056 魔名と真名
「……そう、じゃあ、姉さんはそこにいるのね」
アメキララは俺の左側を見ながら呟いた。俺はアメキリンを見ると、そっと右側に移動してた……。本当に酷いヤツだ。
「……まぁ、という訳で魔王は生き返ったが、中途半端な状態のまま。俺しか見えないし会話もできない。正直、これを生き返ったと言って良いかも分からん」
「ええ、でも、確かに姉さんを感じるわ。本来、肉体と一緒に生き返るはずだった。だけど、何らかの理由で呪術は不完全のまま……」
「『だったら、呪術を完成させればいいのよ!』」
アメキララとアメキリンの声が重なり頭の中に響く。
「……わかった。で、完成させる方法は?」
「『そんなの、知る訳ないじゃない!!』」
さらに2人の声が重なり頭に響く……コイツら、本当に姉妹なんだなと、意味もなく感心してしまった。
「了解、わかった。なら、完成させる方法を探さなきゃならんが、どうする?」
『それは、私に考えがあるわ。サイガ、悪いけど、今から言う事をララに伝えてもらえる?』
「……あぁ、分かった」
―――――――――
「――――というのが、アンタの姉さんからの提案だ」
「なるほど、それは良いかも……。サイガがこの王領ジュウカンの新たな魔王となって、姉さんを元に戻す方法と人間に戻る方法についての手掛かりを探す。まぁ、実際は組織を作って配下の者に探してもらうんだけど。それに魔王なら他領の情報も手に入り易いし、色々と都合がいいわね」
「……正直、俺には分からんが、そんな簡単に魔王なんてなれるのか? なったとしても、俺なんかの指示を他の魔族が聞いてくれるとは思えないが……」
いきなり魔王になれと言われて、若干混乱している俺は細やかな抵抗を試みる。
「それは大丈夫よ。あなた、姉さんに勝ってるし。それに気付いてないようだけど体内にある魔素の量、半端ないわよ。既に魔王級よ」
「まぁ、魔素については分からんが、腕には多少の自信はある。だが、魔王って強いだけでなれるものなのか? それにどうやって魔王になるんだ?」
「そっか、そこから説明しないとダメなのね。姉さん、お願いしても良い?」
『仕方ないわね、分かったわ。サイガ、聞いてくれる?』
アメキリンが俺に説明してくれることを伝えると、アメキララは執務があるということでノーベさんと一緒に食堂を出て行った。俺たちも部屋に戻り、魔王選定の儀について詳しく説明してもらう。
魔王選定の儀は筆記試験から始まり、身体能力検査など様々な試練を受けて、最終的に8人まで絞り込まれる。そして、最後は組み合わせによる勝ち上がり方式で決闘を行い、勝ち残った1人が魔神から魔王の称号を貰えるらしい。
「なるほど、わかった。正直、筆記試験で落とされると思うが、大丈夫か?」
『そこは大丈夫よ。私がいるから問題ないわ。一緒に行って教えてあげる』
「いいのか、それは? 『カンニング』だぞ」
俺が別世界の言葉で批判するとアメキリンが半目で睨む。
『「カンニング」って何よ、それ? まぁ、不正扱いはされないはずよ。知能って言っても統治する能力があるか確認する為のものだから。もし、バレても私っていう呪術を使ってるとしか思わないわ。知能はあった方がいいけど、魔王たる最も重要な資格は強さよ。強くなければ、全ての部族を纏めることは出来ないわ』
「そうなのか、ちなみに魔獣や魔蟲とかも筆記試験を受けるのか?」
『いいえ、字が書けない魔族には口頭による試験が用意されているわ。だいたいは、意思疎通に長けた獣人が試験官になるわね』
とにかく筆記試験は問題ないことが分かり安心した。あとは魔王選定の儀まで、どうやって過ごすかだな。セップさんもまだ、この町にいるだろうし会いに行ってみるかな。
『何言ってるの? 選定の儀まで3ヶ月しか無いのよ。今のままでも魔王になれる可能性は高いけど、確実にするため出来る限り強くなる必要があるわ』
「確かにそうかも知れないが、どうやって強くなるんだ? これ以上は魔素を取り込み進化をしたら、人ではなくなってしまう気がするんだが……」
正直、これ以上の進化は勘弁してほしい。最初は生き残るために進化してきたが、もう十分に強くなったと思うし、更に進化したら人間に戻れなくなるかもしれない。
『人ではなくなるって……。そこは大丈夫だと思うわ。これ以上の進化には途轍もない魔素を取り込まないと駄目なはずよ。肉体を作り変えるなんて簡単に出来ることじゃないわ。進化も緩やかになっているようだし』
アメキリンの言葉で安心したが、なら強くなるために何をすれば良いのだろうか。今まで殴る蹴るで戦ってきた俺が強くなる方法とは何だろう……俺はアメキリンに尋ねる。
「それじゃ、どうやって強くなるんだ?」
『……呪術を極めるのよ』
「呪術を極める」とは……。アメキリンの説明では呪術を使い続けることで新たな呪術を習得することがあるらしい。つまり自分の呪術を深く理解して習熟していくことが呪術を極めることになり、新たな呪術を身につける方法だそうだ。
しかし、俺の場合はそれができない。自分の意志で呪術は発動できないし、使い続けることも難しく、発動したのは4回だけで全く理解していない。
―――――――――
俺たちは再び食堂に戻り、どうすれば俺が呪術を極めることができるか、アメキララを含めて話し合っている。しかし、なかなか答えが出ずに重々しい空気が室内を漂っている。
「サイガ、ちょっと、今の話とは関係ないけど、執務中に思いついたことがあるの。ちょうど3人揃っているから試してもいい?」
「なんだ、いきなり。まぁ、確かにアメキリンも此処にいるが、何をするんだ?」
俺は背後を指差してアメキララに尋ねた。後ろを振り向くとアメキリンも不思議そうな顔をしている。
「まぁ、ちょっと聞いてくれる。私の魔名は『雨雲母』。もう一つの真名は『雨木楽々』よ。ちなみに姉さんの真名は『雨木凛』」
「『………………』」
いきなり、何を言っているんだ……。真名って何なんだ。それに魔名って、魔族はどれだけ名前を持っているんだ。
意味が分からず俺が唖然としていると、2人は目に涙を浮かべ見つめ合っていた。
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