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059 魔素の説明

『サイガ、起きて。もうすぐ朝よ!』


目を開けると、宙に浮いている元魔王がいた。勝手に男子の部屋に入るとは非常識な女だと思いながらもベットから起き上がる。外を見るとまだ暗く陽は昇っていない。なんでこんな早くに起こされたのかリンに尋ねた。


『だって、暇なんだもの。この体は睡眠を必要としないようなの。いくら寝ようとしても眠れないの』


……なんて自分勝手な奴だ。【知識の神の加護】も断りも無く依り代にして消してしまい、俺の楽しみの1つを奪いやがった。まさしく別世界に君臨するという大魔王サンタさんだ。真っ赤なお鼻のキュートなトナカイさんに乗った恐怖の魔王だ。夜な夜な「悪い子はいねぇか」と包丁を持って各家庭を襲う鬼の中の鬼だ。


『……アンタ、多分それ、色々と間違って憶えてるわよ。って、そんなことは良いのよ。早く起きて準備しなさいよ。朝食前に呪術や魔素について簡単に説明するから』

「いや、ちょっと待て。なんで、そんなに急ぐんだ。陽が昇る前にしか出来ない事でもあるのか?」

『無いわよ。さっき言ったじゃない。暇なのよ、暇! 分かったら早く準備して』


もう何も言っても無駄だろう……。俺は早々に諦めてリンに付き合うために朝の支度に取り掛かる。


「おい、いつまでそこに居るつもりだ? 今から着替えて準備するから出て行ってくれ」

『えぇ〜、良いじゃない。減るものじゃないし、着替えてるところ見せてよ』


……確か元々は敵同士で俺はコイツを殺そうとしたと聞いたが、何でこんなに親し気なんだ。……少し鬱陶しいな。


「全然、良くないし、見られていると俺の精神的な何かが減る。いいから早く出てくれ」

『ケチ臭いわね。少しぐらい良いじゃない』


なおも食い下がろうとするリンをひと睨みすると、しぶしぶと部屋から出て行った。リンが居なくなったことを確認して、素早く着替えて部屋を出る。外で待っていたリンは俺に気付くと、中庭まで案内してくれた。


中庭に着くとリンは早速、魔素について説明を始めた。魔素とは、この世を構成する全ての物質の元となる特殊な粒子であり、大気中はもちろん地中や鉱物などの物質にも含まれている。魔族は魔素を体内に取り込むことができ、その魔素を消費することで呪術を発動させている。


ついでにリンは、呪術と魔法の違いについても簡単に説明してくれた。魔法は魔素を「材料」と考えている。例えば水魔法は大気中にある魔素を水に変換している。それに対して呪術は「燃料」と考えている。いくつかの条件を成立させて、体内にある魔素を消費することで呪術は発動する。


上位の魔族でも魔法と呪術の違いを説明できる者は少ないらしい。魔素を感知することができるリンだからこそ、ここまで詳しく違いについて説明できるとのことだった。


「なるほどな、呪術と魔法の違いは分かった。1つ聞きたいが人族も魔素を感知しているのか。体外の魔素に干渉するということは必要な能力のような気がするが…」

『いいえ、魔素を感知する能力はないと思うわ。少なくとも勇者たちは誰も魔素を感知していなかった。魔素はどこにでもあるものよ、意識して使う必要はないわ。普段、息をするとき酸素を意識して吸ったりしないでしょう?』


リンの説明に納得する。確かに必ずある物を意識して使う必要はないかもしれない。あるという前提で干渉すれば魔法は発動するということだろう。それなら個人差はあるが、全ての人族が魔法が使えるのも納得ができる。


「良く分かった。色々と教えてくれて助かる。しかし、俺も魔法を使っていたかと思うと不思議な感じだな」

『そうね。けど、サイガ、私と戦っていた時は強化魔法と治癒魔法以外は使ってなかったわよ。しかも、勇者たちと違って特殊な使い方だったわ』

「そうなのか? 水魔法と土魔法も使えると加護が言っていたが、水球を飛ばしたり、地面を隆起させたり、そんな魔法は使わなかったのか?」

『ええ、使っていなかったわ。逆に聞くけど本当に使えたの? 全然、使えるようには見えなかったわよ』


確かに【知識の神の加護】は人間だった時は土魔法と水魔法が使えていたと言っていたはずだ。まぁ、使えるというだけで大した威力ではなかったのだろう。今となってはどうでも良いか。


「まぁ、使えない魔法の事は、今は置いておこう。魔素や呪術については大体分かった。それでこれから魔素を感知するために何をすれば良い?」

『フフフ、そう慌てないで。もう陽も昇ってきたわ。お腹が空いたんじゃない? 続きは朝食後にしましょう』

「そう言えば、だいぶ明るくなったな。分かった、続きは朝食の後だな。ちなみに、なんでわざわざ中庭に出たんだ。部屋の中でも良かったと思うが……」

『なんでって、特に意味はないわ。ちょっと、外の空気が吸いたかっただけよ』


……つくづく自分勝手な奴だと思いながら深い溜息をついた。



食堂にサイガと姉さんが入ってきた。朝早くから魔素と呪術について、姉さんから色々と説明を受けていたようだ。サイガの顔には若干の疲れが見える。


「2人とも朝早くからお疲れ様。サイガの顔色を見ると、姉さんからみっちり鍛えられたようね」

「まあな。1つ訂正すると『朝早く』ではなく、『夜が明ける前』からだ」


サイガが嫌そうな顔で訂正して後ろでは姉さんが楽しそうに笑っている。


『まぁ、いいじゃない。別世界の言葉でいう「早起きは3キラもお得」ってヤツよ』

「何を言ってるんだ? そんな言葉は知らん。そういえば、少しは加護も残っているって言っていたが……」

『そうよ。眠らなくて良いから暇を使って、別世界の言葉を色々と教えて貰ってるの。いいでしょ?』


姉さんが嬉しそうに自慢するとサイガは憮然とした表情をして溜息を吐いた。そして、私の方を振り向いて尋ねる。


「朝からこの調子でずっと揶揄われて困っている。リンは魔王だったんだろ。こんな軽い感じで魔王は務まっていたのか?」

「……そうね。なんだか雰囲気が変わった気がするわ。以前はいつも追い詰められ余裕がない感じだった。でも、今はかなり明るくなったかも……」

『確かにね、魔王の重責から解放されたのは大きいかもね。配下の者たちには申し訳ないけど……。あとは、やっぱり生まれ変わったことが大きいわ。サイガ、あなたも同じよ』


自責の念に駆られ表情が少し暗くなった姉さんだが、気を取り直して私たちに説明を始めた。


『私の呪術で2人とも魂を抜かれ、新たな肉体うつわに魂が注がれたわ。まぁ、私の場合は肉体うつわは無いけどね。肉体うつわの形によって魂も多少は影響を受けるの。根本的な部分は変わらないけどね。サイガの場合は肉体うつわが若返ってた事で精神も若返ったんじゃないかしら? 私と戦っていた時は良くも悪くも老けてたわよ』

「老けていたって……。確かリンと戦ってた時は28歳だったと加護から聞いたぞ。そんな老けていると言われる年齢ではないはずだ」

『あら、そうなの? 正直、30歳は超えていると思っていたわ。意外と若かったのね』


悪気無く言う姉さんを軽く睨んだサイガは、大きく溜息を吐くと疲れたと言わんばかりに近くの椅子に乱暴に座った。

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