066 難解な試験
メリークリスマスイブです。
本当はクリスマスSSみたいのを書きたかったのですが、
力不足でした。
来年は何か書いてみたいです。
昨日、合格発表の掲示板を確認した俺たちは、ララが派遣した文官に結果を伝え、そのまま宿に戻った。そして、今朝、宿を出ると馬車が止まっており2次試験の会場まで送ってくれるとのことだった。御者に尋ねると、昨日の文官が手配してくれたことを教えてくれた。
『よかったわね、サイガ。トップで合格できて。けど、私たち以外にも満点を取った人がいるとは少し驚いたわ。私は魔王として執務を行っていたから分かって当然だけど……』
「あぁ、そうだな。俺はただお前の言われるまま回答しただけで、何の手応えもないが」
馬車に揺られながら、外の景色を見ているとリンが話し掛けてきたので、適当にあしらう。窓の外には馴染みのある景色が広がっている。あの丘の向こうに広がる麦畑にはテントウムシの魔蟲・テンテンさんがいるのだろうか。
俺たちは2次試験の会場となるリーハイ領の「不帰の森」へ向かっている。リーハイ領を治める主はオテギネさんで、試験会場となる「不帰の森」は兜主さんが治めていたところだ。
俺は魔族に生まれ変わったあの森に再び戻ろうとしている。
―――――――――
2日で不帰の森に着くことができた。途中で野営をしたが、野盗や魔物に襲われる事もなかった。森の入口には臨時で設けられた野営地があり、その中でもひと際大きいテントを見つけて入ると、受付を行うため大勢の魔族が並んでいた。俺もその列に並び手続きを済ませる。
受付をして割り当てられたテントに入り、荷物を置くと無造作に横になった。既に1次試験に合格した受験者60人は全て揃ったとのことだった。ちなみに1次試験を受けた魔族は1000人を超えていたそうで、過去の魔王選定の儀の中でも、最も多い人数になったらしい。
『サイガ、いよいよ明日から2次試験が始まるわ。これからが本番よ。筆記試験とバカにしてはダメよ。上位の魔族にバカはいないわ。特に満点を取った魔族は注意した方がいいわ』
「そうだな、もともと実力に自信がある魔族ばかりなんだ。油断なんてするつもりはない」
明日の2次試験に向けてリンが注意を促すが、俺も油断などしない。受付に並んでいる時に周りの魔族を確認したが、かなりの実力を持った魔族が数人いた。奴らは必ず最後まで残るだろう……もちろん、俺も最後まで残るつもりだ。
俺は明日の試験に向けて早めの食事をとる。背嚢から携帯食を取り出して、口に放り込み水筒の水で流し込むと、腹も満たされたので、これからの試験の流れについてリンに確認する。
『―――――というわけで、その時々で試験の内容は変わってくるわ。会場も毎回違うし対策のしようは無いわ。共通して言えることは、魔王となる王領内で行われるってことだけよ』
「わかった。要は明日にならないと分からないということか。ぶっつけ本番だな」
リンの説明を受けて覚悟を決める。とりあえず明日の試験のために早めに就寝することにする。寝る前にあまり早く起こさないようリンに釘をさした。
―――――――――
朝起きて準備を済ませると、野営地の中央にある広場に集まるよう試験官に言われる。これから2次試験について詳しい説明があるらしく、しばらく待っていると魔人の青年が現れた。
「皆さん、おはようございます。そして、1次試験合格、改めておめでとうございます。これから2次試験の説明をしたいと思います。1度しか言いませんので、聞き逃しのないようにお願いします」
ノーベさんが着ているような黒い燕尾服に黒い襟締めをした青年は、カイと名乗り魔神に仕える魔人であり、この魔王選定の儀の最高試験官だと説明した。青い髪の間から角が見えるので鬼人なのだろう。物静かな佇まいだが、内から溢れる魔素は凄まじく、かなり上位の魔族だと思われる。
「それでは2次試験について説明します。この不帰の森の中央に3次試験のための会場を準備しています。皆さまにはそこを目指してもらいます。ただし、会場に入るためには条件があります。条件とはこの森に自生する魔草『死免蘇花』を持って来ることです。種類は問いません。条件はただそれだけです。会場に到着した上位20名を2次試験の合格者とします」
『………なかなか難解な試験を用意したわね。「死免蘇花」の採取なんて、上位の魔族でもかなり難しいわ。確実なのは最奥にある群生地に行くことだけど、そこまでの道のりを考えると現実的ではないわ。白色なら運が良ければ森の中央付近でも見つかるかもしれないけど……』
カイの説明を聞いたリンの表情が険しい。それだけ厳しい条件ということだろう。だが、悩んだところで何も解決はしないし時間の無駄だ。だが、1つだけ気になることがあったのでカイに質問する。
「1つ質問しても良いか?」
「どうぞ、問題ございません。何なりとお聞きください」
俺が手を挙げて質問の許可を求めると、カイは胸に手を当て優雅に一礼をして質問を促す。
「条件のことだが、『死免蘇花』を持って来るだけで良いのか? 自分以外が採取したものでも問題ないか?」
「……はい、問題ございません。条件は自生している「死免蘇花」を持ってくることだけでございます。誰が採取したかなど問うことはございません。」
「わかった、ありがとう。理解できた」
カイの回答でこの試験について理解することができた。つまり、誰かが採取した「死免蘇花」を奪っても問題ないのだ。この試験は「死免蘇花」を見つけ採取し会場まで守り抜くか、採取した魔族から奪い会場まで持って来るか、どちらを選択しても良いのだ。
「他に質問も無いようですので、試験を開始したいと思います。皆さま、準備はよろしいでしょうか? それは始めさせて頂きます」
カイが右手を上げると、森中に響き渡る大きな号砲が鳴った。
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