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062 精神の統一

魔王選定の儀に向けた修練を始めてから1ヶ月が過ぎたが、いまだに魔素を感知することはできない。ただ、肉体の鍛錬に関しては飛躍的に成長したと思う。中庭での修練を禁止する代わりに、ララが町から少し離れた所に修練場を準備してくれた。


最初はただの平原だったが、修練から帰る度にノーベさんが必要な物はないかと尋ねてくるので、思いつくまま遠慮なく要望を伝えると、次の修練までに準備してくれた。今では様々な施設や道具類が配置されている。


この1ヶ月は、ひたすらに肉体を虐め抜く鍛錬を行った。様々な障害物がある修練場を倒れるまで何周も走り、体力が回復すると巨大で頑丈な金属の壁に打撃技を只管に打ち込んだ。金属の壁は修練初日に使った柱より硬く、魔鉄を中心にいくつもの金属を混ぜ合わせた合金で作られているらしい。


人間の時に修めた武術「滅心磨刀めっしんまとう流格闘術」……始めは何も思い出せなかったが、体を動かすたびに思い出すことができた。まさに頭は憶えてなくても体は覚えているというやつだ。


――――朝食を終え部屋に戻り、これまで1ヶ月の事を思い返していると、リンが部屋に入ってきた。


『サイガ、準備はいい? 今日こそは魔素を感知できるように頑張るのよ!』

「あぁ、準備は終わった。早速、中庭に向かうか」


リンに発破を掛けられ気合を入れる。1日でも早く魔素が感知できるようになるため、更に集中力を高めて中庭に向かう。


―――――――――


中庭に着くと、早速、魔素を放出してみる。この1ヶ月で操作に関しては格段に上達した。放出した魔素は既に20歩以上離れているが、消えることはなく飛び続け、近くに漂っている魔素は10個以上ある。


『魔素の操作は凄く上手になったわね。あまり意味は無いけど』

「うるさい。何か成長を感じないと、意欲を維持できないんだ。ほっといてくれ」


感心しているのか、呆れているのか、分からない表情でリンが話しかけてくる。正直、このまま続けても魔素を感知することはできないような気がする。訓練に付き合っているリンだが、特に助言もなく、たまに野次を飛ばすだけだ……何のためにコイツはいるのか疑問だ。


『そんなの分かってるじゃない、暇潰しよ。修練方法は教えたんだから、後はアンタ次第でしょ』

「はぁ〜、まぁいい。少し試したい事がある。人間の時に修めた武術だが、かなり思い出すことができた。その中に精神を統一するものがあった。何かの手掛かりになるかもしれない。試したが良いか?」

『ふ〜ん、いいんじゃない? このまま続けても埒が明かないし、気分転換にやってみれば』


リンはあまり深く考えずに許可を出した。正直、それでいいのかと思うが、確かにこのまま根を詰めても良くないと思う。気分転換も大事だと思い、試してみることにした。


俺は座禅を組んで目を瞑る。額の目が開くかと思ったが閉じたままだった。邪念を払い息を深く吐くと、地面に接している臀部に意識を集中する。教えでは大地の精気を感じ吸収するというが、全く何も感じない。とりあえず、魔素を臀部に集めた。


臀部に魔素を集め終わると、徐々に上げていき、丹田で止めて深呼吸をする。更に魔素が集まり鳩尾まで上げると、周りの音が聞こえなくなる。胸の中心まで上がった魔素を留めて、再び深呼吸をする。吐く息は熱いが、体は逆に冷えていく。喉を通り過ぎると、リンの気配も感じなくなる。眉間を通り額に到達した魔素を、更に小さく集めると、額にある目が開いた。


!!!!!!


俺の頭の中に不思議な情景が飛び込んできた。興味深々でこちらを覗うリンの周りに銀色に光る粒子が漂っている。よく見ると胸の部分には拳より少し大きな銀色の光球が輝いている。周りに目を向け観察する……薄っすらだがそこら中に光る粒子が漂っているが、リンの周りにある粒子と違って銀色では無かった。


ゆっくりと目を開くと、額の目は閉じて不思議な光景は見えなくなった。


『ねぇ、どうだった? 何かの手掛かりになった? やっぱり無かった?』

「……………………」

『なに黙ってるのよ。何か言いなさいよ、やっぱり駄目だった?』


先程の事象について考えているのに、リンがしつこく尋ねて邪魔をする。少し整理するから黙ってほしいが、無理だろう。俺は諦めて、さっき体験した事象について説明をした。


『ふ~ん、なるほどね。ちょっと、額にある目に魔素を集めて開けてみて』


リンに言われるがまま、目を閉じ額に魔素を集めると、目が開き先程の情景が見える。


『ねぇ、今の私って、どう見える?』


リンの方へ目を向けると、先程に増して周りには粒子が集まっていたが、胸にある光球は小さくなり、2つに別れていた。俺は目に映る光景を説明した。


『…………。アンタ、一体なんなの? 多分だけど、魔素が見えてるわよ……』

「やっぱりか。そうかもしれないと思っていたが、これが魔素か」


額の目を通して見える粒子が魔素だと認識して、改めて周りを見ると大気や地面、草木とあらゆるものに魔素があることが分かる。


「これが魔素を感知するってことか。やっと呪術を極める修行に入れるな!」

『何を言ってるの? 寝言は寝て言って。アンタ、魔素が見えるだけで感知なんて出来てないじゃない』


俺が喜んでいると、リンは冷たく言い放った。きっと以前、言ったことを根に持っていたのだろう。つくづく良い性格をしている。とりあえず、魔素を感知するための修練は、まだまだ続ける必要があるようだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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