071 魔王が3人
全ての受験者が割符を選ぶと、最高試験官のカイが周りを見渡して、再び説明し始める。
「皆さま全員が割符を選びました。これから3次試験を開始します。試験官の案内に従い、2次試験の成績上位者から順に会場を出てください。それでは始めさせていただきます!」
カイが試験開始を宣言すると、クズノセが試験官に呼ばれて会場から出ていった。アイツが2次試験1位なのか、油断ならない相手と思ったが予想以上に手強そうだ。会場から出るクズノセの背中を見つめているとリンが話しかけてきた。
『サイガ、今思い出したんだけど、あのクズノセってヤツ。筆記試験で満点を取った受験生の1人よ。2次試験でも1位となると、相当な実力者よ。割符の片割れをアイツが持ってる場合、かなり厄介なことになるかも』
「あぁ、そうだな。最悪、さっさと割符を渡して、別の割符を集めた方がいいかもしれないな」
リンと会話をしている最中も次々と会場を後にする受験者たち……俺たちが受験者を見送っていると試験官に呼ばれる。いよいよ俺の番が来たようだ。試験官の後に続き、会場の出口に向かう。途中でカイと目が合うと軽くお辞儀をされた。
出口に着き試験官を見ると頷かれて、森に入るよう促される。俺も頷き返し意を決して森の中へ入った。
◆
サイガという男の事を思い返す。少し話しただけだが、なかなか面白い男だった。全身から溢れる魔素は既に僕たち魔王に匹敵するほどだ。それにまだ若いのに、かなりの修羅場をくぐり抜けてきたのか肝が据わっている。本当に興味の尽きない男だ……。
「クズノセ、さっきから何をニヤニヤしている。気持ち悪い。いつまでここにいるつもりだ?」
「女の子に気持ち悪いと言われるのは悲しいな。シノジさんはこれからどうしたいんだい?」
僕が物思いに耽っていると、我慢の限界がきたのか同じく魔王であるシノジが腹立たし気に話しかけてきた。銀色の髪を肩口まで伸ばし、赤い目の上で前髪はきれいに切り揃えられている。史上最年少で魔王となった彼女は、いつも機嫌が悪そうに仏頂面をしている。
彼女を眺めながら、そんな事を考えていると、更にイライラとしながら声を上げる
「質問を質問で返すな。お前の提案で私もカミニシも、この魔王選定の儀に潜り込んだんだ。さっさとどうするか決めろ」
「ごめん、ごめん、別に悪気は無いんだ。そうだねぇ、この金貨で決めるのはどうかな?」
懐から金貨を取り出して彼女に見せると、意味が分からないといった表情になる。
「この金貨を投げるから、表裏で決めようか。表が出たらシノジさん、裏が出たら僕が割符を貰う。これでどうかな?」
「…………わかった、それでいい。さっさと投げろ」
不機嫌そうに答える彼女を見て、軽く肩をすくめる。僕は金貨を親指に乗せて弾くと勢いよく宙を舞い、くるくると回りながら落ちてくる。僕の目の前を通り過ぎる瞬間、彼女の手が伸び金貨を掴んだ。
「面倒くさい、割符はお前にやる。私は適当なヤツを狩ってくる」
掴んだ金貨と割符を僕に投げると、さっさと森の奥へ消えていった。思わず苦笑した僕は、彼女から貰った割符と懐から出した割符を1つにして、「二」と焼印された木札を懐に入れると、他の受験者の様子を見る為に森の奥へと向かった。
◆
森の中を適当に歩きながら獲物が釣れるのを待つが、一向に引っかからない。箱から割符を出すとき、あからさまに見えるようにしたのだが、少しわざとらしかったか。まぁ、もう少し様子を見て誰も釣れなかったら、適当に何人か狩ればいいだけだ。
「おい、カミニシ。まだ、割符は見つかっていないのか?」
ぶらぶらと当ても無く歩いていると、シノジが声をかけてきた。振り向くのも面倒なので、歩きながら答える。
「…………ああ、まだ見つかっていない。そろそろ飽きてきたんで、そこら辺の雑魚でも狩ろうかと思っていたところだ。お前たちの方はどうなんだ?」
「割符はクズノセにくれてやって、さっさと別れた。アイツは面倒臭くて好かん」
確かにクズノセとシノジでは相性は良くないだろう。クズノセは慎重な割に何を考えているか分からないところがあるし、シノジは何も考えず力尽くで物事を進めようとする。偶然のいたずらで2人が同じ数字の割符を選んだ時は、何か起こるかもしれないと思ったが、特に気にすることはなかったようだ。
シノジを無視して俺は更に森の奥へと進むと、遠くで戦っている2人の男を見つけた。おそらく、同じ数字の割符を巡って戦っているのだろう。ちょうど良いので2人とも倒して割符を頂こうと走り出そうとした時、背後から声がかかった。
「おい、カミニシ。あれは私が貰う。お前は、自分の獲物を狩れ」
合流してから初めてシノジの方を振り向くと、親指で後ろを指差していた。指差す方向に視線を向けると、遥か遠くでこちらを覗う中年の男が見えた。
◆
ヤツが割符を懐に入れる時にちらりと見えた文字は確かに「五」だった。他の受験者が割符を選ぶ時、呪術:眼光一徹で極限まで視力を上げて確認したので間違いないはずだ。
会場を出てすぐに森の中を適当に歩くヤツを見つけることができた。俺は呪術:眼光一徹を使い、なるべく遠くから慎重にヤツを観察する。紫の髪を後ろで束ね、切れ長の黒目が冷たい印象を与える。年齢は二十代ぐらいだろうか。若いのに3次試験に残るとは大したヤツだ。
しばらく観察していると銀髪の女と合流した。こちらはもっと若く十代前半ぐらいかもしれない。2対1と不利な状況となり、すぐに仕掛けなかったことを後悔するが、間もなく2人は別れた。
俺は安心して気が緩んでしまい呪術を解いてしまう。長時間、酷使して疲れ切った目を労わるように目頭を揉む。再び呪術を発動しようとヤツに視線を向けた瞬間、天地が反転した。
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