082 クズノセの棄権
段々と同時投稿が辛くなってきました。
魔王選定の儀が終了したら、隔日投稿に変更するかもしれません。
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決闘場に着くと試験官が今までの戦いで付着した血や体液を洗い流し、その傍らには6本の足を全て切り落とされた鍬刀の遺体が置かれたままだった。あまりにも巨大で重たい体をすぐに移動する事ができなかったようだ。
決闘場の清掃が終わるまでクズノセとどう戦うべきか考えながら待つと、試験官が声をかけ準決勝の準備が出来た事を伝える。
「サイガ様、お待たせして申し訳ありません。清掃が終わりましたので、準決勝第1戦を始めさせて頂きます」
試験官に決闘場に上がるように促されて、俺は頷くと階段を登り中央まで歩く。既にカイは上がっていたが、クズノセはまだのようだ。
カイと2人でクズノセを待つが一向に来る気配がない。かなり時間が過ぎており、冷静沈着なカイの表情にも焦りの色が見え始める。俺は段々とジッと待つのが辛くなり、屈伸をしたり腰を回したりして準備運動をしていると試験官が決闘場に上がってきた。
試験官はカイの元に駆け寄ると、俺に聞こえないように耳打ちをする。カイは試験官から伝えられた内容に驚きの表情をしてチラリと俺を見る。しばらく、俯き顎に手を当て考え込むと、俺に言葉をかけた。
「サイガ様、大変申し訳ありません。クズノセ様が棄権したいとのことです。お受けすることは可能でしょうか?」
カイの言葉に理解が追いつかず固まってしまう。カーズとの試合を思い返すが、大した怪我もせずすぐに決着は着き、体調は万全なはずだ。棄権する理由が分からない。正直、何か企んでいるとしか思えないが、この次は決勝だ。何かしようにも時間も機会も少な過ぎる。
「……受けることに問題ないが、1つ条件がある。クズノセと話すことは可能か?」
正直、いくら考えても分からない……本心を話すとも思えないが、クズノセと会話する事で何か分かるかもしれない。棄権を受けるにしても、何か納得するものが無いと難しい。俺がクズノセとの会話を要望すると、カイは少し困った顔をして首を横に振った。
「すいません、サイガ様。クズノセ様は既に野営地を出ました。試験官もなんとか引き留めようとしましたが、無理だったとのことです」
……カイの言葉に何も言えなくなる。正直、なら何で棄権を受けるかと聞いたんだろう。戦う相手がいなければ戦うもクソもないじゃないか。別世界の言葉で『マジウケる』と言ったか……。
俺はつい下らない事を考えてしまうが、とにかく確認すべきことをカイに聞く。
「わかった、いないのなら仕方ない。確認するが、棄権を受けることで魔王選定の儀で俺が不利になることはないか」
「はい、ございません。私の名に懸けて誓わせて頂きます」
不戦勝による不利な条件がないなら、特に受けない理由はない。決勝の相手には悪いが、しっかりと休ませてもらおう。恨むならクズノセを恨めば良い。
「わかった、クズノセの棄権を受ける」
「ありがとうございます。準決勝第1戦、勝者はサイガ様です」
俺はカイから勝利を告げられ頷くとさっさと決闘場を後にした。
◆
「いや~、サイガには悪いことをしたかな。良かれと思って棄権してあげたのに、逆に混乱させてしまった」
僕は不帰の森の木の上から決闘場で困惑するサイガを見て、苦笑いを浮かべる。隣では傷が回復したシノジさんが不機嫌そうにこちらを見ている。
(シノジさんは納得してないようだけど、サイガには魔王になってもらわないと困るんだよね。と言っても正直、僕が棄権してもカミニシに勝てるかは五分五分かな)
シノジの非難するような視線に肩を竦めて受け流す。僕たちも、そろそろ自分の領地に戻らないと、不味いことになることを彼女は分かっていない。特に彼女の領地は優秀な配下がいるが、幼い彼女に代わって母親が取り仕切っている。
魔王選定の儀も受けていない者から、偉そうに命令されることを良しとする魔族は少ない。シノジさんの配下たちも同じで、かなり不満が溜まっているという報告が密偵から上がっているが、親切に教えるつもりはない。
「さて、僕はそろそろ自分の領地に戻ろうかな。シノジさんはどうするの?」
「最後まで見ていきたいが、領地の方が心配だ。あの女に任せていたら、領民たちがいつ反乱するか分からない」
……予想が外れて少し残念だ。彼女の事だから、自分に勝ったサイガがカミニシを相手にどう戦うか気になって残るかと思った。まぁ、彼女も魔王選定の儀で選ばれた魔王だ、馬鹿なはずはないか……。
「そうだね、お互いに責任ある立場になると辛いね。魔王になる前の自由だった頃が懐かしいよ。それじゃ僕も領地が心配だから帰るよ」
「…………あぁ、わかった。私も帰る」
僕たちは軽く言葉を交わすと木から飛び降り、互いの領地がある方へ歩き出した。
◆
『いったい、何があったの? 戦ってもいないのにサイガの勝利って……』
決闘場から下りてリンのところに戻るなり質問される。
「あぁ、クズノセが棄権して、そのまま俺の勝ちとなった。ヤツは棄権すると伝えると、さっさと何処かに行ってしまったらしい」
俺は肩を竦めて、おどけるように言うとリンは黙り込んでしまった。俺もそうだが、何か思うところがあるのだろう。明らかに何か裏がある。だが、確かめようにも当の本人は、既に野営地から出て行ってしまった。
もともと頭を使うのは苦手で、考えに考えて辿り着いた答えが全然違うことなんて事はざらにある。役割分担は大事だ。クズノセの思惑についてはリンに任せ、次の試合に意識を集中し決闘場に目を向けると、中央で対峙し睨み合うカミニシとアサリリがいた。
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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けると嬉しいです
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