ様から本日行っても問題ないと申し出がありました。サイガ様は大丈夫でしょうか?」

「そうなのか? 俺は問題ないが、カミニシは多少なりとも戦い傷を負っていると思うが、アイツこそ大丈夫なのか?」


不戦勝だった俺とは違い、圧勝だったとはいえカミニシは戦っている。呪術も使い魔素は消費しているはずだ。こちらに有利過ぎて警戒してしまう。


カイは苦笑すると、カミニシは死免蘇花で傷は回復して、もう1戦しても問題ないらしい。それどころか、なるべく早く魔王になって自分の領地に戻りたいから、多少、魔素が減ってでも戦いたいらしい。


「なんで自分の領に戻りたいかは知らんが、魔王になったらジュウカンから出れないんじゃないのか?」

「確かに(ぬし)(おさ)は余程の事がない限り自領を出ることはできませんが、魔王にはそのような制限はありません」


……ということは、魔王になっても他の王領を自由に行き来できるということか。だったら、諦めていた魔族領を自由気ままに旅することもできるかもしれない。魔王になった暁には、ララやオテギネさんにジュウカンを任せて、俺は人間に戻る方法を探すとか適当な理由をつけて旅に出よう……。


『いいわね、それ! 私もまだ他の王領に行ったことないから、楽しみだわ。確か別世界の言葉で「ハネムーン」って言うらしいわよ』


……。しまった、こいつが居ることを忘れていた。まさか妹のララに仕事を押し付けて、自分は俺に付いて来るつもりなのか、信じられない奴だ。まさに別世界で有名な悪女『尾根(おね)富士子(ふじこ)』だ。


『アンタ、バカなの。仕事を押し付けるのはアンタでしょ、私じゃないわ。それに悪女の名前、微妙に間違ってるわよ』


くそ、【知識の神の加護】を奪われてから、別世界の言葉にキレがなくなっている。早くリンを完全復活させて加護を取り戻さないと、とんでもないことが起こるぞ。


『何も起こらないから安心していいわよ。それよりカイさんがジッとこちらを見てるけど良いの』


カイの方を振り向くと、なんだか近所の可哀そうな子供を見るような目をしている……『ソギャン、ニゲンデモヨカタイ』。


「あー、すまない。少し考え事をしていた。少し待たせてしまったか?」

「いいえ、大丈夫です。サイガ様が何か1人でブツブツと話すことがあることは存じておりますので……」


そうなのか? あんまり気にしてなかったけど、周りからのあの話しかけちゃダメよ的な視線は、リンとの会話のせいだったのか。


とりあえず、カイをいつまでも待たせる訳にはいかないので急いで結論を伝えよう。大して相談らしい相談はしていないが……。


「わかった、カミニシの要望に応える。今日、決勝を行っても良いと伝えてくれ」

「ありがとうございます、サイガ様。それではカミニシ様に伝えてさせていただきます」


カイは胸に手を当て頭を下げると試験官に指示を出し、自分はカミニシに伝えると言って、この場を後にした。

お読み頂き、ありがとうございます。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けると嬉しいです

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