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081 強敵が続々

俺が治療を受けているとカーズを倒したクズノセと目が合った。軽く笑いかけるクズノセを見て背中に冷たい汗が流れる……クズノセは最後に呪術を使ったが、あの場面で使う必要は無かったはずだ。ほとんど意識がなかったカーズに普通の回し蹴りを当てれば決着はついた。


『クズノセが使った呪術って、本当は離れた相手に使うものだと思うわ。あんな至近距離で使う呪術じゃないはずよ。なんで、わざわざ呪術を使ったのかしら?』

「さあな、分からん。ただ、カーズは呪術で岩みたいに体を硬くしたように見えた。もしかしたら、カーズの呪術を警戒したのかもな。意識が朦朧としている状態で呪術が使えるとは思えないがな」


弱肉強食、適者生存に下剋上は魔族の世の常だったか……。まぁ、何をしようが勝ちは勝ちだ。色々と考えても仕方がない。それに次の対戦相手が決まった。あまり戦いたくなかったが、クズノセになった。


『サイガ、残りの戦いは見なくていいわ、私が見とくから。アンタはクズノセとの戦いに備えて少しでも休んで。大丈夫、ちゃんと朝になったら起こしてあげるから。知ってるでしょ、私は起こすのは得意よ』

「……そうだな、腹も減ったし今日は休むか。テントに戻ってるんで、後はよろしく頼む」


第3、4戦については後からリンに教えてもらうことにして、俺は割り当てられたテントに戻った。



テントに戻るサイガを見送りながら、シノジとの戦いを思い返す。シノジという少女……あの年齢であれほどの呪術と武術を身に着けているとは、既に魔王並の実力を持っていた。これから更に成長するかもしれないと思うと末恐ろしい。


だが、それよりも驚かされたのはサイガだ。まさか戦いの最中に新たな呪術を習得するとは思わなかった。呪術とは使い続けることで少しずつ理解を深めていき、新たな呪術を習得するものだ。魔素を感知できるからといって、一朝一夕で身に着くものではない。


サイガも第2段階の呪術を習得後は魔王選定の儀まで、ただ只管(ひたすら)に使い続けてはいたが、それでも早すぎる。そして、あまりにも都合が良すぎる。あの状況を打破するために習得したとしか思えない……。


確か第1段階の呪術:二進外法(ニッシンゲッポウ)といったか。まさしく2倍の速さで進化する外法で、何でもありの呪術の中でも異端中の異端。自動発動型の呪術だと思っていたが、私は間違っていたかもしれない。自動発動型ではなく常時発動型の呪術……それが本当の呪術:二進外法の能力なのかもしれない。


私はテントに向かうサイガを見送りながら、薄ら寒いものを感じた。



テントに入るとすぐに携帯食を取り出して口の中に放り込むと、咀嚼もそこそこに水筒を口に付けて一気に胃の中へ流し込んだ。体中にあった打撲や裂傷は、試験官と死免蘇花のおかげで無くなったが、砂埃や血は体に付いたままだ。だが、体力の限界に近かった俺は、床が汚れるのも構わず横になる。


「運が良かった……。あの時、呪術を習得しなければ負けていた……」


俺は天井を見ながら一人ごちる。今思い返しても、なぜ勝てたか分からないほどの戦いだった。魔王選定の儀までの修行で得た全てのものを出しても届かず、最後の最後で習得することができた呪術があったからこそ勝てた。


「あと2回か……。あと2回勝てば、俺も魔王か……」


リンとの約束を守るため、そして、人間に戻るために俺は魔王になると決めた。かつて討伐した魔王になろうとしている自分の人生が皮肉めいて笑える。


人間に戻るために魔王になることが正しいのか、間違っているのか分からないし、近道か遠回りかも知らない。ただ、決めたのなら進むしかない。


天井を見つめながら、俺は改めて魔王になると決意した。


――――――――――


『サイガ、起きて! もう朝よ!』


色々と考え事をしていたら、知らないうちに寝てしまったようだ。リンの声で目を覚ますと、すぐに起き上がりテントを出る。


「リン、助かった。試合はもうすぐか?」

『ううん、まだよ。今は昨日の戦いで汚れた決闘場を清掃しているわ』


俺は決闘場に戻りながら、昨日、行われた戦いの内容を教えてもらう。


第3戦の勝者はダチョウの魔鳥アサリリで、試合開始早々に呪術を発動して相手を串刺しにしたらしい。呪術を発動したアサリリの目の前に巨大な螺旋状の錐が現れると、相手に向かって突進して刺したとのことだ……なに、それ、怖い。


そして第4戦はカミニシが勝利したらしい。確かクズノセと話していた男だ。第4戦の結果を聞いた時は少し驚いた。対戦相手はクワガタの魔蟲だったはずだ。


兜主(かぶとぬし)さんを思い出させる黒く光る立派な外殻と巨体……組み合わせ表には「(くわ)(がたな)」と書いてあった。遠くから見ただけだが、かなりの強者だと分かり、クズノセと同じくらい戦いたくない相手だと思った。


だが、その鍬刀を相手にカミニシは圧倒的な強さで倒したという。始めは鍬刀が呪術を使い優位に進めていたらしいが、カミニシが呪術を発動すると鍬刀は1歩も動けなくなり、攻撃も防御もできずに切り刻まれて、あっという間に勝負がついたとのことだ。


リンからの説明を聞き、次から次へと現れる強者に溜息をつきたくなるのを我慢すると、俺は決闘場に向かった。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿しています。こちらも読んで頂けると嬉しいです

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