057 姉妹の再会
『……ララ、私が見えるの? もしかして、声も聞こえる?』
「ええ、見えるわ、声も聞こえる。やっぱり、姉さんはそこに居たのね。しっかりと存在は感じられても見えなくて不安だった……」
姉妹2人の間に挟まれながら俺は事の成り行きを見守っている……。何が何だか分からないが、感動の再会を邪魔する訳にはいかない。正直、真名とか聞きたいことはあるがグッと我慢する。
「もしかしたらと試したけど、良い方向に影響が出て……。本当に良かった」
『私の魔名だけでは影響は無かったけど、ララの魔名と真名をサイガに教えたのが良かったのね……』
2人は目に涙を浮かべ喜び合っている。1人だけ取り残されている俺は姉妹を見比べて違いを探して時間を潰す。……瞳の色と髪の長さぐらいしか違いがないな。俺がひたすらに時間を潰すが、一向に2人は感動の再会を止めてくれない。別世界の言葉で言う『ぼっち』状態だ。
もうそろそろ、いい加減に声をかけても良いだろうかと思っていると、アメキララは俺の方を向いた。
「ごめんなさい、1人だけ無視しちゃって。真名とか、色々と聞きたいわよね。もう真名も教えちゃったし、私のことはララって呼んで」
『そうね、真名も知ってるわけだし……。私のこともリンって呼んでいいわよ』
謝罪したララは、真名やリンが見えるようになった理由を説明してくれた。
ララの説明によると、真名とは魔名と対になる名前のことで魔人しか持たない。他の部族と違い、個に重きを置く魔人にとって名前はとても重要らしい。確かにオテギネさんに仕えているメイさんも同じことを言っていた。
ただ、真名を教えるということは魔名以上に呪術から受ける影響が強くなる。真名と魔名……2つの名前を知られることは呪術を使う戦いにおいて大きな不利となる。
上位の魔族でも大事な決闘以外では魔名も名乗らない。その魔名も他の魔族に教えることはしない。そして、よほど信頼している魔族以外に自分の真名を教えることはない。
「……なるほど、真名については分かった。だが、俺に教えた理由は何だ? ララの真名を知ることは俺の呪術から受ける影響が強くなるだけで、リンの呪術とは関係ないと思うのだが……」
『それは私から説明するわ。あくまで推測の部分が多いけど……』
ララから引き継ぎ、リンが説明を始める。
リンの呪術:器死回生は、術者と被術者を生まれ変わらせる。呪術を発動する時にリンの魔素はほとんど無かったらしい。いくら発動条件が命を懸けることだとしても多少の魔素は必要になる。
魔素不足により不完全に発動してしまった呪術:器死回生が術者と被術者の魂を抜く時、2人の魂が混じり合ったのではないかというのがリンの推測だ。
不完全な呪術は条件を満たしてもリンを完全に生き返らせることができなかった。意識体となったリンは【知識の神の加護】を依り代にして、なんとか俺の前に姿を現すことができた。ただし、リンを認識できるのは俺だけという不確かな存在となってだが……。そして何故、俺だけが認識できたのか。それは魂が混じり合い繋がってしまったことが原因とのことだ。
では、どうしてララが見えるようになったのか。魔名と真名を知ることで俺とララの魂は僅かだが繋がり、俺と混じっているリンの魂とも間接的ではあるが繋がることでき、お互いを認識できるようになったのではないか……。
………すごいな、リンもララも。説明を聞いたが、さっぱり分からん。この姉妹は実は凄く頭が良いのではないだろうか。それとも俺がバカなだけか……。まぁ、どちらにしろ俺が理解できないことには変わりない。これ以上は考えても無駄なような気がする……。そう、考えるな、感じるんだ!
『………まぁ、あなたが、それでいいなら問題ないじゃない。「結果オーライ」ってヤツよ』
「ごめん、姉さん。何を言ってるか、分かんないだけど……」
「おっ、それは別世界の言葉だな。リンもやるな!」
ララが困惑した表情でリンを見ている。俺は知らない別世界の言葉に気分も上がるが、何故かリンは顔を両手で隠して俯いている。耳を見ると真っ赤だった……なぜだろう?
―――――――――
俺たち3人は再び、どうすれば俺が呪術を極められるかを話し合う。ララとリンも会話が出来るようになり議論は順調に進んでいく。
「つまり、あなたの第1段階の呪術は強化系ね、しかも自動発動型。第1段階の割には強力な呪術ね。使い勝手は悪そうだけど」
「まぁ、そうだな。始めに進化の方針を聞かれただけで、それ以降は勝手に進化している。進化に法則もないようだ」
『あなたの呪術は、だいたい分かったわ。やっぱり、呪術を繰り返し使って習熟を深めるのは無理そうね。なら、魔素を感知する能力を習得するしかないわね』
リンが呪術の習熟を深めるための方法を提案した。「魔素を感知する」とは、どういう意味だろうか。ララはリンの提案に驚いているようだが……。
「姉さん、それは無理なんじゃない!? 魔素の感知は先天的な能力よ。どんなに努力しても身につくものじゃないわ!」
『普通はそうだけど、サイガと私の魂は僅かだけど混じり合っている。可能性は低いかもしれないけど、魔素を感知することができるかもしれないわ』
「……確かにそうかもしれない。魔素を感知できるようになれば、呪術の習得は一気に進む。私たち一族が呪術に長けているのは、魔素を感知する能力が高いから。特に私たち姉妹は一族の中でも最も高い。その姉さんと魂が混じっているなら不可能ではないかも……」
姉妹2人の間に挟まれながら、俺は事の成り行きを見守っている……。何が何だか分からないが、難しい話を邪魔する訳にはいかない。さっきも似たようなことがあったが気にしない。
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