076 主への報告
本日も何とか2つとも投稿できました。説明回が多すぎてすいません。
「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品です。こちらも読んで頂けると嬉しいです
<(_ _)>
魔王選定の儀まで残り2日……3次試験が終わった次の日、俺たちは早々に森の中の会場を出発して、森の入口前にある野営地に戻ってきた。
受付で割り当てられたテントを教えてもらい、荷物を置いて野営地を散策する。野営地中央には石畳で作られた大きな決闘場が出来ていたので、決闘場を準備していた作業員にお願いして舞台に上がらせてもらった。
『懐かしいわね、私もここで戦って魔王になったのよ。あの時はまだ、呪術も第3段階までしか習得していなかったわ』
「……そうか、俺は第2段階までしか習得していないが、大丈夫なのか?」
『さぁ、分からないわ。正直、アンタに呪術が必要とも思えないし、問題ないんじゃない?』
リンの適当な返事に若干不満があるが、確かに今まで呪術を使いこなして戦い勝利した記憶はない。最後は大体、殴るか蹴るか首を絞めるかで倒してきた。それで勝利してきたのなら、それを貫き通すしか無いのかもしれない。
『まぁ、まだ第2段階までしか習得してないし、これからすごい呪術を習得するかもしれないわよ?』
「まぁ、そうだな。考えたって仕方がないか。考えるな、感じるんだってやつだ」
とりあえず、明後日始まる魔王選定の儀までにすることは何もないので、ゆっくりと体を休めて戦いに備えることにした。
◆
我が主に8名の魔王候補者について報告をするため野営地の外に出ようとすると、出来たばかりの決闘場に上がって、大きな声で独り言を言っているサイガ様を見かけた。
2次試験でも隣のテントから1人で話す気持ち悪い男がいると苦情が寄せられて困ったことを思い出す。仕方なくサイガ様には一番端のテントを割り当てて対応しましたが……。
(おっと、余計な事を考えてしまいました、急いで我が主に報告しなければ……)
私は野営地の外に出ると、誰もいないことを確認して呪術を発動する。
「呪術:遺思相伝 (いっしそうでん)」
呪術が発動すると我が主と意識が繋がるのが分かり、私は急いで膝をつき臣下の礼をとる。
<失礼します、我が主よ。今回の魔王選定の儀に臨む魔王候補者8名が決まりました。その8名についてご報告させて頂きたく思います>
<………ご苦労、報告せよ>
―――――――――――
――――――――
―――――
<―――以上が、魔王候補者8名となります>
<………引き続き、儀式のほう進めよ>
<了解しまいた。引き続き進めてまいります>
我が主と繋がっていた意識が切れた事が分かっても、しばらく臣下の礼を崩せなかった。圧倒的な存在感に押しつぶされそうになるのを必死に耐えて報告を終えても、まだ緊張している。呪術を発動する度に、私は意識が繋がることで直接伝わってくる魂そのものの強さに飲み込まれそうになり、寿命が縮んでいってるのではないかと思ってしまう。
とりあえず、我が主への報告は終了した。あとは引き続き魔王選定の儀に向けて粛々と準備を進めていくだけだ。それにしても、さすがは我が主だ。潜り込んでいる魔王3人ついても既に知っていたとは……つくづく恐ろしい方だと思ってしまう。
◆
決闘場の感触を確かめ終えた俺たちはテントに戻り、中に入ると昨日、カイに依頼した荷物が置いてあった。
俺は荷物を開けて中身を確認すると、特殊な紙に包まれた「死免蘇花(紫)」が2つ入っていたので、包みから取り出し確認する……きれいに乾燥され特殊な処理が施された魔草から、採取したときより更に多くの魔素と強い生命力を感じる。
『結構、早く処理が終わったのね。まぁ、明後日からの魔王選定の儀までには、間に合わせてもらわないと困るから、急いで準備してくれたのね』
「そうかもな。あと、『死免蘇花』がそのままでは、使えないことを教えてくれて助かった。リン、感謝するよ」
俺が素直に礼を言って頭を下げると、リンが少し驚いていた。
『アンタが魔王になるために協力するのは当たり前でしょ。今更、頭なんか下げないでよ。あと「死免蘇花(紫)」は超強力な治癒能力はあるけど、発動させるにはそれなりの魔素も必要なの。戦って魔素が消耗した状態じゃ発動しない可能性だってあるわ』
「確かにそうだな。まぁ、超強力な治癒を求める場面が、そうそうあるとも思えん。確か『死免蘇花(赤)』でも欠損部位を修復できる程、強力な治癒能力があるんだろう?」
メイさんか、オウカさんか、どちらかが確かそんな事を言っていたはずだ。身体の一部を完全に修復できる以上の治癒能力って一体どんな能力なんだ。
『そんなの簡単よ。死んでなかったら、どんな状態でも復活できるほどの治癒能力よ。手足がちぎれていようが、内臓が全て抜き取られていようが、被術者が生きてさえいれば全てを修復するわ』
「本当なのか……。そんな事、ありえるのか」
『ええ、本当よ。1度だけ使用するところを見たことがあるの。その時は胴体が真っ二つに切り裂かれた少年だったわ。発動と同時に少年の体は元通りに修復されたわ。夢かと思ったけど、地面に転がる少年の下半身が現実だと教えてくれたわ』
衝撃的な内容に思考が止まってしまう。奇跡としか言いようのない現象を実現させる呪術……それを使うことができる魔族とはいったい何なのか。考えても仕方がないのは分かっていても、つい考えさせられてしまう……。
『まぁ、正直、あまり考えても仕方ないわよ。呪術って、そんなものよ。あと、「死免蘇花(紫)」は、私が知る限りこの世に5本しかないわよ。アンタの入れると7本だけね』
もともと魔族だったリンからすれば、呪術とは身近にあり、当たり前のものなのかもしれない。元人間だった俺だから、つい考えてしまうのだろう……呪術とは一体なんなのか……。
哲学的な考えになりそうになったので、俺は気持ちを切り替える。脳筋な俺には決して向いていない作業だ。明後日から始まる魔王選定の儀に向けて今日は早く休むことにした。
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