067 謝罪と感謝
メリークリスマスです。
クリスマスなので長めに書きたかったのですが、
やはり力不足でした<(_ _)>
早速、俺は森に入って周りを見渡して、誰も尾行していないことを確認する。俺としては誰かが採取した「死免蘇花」を奪うつもりはない。まずは「死免蘇花」を探すのが先決だが、芋虫やサルの時代にお世話になったこの森を少しは探索したい。
『……アンタ、結構余裕あるわね。大丈夫なの? 20人しか合格できないのよ』
「あぁ、問題ない。リンが言ってたじゃないか、なかなか見つからないんだろ? なら、少しぐらい寄り道しても良いだろう。もしかしら、そこに生えてるかもしれないし」
リンが半目で睨むが、それを無視して湖がある方に進んでいく。リンの顔を見ると別世界の言葉を思い出す……確か『ジト目』だったか。とりあえず無視だな。
俺はメイさんから貰った地図を頼りに進んでいくと、懐かしい湖が見えてきた。更に進むとリンゴの林が目に入り、芋虫やサルだった時の思い出が溢れて来る。感慨深けに景色を見ているとリンが話し掛けてきた。
『ちょっと、何あれ? 隕石でも落ちたの? そこら中の木が倒れているじゃない!』
リンが若気の至りで調子に乗ってやってしまった自然破壊の跡地を指差して聞いてくる。確かオテギネさんは問題ないと言っていたし、問題があっても魔王になれば不問にできるはずだ。魔王になれなかった時は、素直に次の魔王に謝ろう。
「そうだな、凄いな。森の中の魔族も怯えていたんじゃないか、こんな光景を見せられたら」
『そう思うわ。隕石なのか竜巻なのか分からないけど、自然の力って怖いわね』
「あぁ、怖かっただろうな。怯え驚いた恐怖の眼差しは忘れられないな」
少し話が嚙み合ってないようだが、気にしないで先に進む。また、リンゴの林にあの巨大な実が生っていないか確認したいし、もし生っていたなら、もう1度食べてみたい。
リンゴの林に着くと周りを見渡し、巨大な実が生っていないか探してみるが、枝や葉が邪魔して地上からだと見つけるのが難しい。そういえば巨大な実の中に芋虫の魔蟲が寄生していたことを思い出し魔素を感知してみる。
俺は額の目も使い、ゆっくりと辺りを見渡し大量の魔素を感知する。その魔素を頼りに周囲を探索し、1本の大きな樹木を見つけて近寄ると、巨大なリンゴが生っていた。俺が魔素感知を行い確認すると、大量の魔素は魔蟲からではなくリンゴ自体の中に蓄積されている事が分かった。
巨大なリンゴが生っている場所は高かったが、今の俺には問題ない。軽く跳んで捥ぎ取り改めてリンゴを見ると、本当に大きく香りが良い。食欲を刺激された俺は我慢できず一口かじると、口の中に濃厚な旨味が広がる……さらに一口、二口と食べ進むと芋虫の魔蟲が現れた。
芋虫の魔蟲を掴まえて観察するが、大して魔素を感じない。呪術:二進外法が発動したのは、やはりこの巨大なリンゴに含まれる大量の魔素を取り込んだおかけだろう。とりあえず魔蟲は食べる必要がないことが分かったので、全て捕まえ捨てる。
『アンタ、それって魔紅玉よ。知ってて食べてるの?』
「いや、全然、知らん。美味いから食べているだけだが、問題あるのか?」
『まぁ、大した問題じゃないわ。それが「死免蘇花」より希少な物ってだけよ』
リンの説明によると、リンゴの木が地中にある魔素を取り込み続けて、10年以上の歳月をかけて育った果実を魔紅玉と呼ぶそうだ。味が良いのはもちろんだが、滋養強壮や長寿の効果もあり、丸々1個を買おうとするなら、魔金貨4枚は下らないらしい。魔金貨1枚が金貨1000枚の価値があるから途轍もない金額だ。
リンの説明を聞きながら魔紅玉を食べ終わると俺は、今でも忘れらずにいる場所へと向かった。
俺はリンゴの林を抜けて湖を周ると目的の場所についた。黒く輝く巨体はいまだに朽ち果てることはなく俺の目の前にある。俺は再び不帰の森の長であった兜主さんの所に戻ってきた。
後ろからでは良く見えないが、外殻の隙間から草や苔が生え、6本の足も全て胴体から外れて地面に転がっている。俺は正面に回り込むと、角が折れて片目を失った兜主さんの亡骸と対峙する。
兜主さんの顔を見ると残された深紅の目は色褪せていたが、そこには根を張り立派に育った紫色の「死免蘇花」が二輪、風に揺られ咲いていた。
『うそでしょ、こんな場所に紫色の「死免蘇花」が生えてるなんて……。そんな事があるの……』
目の前の光景が信じられず、リンは呆然としている。「死免蘇花」について何もしらないが、紫色の花弁を揺らす魔草はとても美しく採取するのを躊躇わせる。だが、「倒した相手の持ち物を貰い受ける習わし」だったか……都合が良い考えだとは分かるが、今、これが必要だ。
俺は兜主さんの前に立ち、手を合わせて目を瞑り死して、また再び傷つけることを謝罪する。そして、ゆっくりと目を開けて地面に膝をつけると、俺は兜主さんから生える「死免蘇花」をそっと魔核ごと取り上げる。
「本当にすまない。そして、死んだ後も助けてくれたこと深く感謝する」
兜主さんにお礼をいうと、丁寧に二輪の魔草を肩掛けの中に入れた。
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