表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/202

069 少しの進化

風呂に入りゴブリンの血を落として、きれいになると少しは気分も落ち着いてきた。今ならリンに会っても問題ないだろうとテントに戻る。


『お帰りなさ〜い、サイガ。お風呂にする? 食事にする? それともア・タ・シ?』

「…………………」


俺はテントを出ると限界を超えそうな何かをグッと抑え込み、こめかみを高速で揉み始める。風呂で洗い流したはずの疲れが再び滲み出てくる。明日から3次試験なのにコイツは邪魔しかしない……もしかしたら敵なのか?


『ごめんね、サイガ。あまりに暇だったから、別世界の知識を漁っていたの。そしたら、結婚したての奥さんが旦那を迎える時に使う最上級の言葉ってあったから使ってみたの。嬉しかった?』


リンはテントから出てきて俺に謝罪したいのか、バカにしたいのか分からない言葉を投げかける。俺は青筋が立ちそうになるのを必死に抑え込み、明日から始まる3次試験に備えるためテントに入った。


携帯食を食べながら会場にいた魔族たちのことを思い出す。魔人の他に魔獣、魔蟲、魔鳥も見かけた……その誰もがかなりの実力を持っていることが分かった。明日の試験の内容次第だが、彼らと直接戦う可能性もあると思うと、若干気が滅入る。


『ねぇ、サイガ、お風呂から帰って来てから全然、話してないけど、お腹でも痛いの?』

「……さっき携帯食を食べていただろうが、何を言ってるんだ。話さなかったのは、お前に付き合ってたら疲れるからだ。明日は3次試験がある。少しでも疲れを取っておきたいんだ」


会場で見た他の受験者たちのことを思い出していると、リンが凝りもせずに話しかけてきたので、堪らず返事を返してしてしまった。正直、そろそろコイツと3次試験について話したいと思っていたから問題ないと思い込む。


「明日の3次試験だが、どんな内容になると思う。もう20名しか残っていない。いよいよ次で8人まで絞り込むんじゃないか?」

『……そうね、私の時も3次試験で最終試験を受ける8名が決まったわ。けど、前回は1次試験から3次試験の総合評価で決まったわ。今回みたいにふるいにかけるような試験ではなかったの』


なるほど、そこまで内容が違うとなると経験者のリンでも予想は難しいだろう。ただ、次の試験で最終試験を受ける8名が決まる可能性は高い。色々と考えて変に緊張するのも良くないし、結局やることは同じだ。今更焦っても仕方がない。


「まぁ、明日になれば分かることだ。深く考えても答えは出ないし、今日は早めに休ませてもらう。念のために忠告しておく。何があっても朝になるまで絶対に起こすなよ」

『何よ、それじゃ私がいつも朝になる前に起こしてるみたいじゃない。けど、分かったわ。約束する、何があっても絶対に起こさないわ』


コイツに記憶力はないのか……【知識の神の加護】を依り代にするときに無くしたのかもしれないな。まぁ、どうでもいい。俺は明日に向けて早めに休むことにした。


―――――――――


遮光性の高いテントの中に僅かながら光が差し込んでくる……東から昇る太陽の強烈な光を遮ることができなかったようだ。俺は若干の眩しさを感じながら目を覚まして周りを見ると、リンがこちらを覗っていた。昨日の約束を守り起こすのを我慢してくれたようだ。


『おはよう、サイガ。調子はどう?』

「ん? あぁ、問題ない。おかげでぐっすり眠ることが出来た。ありがとう」

『そう、なら良かったわ。ちなみにアンタまた、少し進化してるわよ』


自分の額を指差しながらリンは、俺に衝撃的な言葉を投げかけた。しばらく呆然としていた俺は我に返り頭を触ると、額当てのような外殻が出来ていた。額の外殻を辿っていくと、こめかみ辺りから次第に細くなり、耳の後ろを過ぎると無くなっていた。


「……なぜ、進化が始まった時に起こさなかったんだ?」

『だって、アンタが言ったんじゃない。朝まで絶対に起こすなって』

「…………………」


確かに言ったが、まさか進化が始まっても起こさないとは思わなかった。もし火事や泥棒が入ってきてもコイツは起こさないのか……。とりあえず、額の外殻について急いで確認することにする。


俺はテントを出ると会場の隅に設置された簡易の風呂場に向かう。だれも使用していないことを確認して、下着だけになると脱衣所にある姿見の前に立ち容姿を確認する。


額以外に特に変化は無かったが、体にある入れ墨のような紋様が増えていた。背中から肩を通り胸にかかる紋様の他に鳩尾を中心に縦長の円が2重に書かれていた。この紋様に何の意味があるのか分からないが、とにかく今は額にある外殻を確認する。


まずは魔素を集中すると硬質化できたので、そのまま更に集中し力を込めると角が生えた。兜主さんやサイの魔獣のような立派なものではないが、拳より少し大きな角が生えた。更に魔素を集めるがそれ以上の変化はなかった。


とりあえず、腕や脚の外殻と同じように硬質化と若干の変形が出来るようだ。ただ、残念なことに額にあった目が外殻に塞がれて何も見えなくなっていた。いくら額に魔素を集中しても外殻の硬質化と変形しかせず、目が開くことはなかった。


『サイガ、すごいわね。まるで鬼人のように角が生えてたわよ』

「あぁ、そうだな。正直、これが何を意味するか分からないが、3次試験前に進化できたことは、良かったと思っておこう」


進化した原因に関しては、予想がつく。昨日の巨大なリンゴ……魔紅玉を食べたことで魔素を大量に取り込んだせいだろう。迂闊といえば迂闊だが、進化するに越したことはないはずだ。


「進化したものは仕方がない。とりあえず、3次試験の説明が始まるまでに急いで準備を終わらせよう」

『そうね、あと数刻もすれば説明が始まると思うわ。急いだ方がいいわね』


俺は風呂場を出るとテントに戻り3次試験の準備を始めた。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ