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007 再度の進化

俺は両手で抱えた巨大なリンゴにかじりついた。二度目だが、変わらぬ甘味に思わず感動する。わずかに熟成が進んだのか、昨日よりもさらに甘さが増している気がした。口の中いっぱいに広がる甘酸っぱい香りが、食欲をかき立てる。


昨日より美味くなったリンゴに気分は上がるものの、魔蟲(メインディッシュ)のことを思い出して、少しだけテンションが下がる。……とはいえ、いよいよヤツの番だ。俺は腹をくくった。


果肉の中を逃げ回る芋虫――魔蟲をつまみ上げて、じっと見つめる。さっきのとは明らかに違う。芋虫というよりミミズや蛇のような肉質をしており、一回り大きい。肌は黒く、体毛もなく、ぬめった光沢があった。頭には角のようなものが突き出ていて、硬く鋭そうだ。


……まあ、よくもこんなものを口に入れたもんだ。けれど、きっと、こいつのおかげで今の自分がある。そんな気持ちから、感謝と謝罪を込めて、そっと口に運ぶ。


先ほどの芋虫と違い、やはり鉄のような強烈な苦味があった。でも、我慢できないほどではない。覚悟していた分、落ち着いて咀嚼できた。


(……うん、やっぱり、不味い。吐きはしないけどね。大事な魔素だ、しっかり消化・吸収させていただきます。合掌!)


魔蟲を食べ終えた俺は、苦味を消そうと採っておいた小さなリンゴをかじりながら、しばらく様子をうかがう。……が、特に何も起きなかった。


仕方がない、と腹を括り、残っていた魔蟲と巨大リンゴもすべて平らげることにした。


かなりの大きさのリンゴの中には、まだ魔蟲が三匹も潜んでいた。こいつらをすべて食べるのかと思うと、気分は一気に急降下する。しかも、卵のようなものまであり、食べるかどうか正直悩ましい。


(だが――毒を食らわば皿まで、というし……うん、卵もろとも、親子で美味しくいただきます。合掌!)


結構な量の果肉と魔蟲を、甘味、苦味、甘味、苦味――旨い、不味い、旨い、不味い……そんなループを繰り返しながら食べ進めた。やっぱり、『味変』って大事だよね。


すべてを食べ終え、俺は取り込んだ魔素の消化・吸収が終わるのを、じっと待った。


……………………

………………

………


待つ。待つのだが――一向に呪術が発動する気配がない。

(お〜い、「二進外法」さん? まだですか〜? サイガさん、お待ちしてますよ〜?)


……………………

………………

………


やっぱり、何も起きない。どういうことだ? 呪術が発動したのは、実は別の理由だったのか?


たしかに、「既定量ノ魔素ノ摂取ガ…」とか言ってた気がする。けど、リンゴと魔蟲以外に魔素を取り込むような行動なんてしていない。……ていうか、そもそも「食べること」=「魔素の摂取」って発想自体が、間違ってる可能性もある。


……………………

………………

………


(うん、降参です! ギブアップ、もう無理です! いくら考えても、ぜんっぜん分かりません!)


というか俺、頭脳労働が大の苦手だから、軍人やっていたと思うんです。しかも最前線で、ゴリゴリの肉体労働やってたタイプですよ?


そんな人間に、こんな思考系クエスト仕掛けたって……無理があると思うんですよ。……お願いだから助けて、【知識の神の加護】さん!


《…………呪術とは、体系化された技術ではなく、各個体が持つ魔族特有の能力です。加護を付与された人間たちに、問われた呪術の知識・経験を持った者はいません》


うん、ですよね。情報ないよね。人間って呪術使えないし、そもそも俺みたいな存在なんて滅多にいないわけだし。


……う〜ん、困ったな。いや、別に困ってないか。今できることは全部やった。……うん、やったことにしよう!


俺は、最善を尽くした!


考えても分からない。教えてくれる人もいない。


しかも、日も沈みかけてるし……うん、これからのことは寝てから考えよう。全部、明日の俺に丸投げだ!


――おやすみなさい!


――――――――――――


魔族になってから、二日目の朝を迎えた。やはり今日も、魔族や魔物に襲われることはなく、ぐっすりと眠れた。……もう、この件についてあれこれ考えるのはやめよう。どうせ分かるはずがないし。


俺が魔族になってから、ほとんど食べるか寝るかしかしてないなぁ――と、寝起きでぼんやりしていると、いきなり頭の中に声が響いた。


<心身進化ガ完了シマシタ。既定量ノ魔素ノ摂取ヲ確認後、呪術『二進外法』発動サレマシタ。進化方針確定済ノ為、自動的ニ心身進化ヲ開始、完了シマシタ。既定量ヲ大幅ニ超エル魔素ヲ摂取シタ為、進化ノ深度ガ増大サレマシタ>


……は? 進化が完了した? しかも自動的(・・・)って何だよ。


昨日のように、身体が再構成される時のあの激痛――あれがなかったはずだ。……いや、眠ってたから気づかなかったとか、ありえるのか?


身体の状態を確かめるために俺は起き上がった。


「なんてこった……身体が、大きくなってやがる」


正確な体格までは分からないが、身長が伸びたのは明らかだ。視線が高くなり、遠くまでよく見える。視線を落として、自分の手足を確認する。脚は以前よりもずいぶん長く、腕は細く引き締まって、全体のバランスが良くなったように感じた。


あれ? 視線を落とせる? ……首が、ある?


昨日までは、足元を確認するのに腰を折らないといけなかったことを思い出す。そして、俺は、大きく進化したこの身体を確認するために、再び湖へ向かうことにした。


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